2015年6月号

パイオニアの突破力

つながる心、つながるパス イメージの共有が戦術の幅を広げる

鈴木 啓太(プロサッカー選手)

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ひとつのボールをめぐり、22人の選手が入り乱れるフィールド。常に変化し続ける戦況の中で、合図も出さずにパスを出し、ボールをつなぐためには、チーム内で戦術を共有意識としてもつ必要がある。その礎となるのは、普段の練習中のコミュニケーションがつくり出す信頼関係。浦和レッドダイヤモンズのMF、鈴木啓太氏に戦術のつくり方を聞いた。
文・小島 沙穂 Playce

 

鈴木 啓太 プロサッカー選手

敵味方22人の選手がひとつのボールを巡り、フィールドを駆ける。45分×2の90分間、常に動き続ける戦況を分析し、チームが攻撃を仕掛ける際、ボールが動く中で生まれる隙がある。

その隙を狙い、繰り広げられる駆け引きも、サッカーのおもしろさのひとつと言えよう。

相手の隙に付け入る能力はもちろん、自チームの隙を小さくすることも、勝つために重要な能力である。浦和レッドダイヤモンズ(以下、レッズ)のMF、鈴木啓太は、そのリスクマネジメント能力に優れた選手のひとり。チームの中~後方を支え、アシストをする。そのプレーは数々のピンチをチャンスに変えてきた。

しかし、最近彼のプレースタイルにはある変化が現れた。これまでの守備型のプレーとは異なり、鈴木自身が攻撃に転じるケースが増えてきたのだ。これは、レッズの現監督、ミハイロ・ペトロヴィッチ氏の影響が大きい。

大切なのはチャンスを見逃さず“挑戦”すること

「今でも守備には強い自信があります。しかし、今は守備だけではなく、攻撃も両立することが監督に求められているんです」

ペトロヴィッチ監督がレッズを指揮するようになって4年。鈴木は前線でも戦えるMFとなっていた。

ドリブルして前に出て、チャンスがあればゴールを狙う――このプロセスは彼以外の選手の役割で、そのサポートに徹することこそが鈴木の役割だと思っていた。しかし、ペトロヴィッチ監督は彼に『チャンスがあればどんどん前へ行け』という指示を出す。最初は多少違和感を覚えたが、指示通り前に出ることを意識するうちに、攻撃することにも楽しみや喜びを感じるようになっていた。

「もちろん、今でもリスクマネジメントは僕の重要な役割だと思っています。しかし、監督にはそれ以上のことを求められている。監督には『失敗してもいいから、チャレンジしろ』とよく言われます。自分がきちんと戦術を立てたうえで、そのプレーをしたのだとすれば、もし失敗してもそれはよいプレーなのです。監督に『ブラボー』と言われると自分もうれしいですし、今後もどんどん挑戦していきたいと思いますね」

相手の戦術をいかに崩すか

鈴木のポジションはボランチ。フィールドの中心のMFとして、FWとDFをつなぐ舵取りの役目を担う。

「ある試合で相手に対しプレッシャーをかけたい場面で、自分が普段いるポジションではなくて、相手のディフェンス最終ラインの付近のセンターフォワードというポジションを取った時がありました。相手のディフェンス陣がボールを回す目の前まで行って、プレッシャーをかけたんです」

相手チームの戦術が最も活きる場面はどこかを想像する。そして、その最悪のケースを阻害できる動きを実行する。本来の守備範囲を超えて動くことは、自チームにとって大きな隙となる可能性はあったが、チャンスを逃すまいと喰らいついた。

「相手にとって絶対に嫌だろうというところで僕がプレッシャーをかけました。それがうまくハマって、相手を乱すことができたんです。試合前のビデオ分析でも、『こうしたら面白い』という戦術がずっとあって、その戦術通りに動くことができました。ほぼ一試合そのゲームをレッズが支配できたんです。考えていた戦術がぴたりとハマる時はとても楽しいです」

監督の指示に従い求められるプレーをつくり上げる

もちろん、サッカーはチームのスポーツ。チームの方向性を指揮するのは監督である。チームのメンバーがそれぞれ監督のオーダーを自分なりに解釈し、監督に何を求められているかを考える。そして、周りの選手と共有しながらプレーを組み立てていく。

『チームの中の3人が同じイメージを共有して動くことができれば、ある程度相手のチームを崩せる。4人が共有できたら世界のトップクラブと互角以上に戦える』――ペトロヴィッチ監督はチームにそう語る。共通の指示を受けていても、それに対して個々が感じる思いや考えるプレーには差が出る。それをチーム内でいかに共通意識として認識していくかが難しい。

だからこそ、普段からコミュニケーションをとり、お互いがどんなことをしたいのか、確認しておくことが重要となる。

「レッズでは、『俺はこういったら君はこう行ってくれ、こうしたらこうしてくれ』などと、チーム内で細かく話し合います。サッカーはチーム全員で、監督の描くプレーをつくっていくスポーツですから、『こうしよう』という指標を共有しておかないと、よい結果をつくりだすことはできません」

