「不滅の不死鳥」ふたたび羽ばたく


ゲスト・梶山 龍誠 氏 (ビケンテクノ 代表取締役社長)

 

左)スティーブ・モリヤマ、右)梶山龍誠氏

―ビルメンテナンス事業を軸に積極的な多角化を進めているビケンテクノ(東証2部)社長・梶山龍誠さん。学生時代からアメリカン・フットボールの花形選手として活躍し、甲子園ボウルとライスボウルでそれぞれ3連覇。社会人になってからは、本業と実業団(アサヒビール・シルバースター)の二足草鞋を39歳まで続けられました。サムライウォリアーズのワイド・レシーバーとしてアメリカに挑戦した梶山龍誠の名を記憶している読者もいることでしょう。決してパスを落とさない“ゴッドハンド”は、2010年に父上である高志氏(現会長)から受けた社長の“パス”をしっかり受けとめ、次のゴールに向けて会社を引っ張っています。個人としても、経営者としても、梶山龍誠という人物を語る上では、日大フェニックスでの4年間のお話を避けては通れません。今でも龍誠さんの心の中には、2006年7月に亡くなった篠竹幹夫監督が生きているのでしょう。わたしは面識がありませんが、インターネット映像を拝見し、今の時代には珍しい、まさに“闘将”というニックネームがぴったりのお方でした。

梶山:日大フェニックス時代、監督さんとは中野の合宿所で4年間一緒でした。寝食共にした師であり、オヤジであり、大学生活の全てでした。「フィールドで死んでこい。骨は俺が拾ってやる!」が口癖でして、今でも思い出すと鳥肌がたつぐらいです(笑)。毎日のように怒声を浴び、常に極限状態の中で、勝つための努力をひたすら重ねる毎日でした。単なるスポーツの練習の場ではなく、人間修行、精神修養の場でした。鉄拳を含むスパルタ指導が許された最後の世代ですが、振り返ってみて感じるのは、ああいう指導法は悪いことばかりじゃないんです。右も左もわからずに入ってきた人間が日本代表になれるなんて、常識で考えたら奇跡です。でも、それが短期間で成し遂げられたのは、監督さん固有の指導法があったからに他なりません。本当のところ、人間って弱い生き物です。一部の天才を除けば、相当厳しい環境に自らを置かない限り、自分の限界を突き抜けることなんてできないんです。とにかく、とことん自分を追い込んで、すべての雑念、煩悩をふりはらって頭の中を真っ白にして、ただひたすら勝つことに集中できる環境を与えてもらいました。

―篠竹監督から、勝つための心構えについて、いつも聞かされていたそうですね。

梶山:ええ、大切なのは、相手や他人との比較や競争ではなく、自分との戦いだという点です。自分の限界を超えるための戦い。自分のもってる潜在能力を全部はき出すための戦いです。「おまえ、命かけてんのか?死ぬ気でやっとるのか?」って毎日のように問いただされるわけです。相当大きなプレッシャーですが、「犠牲、協同、闘争の精神」を肌で覚えこむには最高の環境でした。監督さんは、よく「サムライ」という言葉をよく使ってましてね、勝っても調子にのるようなことがあると、即座に怒鳴りつけられます。だから、みな黙々とやってました。

―アメフトでも武士道が大切ということなのですね。

梶山:ええ、ちょっとうまくいっても調子に乗ってはいけないのです。それはサムライの美学に反する行為です。ただし、甲子園ボウルだけは例外的にガッツポーズが許されていて、全員で握手して、宿舎やグラウンドで塩をまいてから出陣します。みんなそこで冷めざめと泣きます。本当に死ぬ気で試合に出るのですから。今の人が聞いたら時代錯誤だと批判されるかもしれません。しかし、篠竹イズムは今でもわたしのなかで確実に生きていて、うちの会社においても、全員ではありませんが、一部のリーダーたちにはわたしなりの方法で篠竹監督の教えを伝授しているつもりです。もちろん、匍匐前進なんて荒っぽいことはさせませんよ(笑)。でも全員がゆるゆるになってしまっては、組織は伸びていかないんじゃないでしょうか。

―なるほど。確かに戦前・戦中の日本人の精神性というのは、アメリカの大男たちが震え上がるほどのものだったと言われていますが、もしかすると日本人の中には、本来、自分の限界を超える潜在能力がより多く備わっているのかもしれませんね。

梶山:今は、すぐに権利云々を言い出す言い訳人間が増えていますが、とにかく無我夢中に何かに打ち込んだ先にあるものを、特に学生さんには掴んでほしいですね。

―我々は誕生日も同じ7月で、(龍誠さんには妹さんがいらっしゃいますが)男3人兄弟という点も一緒で、最初から何か馬が合うと思ってましたが、一番共振しているのは根っこの哲学の部分だったんですね。今わかりました。ちなみに、これは僕の処女作に書いた言葉で、今でも僕のモットーです。

「人間だれでも、一生のうちに何度かはチャンスがめぐってくる。そのときにチャンスを正確に見極める。素手で掴みグイっと引き寄せる。掴んだら放さない。そういう力があるのか。常日頃から養い蓄えておけるか。それが成功と失敗を分かつ。本当のところ、自分のことは自分がいちばんよく知っている。実力不足の自分。人のせいにする自分。努力不足の自分。自信のない自分。いくら言葉でごまかしても、自分だけはごまかしきれない。それを棚に上げて、野心ばかり膨らませても、チャンスは微笑みかけてはくれない。他人や組織を怨もうが、夢想にふけろうが、チャンスの女神は素通りしていく。誰も助けてはくれない。自助努力と自己責任・・・チャンスを掴み、引き寄せるには、先ずはこの二つを自分のモノにすることに尽きる。そこから全てが始まっていく」

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