2016年2月号

国土強靭化への提案

防災はトップダウンからボトムアップに 「地区防災計画」の威力

西澤 雅道(地区防災計画学会会長代理(内閣府大臣官房総務課企画調整官))

0
​ ​ ​

東日本大震災の教訓から、地域コミュニティの防災力を強化するために創設された「地区防災計画制度」。各地でモデル事業がスタートして1年たち、さまざまな成果が表れてきた。計画づくりを成功に導くためのポイントとは何か。

災害時に力を発揮するコミュニティの「共助」

東日本大震災では、多くの市町村職員が被災して行政機能が麻痺し、消防などによる救助活動(公助)の限界が明らかになった。救われた命の多くは、自力での脱出(自助)、あるいは家族や近隣住民など災害現場にいた人によってなされた救助活動(共助)によってつながれた。

津波の危険が迫ったとき、小学生が日ごろの防災教育「津波てんでんこ」により自主的に避難し、その姿に地域の高齢者や大人も呼応、結果的に多くの命が救われた「釜石の奇跡」は、自助が共助に結びついた好例と言えるだろう。そうした幾多の事例から、非常時に自助・共助が大きな役割を果たすこと、それらを公助と連携させる重要性が強く認識された。

この教訓を踏まえて2013年6月の災害対策基本法改正で創設、2014年4月に施行された制度が、住民が立案して行政に提案する「地区防災計画」である。従来の国→都道府県→市町村へのトップダウン型であった防災計画に、地域特性や現況をよく知る住民主体のボトムアップ型を加え、地区の防災力を強化していこうとするものだ。14年度は全国15か所がモデル事業の対象地区に選定された(15年度には、新たに22か所が対象地区に選定された)。

地区防災計画作成への流れ

内閣府 地区防災計画ガイドラインより

地区防災計画が機能する条件

制度の創設に関わった地区防災計画学会会長代理の西澤雅道氏(内閣府大臣官房総務課企画調整官)は「地区防災計画は立案・策定して終わりではなく、それをきっかけにして信頼関係を築き、地域コミュニティの結束力を高めることが大事です」と言い、計画づくりで成果をあげる地域にはいくつかの共通点があると指摘する。

まず、住民の自発性・主体性。住民同士の関わりが薄くなってきた昨今でも、東日本大震災などを契機に「自分たちの地域は大丈夫か?」という意識が醸成され、自主的に防災活動をする人たちは一定数存在する。こうした人々がリーダーや中心メンバーとなり、地区防災計画が動き出すことが多い。また、住民自身がコミュニティと考える単位(町内会、小学校の通学区、同じマンションや職場など)で、自分たちにできる範囲から無理のない計画づくりを行い、時間をかけて完成度を高めていくことが大切である。

もうひとつは継続性である。計画をコミュニティに根付かせるために積極的に防災訓練などを行うことが必要だ。その際には、参加者が“面白い”と思える仕掛けづくりも重要となる。「ある地域では、子どもに水消火器で消火の実演をさせたり、炊き出しを皆で一緒に食べたりと、訓練をお祭りのような楽しい雰囲気で行っています。その結果、住民同士が仲良くなればそれだけでも価値があるし、災害時にも大きな力になるでしょう」と西澤氏は言う。

西澤 雅道 地区防災計画学会会長代理(内閣府大臣官房総務課企画調整官)

また、計画は訓練の反省や住民の状況を踏まえて進化させていく必要があるため、リーダーや担当者は一定期間続けてその役を担うことが望ましい。

さらに、行政や事業者、大学、他の地域コミュニティなど多様な主体との連携ができていると、計画立案が上手くいきやすい。例えば、事業者との連携によって、資金やマンパワーの問題を解決することができたり、行政との連携によって防災計画に必要な知識やノウハウを得たり、計画の実効性を高めたりすることができるだろう。

成功事例と今後の課題

具体的に、地区防災計画の策定事例を見てみよう。

日本初となるマンション地区防災計画を策定した横須賀市臨海部のマンション「ソフィアステイシア」は、地域住民に防災意識を根付かせるためにさまざまな工夫をしている。自主防災会の主導のもと居住者約1000人の台帳が作成され、災害時要援護者と独居高齢者の情報を把握しており、全世帯に自主作成した危機管理マニュアルも配布。東日本大震災では、高校生が高層階の高齢者などに生活物資を運んで活躍し、2013年には中学・高校生によるジュニアレスキュー隊が組織された。毎年行われる防災訓練は行政や消防とも連携した本格的なもので、ハシゴ車による高層階からの救助訓練などでイベント性も演出、居住者の3分の1が参加するという。

石川県加賀市吉崎町と福井県あわら市吉崎地区では、県境を越えた地区防災計画づくりが進んでいる。県境が住宅街を通っている両「吉崎」では、両県の定めた避難基準が違うことから、住民は2015年1月から基準の一本化に向けた協議を始め、共通の防災マップ作成などに取り組んだ。10月には両県の住民170人が参加して合同の避難訓練が行われた。訓練は避難基準がより厳格な石川県に合わせて行われ、高台のあるあわら市側の小学校を避難場所とした。これは、コミュニティ同士の広域連携のモデルケースと言える。

こうした成功事例の一方で、課題も残る。地域内でも地区防災計画に対する意識に差があり合意形成が難しいことや、行政の対応力不足などだ。

「前者については、防災計画に限らず地域活動を活発に行い、相互理解を深めていくことや、ソーシャル・キャピタルが充実することへの期待を高めていくことが解決につながるでしょう。後者については、行政の意識改革が必要です。防災担当の職員が十分に配置されていない中、地区防災計画の立案をサポートするのは確かに大変ですが、住民主体の防災が根付けば、結果的に行政の負担は大きく軽減されます」

地域防災力の向上と地域活性化は、表裏一体の関係にある。行政もそのことを認識し、住民による計画策定を強く支援していくべきだろう。

地区防災計画をコミュニティに根付かせるには、防災訓練などを通じて、楽しみながら意識づけをすることが重要(横須賀市ソフィアステイシアの防災訓練、地区防災計画学会提供)

0
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

購読申し込みで全記事が読める

初月無料キャンペーン実施中

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。今なら

初月無料キャンペーン実施中