全国自治体が取り組む災害時の外国人対応(岐阜、静岡、岡山、群馬)

日系外国人をはじめとした定住外国人が増えるなか、地震、津波、台風などの災害から、いかに身を守る情報を伝えられるか。いま自治体にその対応が求められている。特に日本語に不慣れな外国人への情報伝達が課題となっている。

IT活用からリーダー育成まで

やさしく日本語を伝えるだけでなく、英語、ポルトガル語、中国語、韓国語など多言語によるアナウンスも必要となってきた。

熊本県の地震のように、災害はいつどこで起きるか予測不能であり、緊急時の対応に日頃からの準備が欠かせない。たとえば、2015年9月に起きた関東・東北豪雨の際、茨城県常総市に在住する多くのブラジル人は、防災無線の内容を理解できず、避難場所もわからないまま、困難な状況に置かれてしまった。

常総市は、人口6万5000人の4%に当たる約4000人が外国人で、その大半がブラジル人であった。にもかかわらず、災害状況や避難勧告は、防災無線による日本語だけでしか放送していなかったため、そのほとんどが伝わらなかったのが原因だ。

市は、今後の改善点として挙げるものの、人命を預かる行政機関として、災害対策で後手に回ってしまった感は否めない。

ではどうすれば、より迅速で確実に情報伝達できるのだろか。6自治体の取り組みを参考に考えてみたい。

 

岐阜県美濃加茂市――住まいの事前把握は困難なので広報車で巡回

危機感が薄いブラジル人へ避難勧告

岐阜県美濃加茂市は、災害対応をする防災安全課と、在住外国人に対応する地域振興課多文化共生係が協力し、日本語とともにポルトガル語による防災無線と、広報車両の巡回による情報発信を行っている。

11年9月に、台風15号で豪雨で木曽川の水位が上昇し、支流にあたる加茂川で堤防の決壊が心配された際、避難勧告の出た、外国人居住者の多い地域で、ポルトガル語による防災無線放送を行った。

放送は、原文を防災安全課で作成し、これをポルトガル語のできる多文化共生係の国際交流員が翻訳して読み上げた。さらに、放送を聞き逃してしまった外国人がいる可能性もあり、現場での対応を考えて、広報車両で対象エリアを巡回し、ポルトガル語で伝えるなどの迅速な行動をとった。

市民協働部地域政策課多文化共生係の大里誠治氏は、当時を振り返り「防災無線の内容は事前に雛型を用意していますが、浸水場所などの状況は刻々と変わり、場面ごとに翻訳して伝えなければならないことも多くありました。また、日本語には『~する模様』『~する見込み』などの曖昧な表現があり、これを直訳しても、台風や地震などをあまり経験したことのないブラジル人は、差し迫った危険を感じないのではと思いました。そこで、『~してください』というように明確な指示として伝え、刻々と変わる状況を知ってもらうおうとTVニュースを必ず見るようにアナウンスしました」と語る。

しかし、問題となったのは広報車両の巡回コースだった。外国人の多くが居住している建物は、事前に把握されておらず、これまでの情報から、推測による巡回を行うしかなかったという。

「市への申請などから、居住地域や建物などを推測するしかありませんでした。プライバシーの問題もあるため、事前に把握するのは難しく、今後の課題として残りました」と改善点をあげる。

さらに近年は、フィリピン人の居住者も多いため、英語での対応も求められるようになってきたという。また時間帯も検討課題として残った。平日の勤務時間内であれば、市役所と現場で外国語の堪能な国際交流員が分かれて対応できるが、夜間や週末祝日になると、国際交流員の一人態勢となる。このため緊急時の初動の遅れが心配され、検討材料となっている。

 

静岡県掛川市――課題は多言語を話せる専門職員の勤務態勢

ポルトガル語で津波の緊急放送

静岡県掛川市も防災無線で同様の効果を上げている。11年の東日本大震災の際は、津波による被害を懸念し、避難勧告の発令と津波注意報解除を市内全域に流し、沿岸付近の居住外国人に対しては、ポルトガル語と英語による緊急放送を行った。

実施したのは、災害対策本部広報班と危機管理課(当時市民安全課)で、互いに連携を取りながら、日本語の原稿を災害対策本部で作成し、それを多言語対応職員が翻訳。内容を確認したのちに、災害対策本部から防災無線を行った。

危機管理課の曽田彰彦は「沿岸地域に住むブラジル人は、津波を経験したことがないので危険ではないか、と判断しました。そこで初の試みでしたが緊急時ということもあり、ポルトガル語による防災無線を行いました」と語る。

地震発生から約2時間後に、避難勧告を発令した防災無線は、その後、在住外国人から高く評価され、特に日本語の不得手な人達にとって、有効な情報になったと喜ばれた。また、市民の不安を取り除くため、防災無線で最初にこれから外国語で放送することを伝えるなどの配慮も行った。東日本大震災以降は、防災本部にポルトガル語専門職員を配置し、防災訓練でも英語とポルトガル語による訓練放送を始めた。

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