声なき需要こそイノベーションを生む

歩合外務員の全面廃止、国内初のインターネット証券スタート、コストゼロの信用取引導入など証券業界の常識を覆す大胆な手法で世間の話題をさらってきた松井道夫氏。大正7年から続く老舗を業界屈指のインターネット専業証券会社に変えた証券界の寵児が岳父から事業を継いだ当初、意外にも他社と変わらない経営をしていたという。

継いだ当初は不満だらけ、人真似ばかりの経営

前職で勤めた日本郵船のある丸の内のビル群を背景に臨むオフィス。偶然にも屋号同様、6階に入居している

松井証券に入社したのはバブル景気に突入したばかりの1987年です。日本郵船で11年働き、結婚してしばらくして妻の実家が営む証券会社を継ぐことに決めました。岳父は継ぎなさいと言わないばかりか、事業の話すら一切しません。その姿を見て「じゃあ、好きなように生きます」と割り切ることができず、自ら継ぎたいと申し出ました。

その頃、周りはバブルに浮かれていましたが、私は「なんと醜い商売か、今に罰が当たる」と感じていました。当時の証券業界は手数料が法律で決められていて、価格競争がありません。会社の売り上げを担うのは個人事業主のような歩合外務員なので、会社に売上目標もありませでした。「何故こんなところに来てしまったのか」と不満を覚え、社内外で「証券業界は罰が当たる」と言う日々でした。さらに同業他社と同様に支店をつくったり、社員の営業員に営業目標を課してみたりと、人真似のありきたりな経営を行い、失敗しました。

松下幸之助の言葉に「執念ある者は可能性から発想する。 執念なき者は困難から発想する。」という言葉があります。不満ばかり言うその頃の私は、今と比べれば執念も主体性もない人間だったと思います。年月を経て、失敗を繰り返しながら少しずつ主体性のある人間になっていきました。「執念」は「主体性」という言葉に置き換えられます。主体性のない人は困難からしか発想せず、不満を口にします。主体性のある人は誰かのせいにせず、突破口を探し、自分で決め、責任を取ります。トップが不満を持ったら終わりです。人に責任を押し付けて逃げおおせるほど、リーダーは甘くありません。

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