企業の命運握る「承継者の洞察力」

今でこそ、日本酒の蔵元が化粧品や健康食品の事業に参入するのは珍しくないが、日本酒製成量がこれからピークを迎えようとする半世紀近く前には到底考えられなかったことだ。ところが、その時期に、鋭い洞察力で蔵元からバイオ企業へと舵を切った事業継承者がいた。

本社は老舗酒蔵の面影が残る「なまこ壁」の外観

日本型バイオ企業として“世界初”の偉業も

どんな事業分野であれ、業界全体として、生産量が右肩上がりで上昇し続けている最中(さなか)に、やがて訪れるであろう急転直下の市場縮小を的確に予測することは難しい。

老舗酒蔵から日本型バイオベンチャーへ転身させた、勇心酒造・徳山孝代表取締役農学博士

しかし、業界がまだ浮揚しているそうした時期にこそ、非連続・現状否定型の経営革新を行うべきことは多くの事例が証明している。

今回ご紹介する勇心酒造の5代目当主・徳山孝さん(72)は、まさにそういう経営者だ。

社名が示す通り、日本酒の蔵元でありながら、日本酒が売上に占める比率は1%未満に過ぎず、残り99%以上は、同社が独自開発した「ライスパワーエキス」を主成分とする商品群(化粧品、医薬部外品など)で占められている。

外観とは一転し、屋内には最先端の研究室が広がる

讃岐平野の田園地帯、“うどん発祥の地”として有名な香川県綾歌郡綾川町。なまこ壁の外観には老舗酒蔵の面影が残る。ところが、一歩、建屋に足を踏み入れると、そこはまさに最先端の研究施設そのもの。

創業は、1854年(安政元年)。現在、従業員80人、売上31億円。

「西洋の医薬品は対症療法を目指しており、効き目はシャープですが、副作用を伴います。それに対して、ライスパワーエキスは、生体が本来持っている機能そのものを、より健全な、より若々しい状態へと導く点に特徴があります。米の醸造醗酵によって作られたエキスですから、自然なものであり、当然、副作用もありません」

麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物の種類、量、醗酵期間次第で、異なる特性を有する「ライスパワーエキス」が生成される。

これまでに36種類開発され、その内、13種類が実用化されているが、画期的な特性を有するものも少なくない。たとえば、「ライスパワーエキスNo.11」は、「皮膚水分保持能改善剤」として、2001年、厚生労働省から承認されたが、これは、医薬部外品として、“世界初”の快挙であった。

「水分保持能」とは、すべての人が生まれながらに備え持つ生体機能のひとつである。何らかの要因によって、この水分保持能が低下し、皮膚の水分が減ると、細胞同士を結びつけているセラミドが減少し、皮膚のバリア機能を低下させる(図1・左)。

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