2018年2月号

産官学連携ベストプラクティス研究会

花王生活者研究センター 独自の調査で探る「こころ豊かな暮らし」

宮川 聖子(花王生活者研究センター センター長)

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1934年に家事科学研究所を設立し、家事を通じて市井の人々の暮らしを調査してきた花王。近年では、地方都市の心豊かな暮らしに着目し、生活者の声をデータとして収集している。当事者が諦めがち、我慢しがちな不便を、他者との共創で解決する方法を探る。

宮川聖子 花王 生活者研究センター センター長

戦前に石鹸メーカーだった花王は戦後に総合家庭消費財メーカーへ発展を遂げた。そのなかで消費者の声を企業活動に生かす役割を担っている組織のひとつが生活者研究センターだ。花王の企業理念にある行動原則「消費者起点」や、企業としての目標である「消費者・顧客を最もよく知る企業に」の原点とも言える部門である。

数回の改組を経て現在の組織となり、「生活者」の暮らしを研究するミッションを担っている。

80年の歴史を持つ生活者研究

2017年に生活者研究センターが掲げる研究の視座

生活者研究センターの研究の対象は、現時点での花王製品のユーザーに限らない。ニーズを掘り起こし、将来の新製品の潜在ユーザーを探すことも重要な職務だからだ。実際に家庭を訪問し、インタビューを通じて、行動に表れない本音や、本人すら言葉で説明できないこだわりを読み解く。

その研究成果は、花王の製品やコーポレートイメージ向上のための情報発信に結実している。

「長期間にわたって研究を継続し、データを蓄積している強みがある。例えば、今と20年前の50代女性の違いを把握している」と、宮川聖子センター長は話す。現在の50代の女性は、20年前の同年代の女性よりもおしゃれになり、ロングヘアの人が増えているというデータは、中高年女性をターゲットとしたヘアケア製品のCMモデルをロングヘアの女優に変更するきっかけとなった。

しかしここ数年、ICT普及や少子高齢化に伴い、日本の生活者を取り巻く環境は激変。生活者の価値観も変化し、多様化している。同研究センターでも、研究テーマを自社の事業領域で設定するのではなく、社会課題や、生活者の関心に合わせて変更し、生活者との接点を探っている。

「生活もどんどん変わっていく現在、新製品が出にくくなり、花王も簡単には成功を収められなくなっている。企業としては生活者が望んでいる『うれしい』と思ってもらえることを探り、実現していきたい」と宮川氏は話す。

特に注目しているのは、「地方におけるこころ豊かな暮らしは何か」。2015年の国勢調査によれば、日本の人口の55%は、人口30万人未満の市町村で生活している。センターではこれを受け新たに地方の生活実態についても明らかにしていくことになった。福井市、弘前市、鳥取市、日南市などの地方都市で、高齢者、有職・子持ちの主婦、若者などを対象に、家庭訪問やインタビューを実施した。

調査対象とした地方都市は、東京区部と比較すると、高齢化率、共働き世帯率ともに10ポイント近く高い。また、東京都と比較すると月収は低いが、物価も安くなっている。東京都の特殊性が際立つが、「高齢化、共働きの増加など、日本の将来像として予想される姿が地方都市で先行していると考えると興味深い」と、同センターライフスタイル研究室の秋田千恵室長は話す。

例えば、80歳になっても、子供の世帯分の家事を引き受けている女性。民生委員に自治会長、高齢者クラブの役割までが降ってきて「そんなにできない」と嘆く70代の男性。小さい子供がいても、親などの支援を受けながら外で働くことが当たり前の主婦。町内の田んぼの肥料まきのために、アルバイトのシフトを調整する大学生や、祖母にもらった化粧品を使う女子学生などだ。

地方都市には、贅沢を望まず、様々な役割を忙しくこなしながら共助するライフスタイルが存在していることが明らかになった。一方で、「新しい便利なものでもすぐには飛びつかない」、「不便があっても我慢して諦める」傾向なども分かった。これまで表面的な調査では顕在化し得なかった課題に「戦前から生活者と接してきたノウハウの蓄積が、地方の調査では生かせるかもしれない」と宮川氏は期待している。

様々な団体との共創に期待

イオンスタイル東戸塚店に設置されたおむつ自販機

花王では、「健康長寿」などをテーマに地方自治体と連携する活動を既に実施しているが、企業、NPOなど複数の団体とコラボレーションした成功例も出てきた。2017年春に実現した、飲料の自動販売機によるおむつの販売だ。横浜市戸塚区のNPO法人こまちぷらすと、東京キリンビバレッジサービス、花王との連携によるものだ。スーパーマーケットに設置した自販機から、飲料だけでなく、小分けにした乳児用の紙おむつを購入できる。外出時におむつを忘れても、出先で気軽に買えるようにした。こまちぷらすが開催したワークショップで、乳児を持つ父親から出されたアイディアだ。

「おむつ自販機は、たとえ消費者のニーズがあっても、花王1社では実現できないプロジェクト。NPOや自治体が入ると、企業同士も協力しやすくなり、要望を実現しやすくなるという良い例だ」と、宮川氏は語った。自治体、企業、そして地方で精力的に活動しているNPOと協力することで、長年蓄積した調査ノウハウや、生活者に関するデータ活用に期待が膨らむ。

花王株式会社の

お問い合わせ


花王株式会社 生活者研究センター
TEL:03-5630-9421
URL:http://www.kao.co.jp/lifei/
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