富士山依存からの脱却なるか インバウンド先進県の課題
2000年代半ばからWi-Fi環境の充実、各国語による情報発信を推進するなど、先進的なインバウンド施策で成果をあげてきた山梨県。しかし、観光客は「富士山」周辺に偏っており、広域の周遊には課題を残している。
今、多くの都道府県で、2020年に向け増え続ける訪日観光客向けに、域内各所へのFree Wi-Fiの設置、各国語によるエリアポータルの開設が、鋭意進められている。
ところが、その一方で、すでに10年も前に、行政と経済界の協力により、それを成し遂げてしまった先進的な県が存在する。山梨県である。
10年前の英断で“インバウンド先進県”に
同県では、2006年ごろから、県内1000ヵ所にFree Wi-Fi環境を実現し、さらに、そこには多国語による「幟」を立てるなどして、外国人の目につくようにし、エリアポータルとして「http://www.pref.yamanashi.jp/english/tourism/index.html」を作り、来県した外国人観光客向けに現地情報を提供。
このサイトは、実に、世界9ヵ国語対応で、しかも、各国語のウェブマスターには、それぞれネイティブな外国人を起用。
未だに英語・簡体字中国語・韓国語くらいしか対応しない自治体が多く、しかも、日本人アルバイトや自動翻訳による精度の低い翻訳が圧倒的に多い中にあって、山梨県では、10年も前から、それほど高水準の情報発信を実現していたのだ。しかも、来県した外国人がSNSに投稿をしてくれたら、記念品を進呈するなどのサービスを展開。
それらに要するコストに関しては、各地域の商工会議所がエリア内の企業・商店に対して、強力な働きかけを行い、「受益者負担」の原則を貫いて、企業・商店に少しずつお金を出させたという。ちょうどその頃、富士山が世界遺産登録され、外国人の殺到が予見できたことも、「追い風」になったようだ。
さらに、県として、外国人の来県を、特定の季節や月に集中させることなく、年間を通じて平準化させ、安定的な観光収入を確保できるよう、国ごとの休みの時期(訪日しやすい時期)を調べ、ターゲット国を設定、集中的な営業をかけるという手法を採用。
こうした努力の結果、同県は、訪日外国人訪問率11位、同延べ宿泊者数10位、同延べ宿泊者数伸び率1位(以上、2014年)、そして、「外国人が興味を持っている日本の都道府県ランキング」(ジャパン・ガイド調査、2015年9~11月期)6位という輝かしい成果を創出するに至っている。
しかし、それにもかかわらず、同県観光業は、深刻な悩みを抱えているという。
“富士山観光依存”の限界を露呈
実は、山梨県観光には大きな問題がある。それは、東京圏からの地理的近接性ゆえに、日帰り客が全体の約7割を占める点であり、また、エリア的にも、観光客が富士東部圏域(46%)に偏在する傾向が強いという点だ。
インバウンドに関しても、東京→富士山→京都→大阪という“ゴールデンルート”上に位置しているために、多くの訪日客が来るものの、宿泊するまでには至らず、特に、富士山周辺以外のエリアには行かない傾向が大きい。
さらに言えば、欧米からの訪日客は、広島を訪問地に入れる比率が高いため、最初から山梨県をスルーする傾向もある。
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