文字に載せた想いは、言語の壁を超えて届く

発想しつづけること。それが書家である紫舟の仕事である。書だけではなく、絵画や彫刻、メディアなど、あらゆる表現方法から生みだされる彼女の作品は、柔軟で美しく、見る者に対しまっすぐに語りかけてくる。彼女の豊かな発想の源はどこにあるのだろうか。
文・小島 沙穂 Playce

 

Photo by T.Kurimoto

2014年12月、ルーブル美術館の地下にあるショッピング・アーケード街のさらに奥、カルーゼル・デュ・ ルーブルでフランス国民美術協会主催のサロン展が開催された。その日本代表として選出され、最高位である審査員賞金賞を受賞したのが書家・紫舟である。

国内外で評価を受ける彼女の書は、非常に表情豊かだ。彼女は、文字という「ことば」そのものの上に想いを載せ、日本語文化の外の人にも伝わる作品づくりを展開している。

空想の時間が世界を広げた

紫舟が子どものころは両親が共働きで、ひとりで過ごす時間が多かった子どもが活動できる範囲はとても狭い。

大人のようにどこかに出かけたり、何かを買ったりして時間をつぶす、という行為は幼い彼女にはできなかった。狭い世界で膨大な時間をやり過ごすために、幼い紫舟は家の中にあるものを見て、空想を広げて過ごした。天井の不思議な模様、光の差し込む角度によってきらめき方が変わるガラスブロック、布団のシーツのしわ。じっと観察しているうちに、それらが別のものに見えてくる。どこか異国の風景に見立てたり、人や生き物の形に見立てたりして、そこから物語をつくってひとり遊んだ。ひとりぼっちの寂しい時間を空想で埋めていたのだ。

「思い返せば、そのことが発想の鍛錬になったのだと思います」

周囲のものをよく観察し、それらが語ることばに耳を傾ける。その力は、発想力だけでなく、生み出したもののなかからより良いものを取捨選択する力にもつながる。

書は、書く力はもちろん大切だが、さらに大事なのは「選び取る」力であると紫舟は言う。書家となった今でも、ものが語ることばを見逃さない。書き上げたたくさんの書体を机の上に並べ、じっくり見つめてみる。その文字からどんなものが想像できるのか、どんなことばが伝わって来るのか想像をふくらませる。それは、小学校に入る前の彼女がしていた行為とあまり変わらない。

「もちろん、書き始める前からそのテーマに合った作品をつくるためには、どのような表現が合うのかを考えています。しかし、何百と書きだした中でそのテーマに沿った納品物を選ぶときには、それぞれの書が何を語るのかを想像し、テーマに最も適したメッセージを語るものを選びます」

手本通りの美しい文字を書けるようになった書家が、次に目指す次元は伝えたいことが「伝わる」書。書に込めた思いが、それを見た人々にどのようなメッセージを伝えるのか。想像を深め、創造を進めていく。

良いものを見極める目を養う

「書道を始めて10年ほど経ったころ、どうも上達していないと感じた時期がありました。自分の腕が成長するスピードよりも、目が成長するスピードの方がはるかに速く、目が肥えていたため、お手本と比較した際、自分の書いた文字の中に劣っている点がよく目につくようになっていたんです。書は手本から筆圧や墨の量、筆の運びを読みとって書くもの。自分の書とお手本との間に明らかな差を感じていたから、いつまでたっても上達しないと思っていました」

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