2015年12月号

2025年問題 超高齢社会の新ビジネス

「昔の玩具」が医療現場で人気 「吹き戻し」が美容・健康に効果

山本博一(ルピナス 代表取締役社長)

2
​ ​ ​

口で吹くとピロピロと伸びて、クルクルと戻ってくる昔ながらの玩具「吹き戻し」。それを口腔ケア用品として開発し、医療・介護現場への導入を進めているのが、広島に本社を置くルピナスだ。そのアイデアは、「独自の勘」によって生み出された。

古くから親しまれてきた玩具「吹き戻し」。ルピナスは、「吹き戻し」を呼吸力アップのトレーニング器具として開発した

昔ながらの玩具である「吹き戻し」。幼い頃、誰もが一度は遊んだ経験を持つ、昔懐かしい玩具だ。広島県三次市に本社を置くルピナスは、この玩具を口腔機能改善のための口腔ケア用品として開発・発売している。

そのアイデアは、長年医療現場に身を置くことで鍛えた「経験に基づく勘」によって生み出された。

テレビ番組を見て「ひらめき」

ルピナスの社長・山本博一氏は、医薬品販売会社の営業マンとして20年近く、医師・病院を相手に薬剤等の卸を担当してきた。そして独立し、医薬品の卸会社を自ら設立。介護福祉用具のレンタル販売を手掛けるようになってから、「病気に患ってから対処療法をするより、病気にならないように身体機能を維持すべきだ」と考えるようになった。

「呼吸力と嚥下力は、加齢とともに衰えます。嚥下力が低下するから食事が困難になるし、誤嚥性肺炎も発症しやすくなる。肺炎になってから治療するのではなく、肺炎にならないよう口腔機能を改善するほうが良いはずです。そこで、口腔機能改善に使えそうな商材を探し始めました」

山本博一 ルピナス 代表取締役社長

吹き戻しも頭をよぎったが、「単なる玩具では医療現場に受け入れられない」と、当初は商品化しようとは思わなかった。

「吹き戻しが売れる!」と確信したのは、あるテレビタレントの一言がきっかけだった。兵庫県淡路島にある吹き戻し工場を紹介したテレビ番組内で、通常より長い吹き戻しを吹いたタレントが「これは、しんどい」と発言したのだ。その時、「吹き戻しに負荷をかければ、リハビリになる」とひらめいたのだという。

すぐさま山本社長は、淡路島にある玩具用吹き戻しで国内シェア80%を占めるメーカー「吹き戻しの里」を訪ね、それを医療・介護のために活用したいと直談判。口腔ケア用品として、商品化を見据えた開発が始まった。

ルピナスは「長息生活」の商品名で、吹き戻しを販売

大学と連携し、効果を実証

山本社長がもっともこだわったのが、エビデンス(効果があることを示す根拠や臨床結果)だった。医療・介護で使ってもらうには、効果を数値で示す必要がある。

そこで長崎嚥下リハビリテーション研究会の会長、山部一実氏に指導を仰ぎ、商品を改良。通常負荷の「吹き戻しレベル1」と、負荷をより加えた「吹き戻しレベル2」を商品化した。

医療・介護用品の開発に不可欠な「医療機関との協力関係」をつくれたのは、山本社長がサラリーマン時代、医療関係者と対等に渡り合えるほどの医学・薬学知識を徹底的に学んだこと、数多くの医療現場で場数を踏んだことが大きい。

そしてルピナスは、広島県三次市の産学連携事業にも参加。県立広島大学福祉学部の協力を得て、吹き戻しの伸長に必要な呼気圧を測定してもらったところ、「呼気持続時間の延長」、「発生持続時間の改善」、「水飲み速度の改善」など、呼吸や嚥下機能の改善効果が確認された。

効果が数値化されたことにより、医療機関も吹き戻しに注目し始めた。誤嚥性障害の予防に吹き戻しを採用する施設が少しずつ増加し、吹き戻しへの注目は高まっていった。

2011年に三次市販路拡大事業の助成を受け、全国規模の展示会へ出展したことから、認知度が向上。売り上げがジリジリと上がり始め、年間3万本が売れるようになった。

この頃になると、行政も吹き戻しに強い関心を寄せるようになる。2012年には広島県商工労働局医工連携推進チームが、広島県のモデル事業の協力企業として、ルピナスを抜擢。県内8ヵ所の医療機関・介護施設で実施されたトレーニングにより、「吹き戻しは訓練用具として有効である」という評価を得た。こうして吹き戻しは、「広島県が認める、口腔機能維持のための訓練器具」となったのである。

「慣れ親しんだ物」の強み

ルピナスの吹き戻しは、現在、「長息生活」という商品名で販売中だ。当初のレベル1、レベル2に加え、負荷の軽いレベル0も開発。形状記憶の素材を使用し、紙の重さをすべて一定にするなど、「常に同じ呼気力でトレーニングできる」仕様になっている。吹き口にはシリコンを採用するなど、「玩具とは違う質の高さ」が特徴で、特許も取得した。

2013年には美容業界からの依頼で、OEMでインナーマッスルと小顔づくりを目的とした改良型商品を開発。医療業界での売り上げも伸び続けている。

販売拡大に成功した秘訣として、「高齢者は自分が知っている物でなければ手に取らない」と、山本社長は語る。

「高齢者は変化を好みませんから、見たことのない物、使い方の分からない物には心を動かされません。吹き戻しは、懐かしい玩具だったから抵抗感なく安心して使ってもらえました。日本の伝統工芸など、慣れ親しんだ商材をどう医療・介護用品として発展させるかが、ビジネスのカギです。私は43年間医療現場にいたから、吹き戻しを見て勘が働いた。本当に喜んで使ってもらえる商材は、現場経験のある人でなければ生み出せません」

ルピナスは、2016年から海外進出を計画している。高齢化が進行しつつある中国ほか7ヵ国に進出予定だ。広島県の中小企業が、世界から注目される日も近い。

ルピナスの「吹き戻し」は、医療・介護の現場でも使われ始めている

2
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

社風が変わる、イノベーターが育つ

地方創生・イノベーションにつながるアイデアと思考に注目!

志高い、ビジネスパーソン・行政・NPO職員・起業家が理想の事業を構想し、それを実現していくのに役立つ情報を提供する、実践的メディア。

最新情報をチェック。

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる