データが紡ぐスタジアムと街の未来 ―CCC流スポーツ×地域活性化の新たな挑戦

1.3億ID(有効ID数)のVポイントデータという強みを武器にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)グループが新たな領域へと挑戦している。同社は茨城県県央・県北地域における地域課題の解決に向け、サッカークラブ・水戸ホーリーホックとマーケティング活動に関する協業を行っている。スポーツを軸とした地域活性化という課題に、データベースマーケティングの手法でどう向き合うのか。創業から40年、日本の文化シーンを牽引してきた同社が見据える次なるステージは如何に。CCC新規事業クリエーション部 グループリーダーの木崎大佑氏とCCCMKホールディングスIPエンタメプロデュース本部 本部長の荒井孝久氏に話を聞いた。

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写真は水戸ホーリーホックとCCCの協業における一つの取り組み。

水戸ホーリーホックの試合に訪れた観客はチェックインをすることでポイントが付与される

ホームスタジアムでアウェイチームの物産を販売

新たな交流の発信地に

「最初はアウェイチームの物産品をホームゲームで売ることは、ホームで地域を応援するファンにとって反感を買ってしまうのではないかと思っていました。しかし実際は、全く見当違いでした」と語るのは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)新規事業クリエーション部 グループリーダーの木崎大佑氏だ。同社はサッカークラブ・水戸ホーリーホックとマーケティング活動に関する協業を行っているが、木崎氏は水戸ホーリーホックのスタジアムに出向きチームと一体となって活動をしている。冒頭の発言は、CCCが取り組むスポーツ×地域活性化事業の一環として、Jリーグのスタジアムでアウェイチームの地元物産を販売する試みを行ったときの反応である。

 

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水戸ホーリーホックのホームゲームで開かれた山形県大物産展の様子。

あえてアウェイチームの物産品を販売するというCCC独自の取り組み

同社は1.3億ID(有効ID数)のVポイントデータという強みを武器に、茨城県県央・県北地域における地域課題の解決に挑戦している最中だ。アウェイチームの物産品の販売は施策の一つで、来場者の満足度向上や水戸の集客力向上が期待される。

「サポーター同士が敵味方なく交流し合う光景が生まれ、『地元でしか買えない名産品を買えて嬉しかった』という声も聞かれました。地元愛を感じられるイベントになり、売上は全テナント中1位になることもあります」と木崎氏は嬉々として語った。

こうした取り組みは、Jリーグが抱える「ファンの高齢化」という課題に対しての施策でもある。新型コロナウイルスによる中断以降、リーグ全体の観客動員数はコロナ以前の水準に戻りつつあるが、ファン層はエンタメの多様化等の要因により高齢化している。同社はこの課題に対して、データベースマーケティングを強みとする企業として新たな集客の導線を作る施策を行いつつ、ファンが試合をより楽しめる環境づくりを目指す。地域とスポーツチームを掛け合わせることで双方に好循環を生み出すこと「スポーツ×地域活性」が、同社が目指す理想の姿だ。

「サッカー外」のデータと組み合わせる

CCCMKホールディングスの強みを生かしたインサイト発掘

CCCMKホールディングスの強みは、何と言ってもV会員基盤にある。V会員は約1.3億人、アクティブでユニークな会員数は約7000万人。日本人の2人に1人の持つ共通ポイントのビッグデータを活用することで、よりリアルなスポーツファンの実像に迫ることが出来るのだ。その中にはデータ分析によって意外な結果が浮かび上がることもある。

「スポーツ観戦が好きな方は観光や外食にも興味があるというデータは想定内でした。しかし、意外だったデータは、スポーツに志向性のある生活者は地元の食材にそれほど興味がない傾向にあるという結果です」とCCCMKホールディングスの荒井孝久氏は語る。

「また、忙しいなかでもスポーツ観戦に時間を充てる方々は、日常生活ではタイムパフォーマンスを意識している傾向があります。家事を合理的に効率化し、趣味の時間を確保するライフスタイルが浮かび上がってきました」(荒井氏)。

これらのデータが蓄積することで、スタジアムやアリーナ周辺だけでなくより広い地域内での商業活動に生かすことが出来る。データを効果的に活用する事により、企業による効果的なプロモーションが可能になり、例えば特定の商業施設や地域とスポーツチームがコラボする取り組みなどで双方にポジティブな結果をもたらすことが出来る。

スポーツ・エンタメ領域ならではの「数値化」の難しさ

勝ったらもらえる「Vキセカエ」

データ分析には、利益に結び付く重要な指標の数値化が不可欠だが、CCCはスポーツ・エンタメ領域ならではの課題とも向き合っている。例えとして木崎氏は「熱量」を挙げた。「スポーツチームに勝利が続き、昇格が見えてくるとスタジアム周辺やSNSはファンを中心に盛り上がる傾向にあります。しかし、実際に地域を訪れると地域で暮らす生活者からは『そんなに盛り上がっていない』という声を聞くこともあります。スポーツの勝ち負けによる温度差や影響範囲など、ファン心理の深い部分どう可視化するかは今後の課題です」と木崎氏。

また別の課題として、毎週の試合運営に追われるクラブ側にはデータベースマーケティングに取り組む余裕が無いという現状がある。

「シーズン中、試合は高頻度で行われます。次の試合、その次の試合と集中的に緊迫した試合が展開されていくなかで、1年後、2年後を見据えた視点を持つのは難しいこともあります」と荒井氏は説明する。

そんななか、CCCはスポーツチームならではの取り組みを始め手ごたえを感じ始めている。その一つが「Vキセカエ」というVポイントアプリの「モバイルVカード」を好きなデザインに着せかえできるサービスだ。ホームゲームの勝利時に、MVP選手のプレー写真を使用したオリジナルの「Vキセカエ」を翌ホームゲームに無料配布している。肝はその試合を切り取ったような券面を演出することで特別感のある気持ちを呼び起こす点にあり、時間が経っても画面を見るたびに「あの試合の、あの選手のシーン」という感動が味わえる。勝利時限定や期間限定の希少感も相まってファンから「絶対欲しい」という声が上がるほどの反響である。

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Vポイントアプリの「モバイルVカード」を好きなデザインに着せかえできるサービス「Vキセカエ」

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ホームゲームの勝利時、MVP選手のプレー写真を使用したオリジナルの「Vキセカエ」配布企画

今度は「日本のカルチャーを世界に」

CCCが見据える未来

CCCが目指すのはスポーツを通じた持続可能な地域活性化モデルだ。その鍵を握るのが地域との連携である。

「チームだけでスタジアムやアリーナを作ることは出来ません。自治体や企業との連携が不可欠です。地域活性化という大きな目的を掲げれば、スポーツだけでなく、交通や生活のあり方まで含めた総合的なまちづくりにつながります」(荒井氏)。

6月22日現在、水戸ホーリーホックはJ2で単独首位、クラブ新記録の8連勝を記録するなど明るい話題が多い。ただJ1昇格になるとスタジアム含め、チームには更なる戦略が必要になる。

CCCとしては、この水戸ホーリーホックでの取り組みを成功させる事だけでなく、海外への展開も視野に入れる。

「日本のスポーツはこの30〜40年で大きく成熟し、世界で戦えるレベルになりました。日本はもちろん、世界でも楽しまれるスポーツならではの顧客価値を作り、新たな体験につなげていきたい」(木崎氏)。

同社が創業した1983年、ソウルオリンピックでの日本の金メダル数はわずか4個。それが2024年のパリ五輪では18個に増え、日本のスポーツシーンは大きく変化した。

「これまでCCCはTSUTAYAを通じてレンタル事業などを全国に展開し、日本中の地域に映画や音楽などのカルチャーを広めながら成長してきたと考えています。これからはスポーツもさらに多くの方々に楽しんでいただき、スポーツの輪を広げていけるようなサービスを新規事業として実現していきたいと考えています」と木崎氏は力を込める。

2023年6月に閣議決定された「地方創生2.0」の基本構想では、芸術や文化と並ぶ形でスポーツが地域活性化の柱として位置づけられた。CCCグループが培ってきたデータベースマーケティングの知見と、スポーツがもたらす感動を融合させることで、新たな地域活性化のモデルが生まれようとしている。

「私たちの強みは、データを活用したマーケティングによって地域活性に繋げていくことはもちろん、現地に赴き直接お客様の声を聞くことで、実際の反応を見ながらデータとリアルの両輪で施策を練り上げていけることです。この両輪がうまく回ることでスポーツと地域の新しい関係性が生まれると確信しています」と荒井氏は未来を見据える。

少子化が進む日本で希望の光となりつつあるスポーツ領域。木崎氏と荒井氏の話には、データだけではなく人と向き合ってきた姿勢が見えた。

(文・小松 颯太)

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