45分×2という長い時間をかけて行われるサッカーは、一試合すべての時間帯で自チームが優位に立てることはまれだ。相手が優位な時間帯もあれば、レッズが場を支配する時間帯もあるし、どちらでもないときもある。ゲームの流れを読みながら、あらかじめ話してあった内容を元に個々が動く。そして、攻撃役の選手たちがゴールへ向かって働ける環境を、チーム全員で整えていくのだ。

戦術の読み合いに勝った方が試合も制す

試合では、まず相手がどのような攻撃を仕掛けてくるのかを読み、相手の戦術を崩していかなくてはならない。

「もちろん、試合前に過去の試合ビデオなどで研究しています。その他、当日の選手の様子、ゲームに入った瞬間の動きから、相手がどんな攻撃を仕掛けたいのか、何を狙ってプレーしているのかを見極めるように意識しています」

ボールを奪いに行く選手が、相手プレイヤーにわざと少し寄ったり離れたりして、相手のプレーを崩す。個々人が駆け引き、誘い込み、騙し合いが行われる。他のスポーツでもこのような駆け引きは行われるが、サッカーは敵味方22人という大人数で行われることが特徴だ。

例えば、ボールを奪いに行く時に、自分が奪うことはできなくとも、近づいてプレッシャーをかけることで相手の進路を狭めることができる。パスの範囲が限定されるため、後ろにいる仲間がその範囲で仕掛けていける。そうして、チームでボールを動かしながら隙をつくっていくのだ。もちろん、敵チームもプロであるから、なかなか隙は生まれない。

「スタジアムの上から見て敵味方の動きを把握できれば、一番戦況を読みやすいんですが(笑)。僕はコートの中で走る選手ですから、動きながら平面の状況で見て、想像して判断します」

写真提供:URAWA REDS

チーム内で意識を共有することの重要さ

相手の隙は一瞬、こちらのチャンスも一瞬。コンタクトなしでオートマチックにチームが動けることが、チャンスをつかむためには必要だ。

例えば、ボールを持っている選手が左サイドにいる味方に視線を向ければ、相手選手は「左にボールを蹴るだろう」と予測できる。しかし、見ないで蹴れば相手は予測できない。かといってパスを受ける味方も、パスがどの方向に出るか予測できないとそのボールはつながらない。だからこそ、仲間を見ずともパスの意志を伝える訓練を日ごろから重ねておかなければならない。練習の中で「パターンAならば○○をする」「パターンBならば▲▲をする」など、状況を想定したパターンを決め、コンタクトなしで動く練習を積み重ねていくことが必要となる。

「練習中や試合時のひらめきなど、戦術の発想が生まれる瞬間はさまざまです。その発想は必ず仲間と共有します。仲間として同じ練習場で練習を繰り返すうち『この選手がこの状況でボールをもったら、ここに蹴ってくれる』『あの選手なら出したボールを受けに走ってくれる』といったことがわかるようになってくる。信頼関係が生まれるんです。それは、ボールに直接触れる選手に限りません。後ろでディフェンスする選手、前線でパスを待つ選手にも、すべてが連動してはじめて、そのチームが試合の流れをつくることができるのです」

時には、敵味方ともにだまさないと突破できない事態に陥ることもある。そんな時はこれまで打ち合わせしたことのないパスでも事前の説明なく放つ。しかし、これまでずっとコミュニケーションを積み重ねてきた仲間になら、意図が伝わる。そう信じてパスを出すのも戦術の一手だ。

引退後もサッカーと生きていきたい

「サッカーも世界の縮図なんですよ。チーム内やサポーターとの関係はもちろん、Jリーグや日本代表の選抜制度も社会の構図と同じ。さまざまな選手、スタッフがいる中で、チームを強化したり、マネジメントの上で、試合という興行を行う。それもまたビジネスですよね」

そう語る鈴木は昨年33歳となり、引退後のことを考える時間も増えてきたという。もちろんできる限り現役でサッカーを続けたい。しかし、プレイヤーを辞めなくてはいけない時が、この先必ずやってくる。

「選手として今こうして活躍できているのは、自分が子どもだったころ、当時活躍していた多くのプレイヤーに、たくさんの夢と希望をもらってきたから。プレイヤーとなってからも、サッカーを通じてさまざまな恩恵を周りの人々にいただきました。どんな形であれ、それを還元していきたい。選手引退後には、僕がこれまでサッカーから学んできたことを活かせる事業が行えればうれしいです」

単に“サッカーをする人”というだけで、サッカー人生を終わらせたくない。選手としての幕を閉じた後も、サッカーに関わる仕事の選択肢はいくらでもある。

「かつて僕が憧れた選手たちが、今別の場所で輝いているように、僕もまた、続く子どもたちにとっての指針、指標のひとつになれればと思います。ただ、それはまだこれから先のこと。今は選手として活躍できればと思います」

鈴木 啓太(すずき・けいた)
プロサッカー選手
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