理屈を超えた熱意がハウステンボス再建の秘訣 野田一夫×H.I.S.澤田秀雄

事業構想大学院大学初代学長・野田一夫が「典型的な創業型経営者」と太鼓判を押し、敬愛し、公私ともに長く交流を深めてきた人物が何人かいる。海外旅行業界最大手エイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)の創業者・澤田秀雄もその一人だ。同氏は格安航空券の販売を皮切りに、旅行・ホテル業、国内航空業、テーマパーク事業など、常に新しい分野に挑み続けてきた。今やあのハウステンボスも、15年ぶりに何と年間入場者数が300万人を超え、H.I.S.グループの純利益を過去最高益に押し上げるまでのV字復活を成し遂げた。揺るぎない師弟関係で結ばれた二人の対談後編では、澤田氏の今なお続く新たな挑戦談を伺う。

ハウステンボスは、オランダを“本物”以上に作り込んでいるという

再建成功の鍵は「惚れ込めるか否か」だ

野田 前編では、経営者には創業型経営者とサラリーマン型経営者という2つのタイプがあり、事業を“構想”するのは一般に前者の創業型で、後者のサラリーマン型経営者は事業を“計画”から始めるということを話しましたね。僕は初めて澤田君に会ったとき、「子供の頃からとにかく旅行が大好きだった」と聞いた途端、「ああ、この人は典型的な創業型経営者だろうな・・・」と期待した。構想とは頭の中に絵が描けるということ。文字とか数字なんかではないから、他人に細かく説明することは出来ないが、自分の頭の中にひらめいた絵があるから、その説明は情感がこもって、聞く人をも感動させてしまうんだ・・・。

野田一夫 事業構想大学院大学初代学長、(財)日本総合研究所会長

澤田 そう言えば、ハウステンボスの再建のときも、いろいろ思案しているうちに、“観光ビジネス都市”というヒントが生まれた途端に、頭の中にその完成した時のいろいろな情景がどんどん浮かんできましたね・・・。...私はやはり、典型的な創業型経営者なんですかね・・・。

野田 サラリーマン型経営者はとかく、文字や数字を使って理詰めで思考し説明しようとする。だから、かつてのハウステンボスの再建でも、天下の野村ホールディングス傘下の野村プリンシパル・ファイナンス(野村ホールディングスのベンチャーキャピタル)ですら成功しなかったとなると、その後は誰も「やれっこない」と諦めてしまったのだ。

澤田 おっしゃる通り、プロの経営者や各分野の一流コンサルタントが入ってテコ入れしても、結局は300億円の損失を出した上で、諦めてしまったんです・・・。

野田 僕はハウステンボスがオープンした時にお招きを受けたんだが、とてもじゃないけど採算に合わないと思ったね。巨大な風車にしても、レンガ造りの建物にしても、本物の石畳の道路にしても、すべてがオランダに行っても、なかなか見られないしね。それに敷地面積は現在の東京ディズニーリゾート(ディズニーランド+ディズニーシー)の1.6倍もあって、その中に全長6kmの運河まで作っているんだから明らかに過剰投資だと思った。開園に当っては天下の興銀(日本興行銀行)が幹事銀行になったから、たくさんの銀行が協調融資団に加わって莫大な初期投資が可能だったんだろうね。

澤田 再建2社目の野村プリンシパル・ファイナンスが乗り出した直後、私も一度招待を受けているんです。学生時代をドイツで暮らし、オランダを含めヨーロッパ各国を旅してきた私から見ても、オランダ以上にオランダらしい素晴らしい街並みだと魅了されました。ただ、確かにすごいとは思ったのですが、それと同時に、率直に言って、「これは、経営を軌道に乗せるのは大変だな」とも思いました。

理由としては、一方では、消費人口が少ない地域に、約2,200億円もの巨額資金を投じて大きなリゾート施設を作ったという採算の面。他方では、長崎空港からバスで約1時間かかるというアクセスの悪さ。3つ目は、ブランド力の欠如です。ディズニーランドの場合は、ミッキーマウスという絶対的な存在のキャラクターがあるので、行けばどんな体験ができるのかが何となく想像できます。しかし、ハウステンボスはイベント性が低く、そうしたイメージが湧かないがために、一般の人ならなかなか行く気をそそられない、と感じたのです。

澤田秀雄 H.I.S.代表取締役会長

野田 君がハウステンボスの再建を引き受けるかどうかで悩んでいた時、僕に相談してくれたことは本当に嬉しかった。18年間赤字が続いてもう後がないという状態になって、九州財界の方々が最後の頼みの綱として澤田君に頼みに来られたわけだが、君だって「厄介なことになったな」と思いながらも、心の奥底のどこかに、あのままハウステンボスが廃墟になることだけは避けたいと思う気持ちがあったはずだ。美空ひばりの「悲しい酒」流に言えば「未練なのねぇ」だ。もっと端的に表現すれば、何時しかハウステンボスに惚れてしまっていたんだよ(笑)。それが本当の理由だろう?

澤田 著書では、「朝長則男・佐世保市市長に3度も頼まれたから」と書いているのですが(笑)。2度断ったとはいえ、やはり市長をはじめとする地元の熱意に応えたいという気持ちは心の奥底にずっと残っていました。その上たしかに、私が断れば取り壊される可能性が高かっただけに、一方では、観光業に携わる者としてハウステンボスが廃墟になるのは忍びない、他方では、難しい仕事だからこそ挑戦してみたいという気持ちもありました。先生に言われてみれば、確かに恋心に似た気持ちがあったんでしょうね(笑)。

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