マイナンバー、民間企業へのチャンスは? 新経連キーマンに聞く
マイナンバー制度や個人情報保護法の改正は、民間企業にどのような機会や変化をもたらすのか。新経済連盟マイナンバー民間利用促進PTのリーダーである、テクマトリックス社長の由利孝氏に話を聞いた。
公的個人認証サービスに期待
―マイナンバー制度は民間企業にどのような機会をもたらすのでしょうか。
マイナンバー制度の利用範囲は、当初、社会保障と税、災害対策の3分野への適用に限定されているが、今後民間利用が拡大される。まず、準公的な領域である医療分野や、税との近接領域にある金融分野から利用が始まるだろう。
個人番号カードには電子証明書が格納され、この証明書を使った公的個人認証サービスは民間企業にも開放される。これまで保険証や免許証を提示して行っていた本人確認も、個人番号カードを提示すれば済み、またネット上で電子証明書を使うこともできる。ネットショッピングをはじめ、さまざまな利用シーンが考えられるし、民間企業にとってビジネスチャンスがあるだろう。公的個人認証をビジネスで活用する場合、総務大臣の認定が必要であり、早ければ3月中にも認定の基準が公表されると聞いている。
スマホや保険証でも利用へ
―政府の姿勢をどう評価していますか。
国は、省庁を超えてマイナンバー利活用に積極的な姿勢を見せている。そもそもマイナンバー制度は、頓挫してしまった住基ネット制度を根本からやり直して、すべての国民がメリットを享受できる番号制度のインフラを作ろうという狙いだ。それ故、特に総務省の意欲は高く、普及に向けてさまざまな仕掛けを行っていくようだ。
例えば、スマートフォンに個人番号カードの機能を搭載し、行政手続きをスマホ経由で簡単に行える仕組みが検討されている。これは非常に重要で、マイナンバー利活用のベースにスマホがなるべきだろう。
また、安倍晋三首相からは個人番号カードを健康保険証と一体化したいという発言があった。これが実現すれば、高齢者を含めてカードの利用機会が増えるだろう。これは画期的な発言で、カードを普及させるためのキラーコンテンツであり、大きな一歩だ。
カルテ等医療情報との連携 厚生労働省も前向き
―医療分野での利活用への期待は。
特に医療分野は、医療費削減が叫ばれる昨今、番号制度の利活用が最も期待される分野だ。
医療の中でも、最も医療費削減につながるとみられるのは予防だろう。メタボ検診や予防接種の分野は、マイナンバーを利用するという方向が決まった。この分野は先行してスタートすることになる。そのための改正法案が国会に提出されている。
マイナンバーと予防医療の連携は、民間も創意工夫が発揮できる。例えば、自分の健康診断や予防接種の履歴が閲覧できるポータルに、ウェアラブル端末で収集した健康データをアップロードできるような仕組みができれば面白いのではないか。色々なアプリを組み合わせることで、新しいサービスが生まれるだろう。
このような情報の次に、医療機関が保有する情報との連携が期待される。カルテや診断画像などは機微な個人情報であり、漏洩リスクへの懸念もあって、マイナンバー制度の適用については慎重な議論がなされてきたが、マイナンバーから生成される機関別符号をベースに連携を行うという形で、マイナンバーを活用する方向で今後具体的な検討が進んでいくと厚生労働省からは聞いている。
7割が「内容を知らない」
―マイナンバー制度開始にあたっての懸念は。
今年10月から個人番号の配布が始まるのにも関わらず、国民の7割が「制度の内容を知らない」とアンケートに答えていることだ。この原因は、制度のメリットを国民が想像できないからだろう。マイナンバーはどんな局面で利用できるのか、それで生活がどれほど豊かになるのか、政府は法律の文言を噛み砕き、国民にわかりやすく説明すべきだ。
例えば行政手続は大きく簡素化される。出生や引っ越し、結婚、死亡などのイベントは、今までは役所のさまざまな部署に書類を逐一提出しなければならなかったが、マイナンバーを利用すれば手続きがほぼ自動化できる。また、これまで自分で申請しなければメリットが享受できなかったもの、例えば幼稚園や保育所への通園補助などが、マイポータル経由で通知されたり、自動的に利用権が付与されたりしたら分かりやすいメリットだ。コンビニで印鑑証明書などを発行することもできるようになる。
仮に免許証やパスポートなどの機能が個人番号カードに集約できれば、国民生活はより便利になるし、電気やガス、水道などの生活インフラも、金融機関とマイポータルが連携して手続きを一括できるようになるかもしれない。このような未来の可能性を示してほしい。
また、先ほど述べた医療分野をはじめとして民間活用については、動きが後戻りしたり停滞しないようにリーダーシップが引き続き必要である。
―今国会では個人情報保護法も改正される見込みです。
パーソナルデータや個人情報保護が改めて注目を集める背景には、ビッグデータ解析やIoTが世の中を良くし、ビジネスをより加速させていくツールになるだろうという期待がある。今こそ法律的な建て付けをしっかり定めなければいけない。3月に閣議決定された個人情報保護法改正案では、定義の解釈やその他の諸所の運用は新たに設置される「個人情報保護委員会」の役割となる。我々としては、委員会のメンバー構成に注目している。ビジネスの知識が豊富で、データ利活用の重要性を認識している方を選んでほしい。
- 由利 孝(ゆり たかし)
- 新経済連盟 マイナンバー民間利用促進PT リーダー
テクマトリックス 社長
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