東儀秀樹氏・雅楽師 ジャンル・常識を驚くほど気軽に飛び越える

かつて宮内庁楽部に所属し、宮中儀式や皇居で行われる雅楽演奏会で演奏する日々を送っていた雅楽師・東儀秀樹。しかし、公務員の枠に収まらなかった東儀は、一生安泰と言われた宮内庁楽部を飛び出して独立する。そこからの活躍は改めて記すまでもないだろう。判断基準は「自分が楽しいかどうか」。目標を立てず、常識に捉われず、挑戦することを躊躇しない彼の人生から見えてくるものとは?

東儀秀樹 雅楽師

篳篥は、ひちりきと読む。竹と蘆で組み合わせられた日本の伝統的な管楽器で、主に雅楽の演奏で用いられる。

飛鳥時代から存在するこの和楽器と、バイオリン、アコーディオンという生まれも育ちも異なる楽器がともに曲を奏でたらどんな音色になるだろう。

例えばそんな好奇心が、人生や仕事の幅を広げていくのかもしれない。

雅楽師・東儀秀樹は言う。

「世の中に受けるかどうかでは、仕事をしていません。【僕が楽しい】ということが一番大切です」

奈良時代から1400年超も雅楽を世襲する由緒正しい東儀家にあって、秀樹は型破りな存在だった。

高校卒業後の1986年、宮内庁楽部に加入。主にひちりき奏者として、宮中儀式や皇居で行われる雅楽演奏会で演奏する日々を送っていた。宮内庁楽部は「世界最高峰の雅楽団体」(東儀)であり、国家公務員として一生安泰の職場である。傍からみれば恵まれた環境にありながら、東儀は個人的に音楽活動を始め、サロンコンサートなどを開催。さらには96年にCDアルバム「東儀秀樹」を発売し、同年に楽部の職を辞した。

「他の人にとっては、宮内庁楽部を辞めるのは雅楽師としてかなりリスキーな判断に思えたようですね。でも僕は一切不安を感じませんでした。サロンコンサートは多くて100人、200人程度の規模でしたが、その100人、200人が面白がってくれているということが、自信になっていました。小さな世界で有頂天になるなという見方もあると思いますが、僕は楽天的なので、面白がってくれる人の輪が広がっていくだろうと考えていました」

宮内庁を辞める時には、「宮内庁の職員なのに変わったことをしているから、そのギャップが面白くてちやほやされているだけ。辞めた瞬間、誰も見向きもしなくなるぞ」という厳しい忠告も受けたが、東儀は「なんとかなるさ」と意に介さなかった。その自信はどこからくるのか。

一般的には、自信とは努力の積み重ねによって得られるものとして捉えられている。しかし、「練習、努力は大嫌い」「嫌なことは我慢してやることではない」という東儀にとっては、目の前で自分の演奏を聴いた人が喜んでいる、楽しんでいるという身の回りの反応が、独立を後押ししたという。

常識に捉われずアイデアを実行

東儀の物事の判断基準は、当時から今に至るまで変わっていない。「自分が楽しいかどうか」。

このシンプルな価値観が、彼の多彩な音楽を生み出してきた。

ファーストアルバムで篳篥とピアノ、シンセサイザーなどをコラボレーションさせて話題を呼んだ東儀は、これまでさまざまな楽器や楽団とともに演奏している。その舞台は日本にとどまらず、欧米、アジアにまで広がる。

演奏する曲のバリエーションも豊富だ。クラシック、国内外の有名曲のカバー、オリジナル曲などジャンルは問わない。ライブではエレキギターを弾き、歌を歌うこともある。

そうやって何にも捉われず、自分が楽しむことを最優先にしているからこそ、驚くほど気軽にジャンルや常識を飛び越えることができるのだろう。まるで雅楽師の枠に収まらない東儀に対して、特にデビュー当初、雅楽を日本の神聖な音楽と考えている人たちの中には、その活動を批判的に見る向きもあったが、「裏付けのない無暗な自信があるんです」と笑う東儀にとって、全く足枷にならなかった。

「宮内庁にいるときから、毎日【なんだ、あいつ】と後ろ指を差されていました。でも僕はいつも【後ろ指を差す側、嫌なことをする側にならなくて良かった】と思っていました。そういう人は僕が凹む姿を見たいんだと思いますが、結局は僕の個性に対するやっかみ、妬みですよね。だから僕は胸を張って堂々としていたし、もっとびっくりさせてやろうと思うんです。そうすると後ろ指の差し甲斐がなくなるのか、だんだん遠のいていきました」

東儀は様々なジャンルの音楽家と共演する自分の音楽を「異色の組み合わせ」と認めるが、決して奇をてらっているわけではない。自分のやりたいことを追及した結果で、それが例え大衆に受けなかったとしても「音楽は好き嫌いだから、100人いても100人すべてに満足してもらえるわけがない」と割り切っている。

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