2014年9月号

挑戦 壁を乗り越える技法

ラグビー日本代表 大躍進の理由をリーチ・マイケル主将に聞く

リーチ・マイケル(ラグビー選手・日本代表主将)

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6月、テストマッチ10連勝を飾ったラグビーの日本代表は国際ラグビーボードが発表する世界ランキングで過去最高の10位に入った。世界的な名将であるエディ・ジョーンズ監督のもと、日本代表は急激に進化している。エディ監督がトップ10入りを掲げる来年のワールドカップに向けた代表のキーマン、新キャプテンのリーチ・マイケルにその進化の理由を尋ねた。

6月21日、東京の秩父宮ラグビー場。胸に桜のエンブレムを抱く赤のジャージの日本代表が、屈強な猛者が肩を並べる青のジャージのイタリアに真っ向勝負でスクラムを挑んだ。8人対8人、頭脳と力の根競べだ。この勝負、体格で劣る日本代表に軍配が上がった。勝負所で見事に青い波をせき止め、過去5試合で1勝もできなかったイタリア相手に、26対23で競り勝った。

この勝利をけん引したのが、リーチ・マイケル。ニュージーランド出身で15歳の時に来日し、日本在住11年。昨年7月に日本国籍を取得、今年4月に新キャプテンに任命された攻守の要だ。チャンスと見ればフォローに走り、守備になれば真っ先にピンチの芽を摘むフランカーで、強い身体と気持ちを持ち合わせた25歳のリーダーである。

ハードな練習で強みを作る

格上のイタリア戦での勝利の裏側について、リーチはこう振り返る。

「イタリア戦では、ラインアウトで自分たちのボールが22%しか取れませんでした。あの試合ではボールのスピードも出したところも良くなかった。それがすごく問題だったので、弱くなっているラインアウトにもっていかず、自分たちの強みを活かすためにスクラムにもっていこうと考えました。」

リーチがスクラムを「強み」と語るのには理由がある。

「15年のワールドカップでトップ10入りすること。19年の日本開催のワールドカップでトップ8に入ること」を目標に掲げ、セットプレーの強化を課題に挙げる日本代表のエディ・ジョーンズ監督は、2年前からスクラムの改革に特に力を入れてきた。2012年の秋の欧州遠征時から、スクラムでは世界最強とも称されるフランス代表で活躍したマルク・ダルマゾ氏をスポットコーチとして招聘。以降、フランス式のスクラムを習得すべく、トレーニングを積んできた。その成果として、体重や体格のハンデを感じさせないスクラムは日本代表の武器となったのだ。リーチの言葉が、イタリアの苛立ちを端的に表している。

「ラグビーは心理戦で、FWはスクラムとかモールで押されたすごく嫌なんです。ジャパンはスクラムが一番安定していて相手にプレッシャーをかけていたから、毎回、スクラム組むたびに相手の顔が元気じゃなかった(笑)」一方、イタリア戦では弱みになってしまったラインアウトも、日本が重点的に磨きをかけてきたセットプレーだ。やはり2年前から、日本代表のエディ監督が「世界最高のラインアウト理論を持っている」と評価する強豪イングランドの元キャプテン、スティーブ・ボーズウィック氏をスポットコーチに招き、練習を重ねてきた(今年6月1日より、正式に日本代表のコーチに就任)。その結果、体格で上回るアメリカやカナダとの試合でも安定してマイボールにできる技術を手にした。

そしてもうひとつ、日本代表には武器があった。

「ジャパンはフィットネスでも勝てるから、我慢して相手を走らせて、疲れた時に良いアタックすればいい。後半20分からが勝負の時間です。今まで8試合やって、前半に負けていても後半から逆転してきました」

フィットネスは、ハードかつ濃密なトレーニングで身に着けたものだ。

リーチが「今の日本代表の練習量はすごい」と苦笑いするトレーニングは、1日に4回行われる。朝5時、10時、15時に2時間ずつ。その後にウェイトトレーニングがある。

スケジュールを聞くだけで気が遠くなりそうだが、もちろん、ただ無闇に汗をかいているわけではない。

走る練習すら一から変える

「もともと日本代表はフィットネスで勝たないとダメと言われてきました。だけど、これまでは正しい努力をしていなかった。ただひたすら走るんじゃなくて、ラグビーに合った走りをしないとダメ。100メートルを10本走る、それは走れるけど、試合になったら全く違う。今の日本代表は、ほぼ試合と同じ状況を作って、しんどいなかでやる。フレッシュな状態で練習するのは良いけど、試合って疲れた時にミスが起こるでしょう。その状況をマネして練習しないとね」

これに加えて、科学的な手法も取り入れている。選手にGPSをつけて走行距離を計測。1日ごとの走行距離が決まっていて、それを超えるとケガのリスクが高まるため、監督は走行距離を見て練習量を調整する。こういった精神力と体力の限界を高める合理的な手法でフィットネスを鍛えているのだ。

スクラム、ラインアウト、フィットネス。この3つは、つい2、3年前まで日本の課題として挙げられていた。それが、イタリア戦では自信を持って格上の国と戦えるレベルまで引き上げられていた。ラインアウトに関してはリーチ曰く「珍しく調子が悪かった」が、スクラムとフィットネスは最後の最後までイタリアを苦しめた。

日本代表には、ラインアウトがダメならスクラムにしよう、フィットネスで勝てるから後半20分から勝負しよう、という選択肢があった。からこそ、集中力を切らすことなく、自信を持って戦いきることができたのだろう。

イタリア戦の勝利でテストマッチ10連勝を飾った日本代表は、国際ラグビーボードが発表する世界ランキングで過去最高の10位に入った。

競技の枠を超えて研究

この急激な進化の理由として、リーチが挙げるのは監督の姿勢だ。

「監督はラグビー以外にもいろいろなスポーツを勉強しています。野球、サッカー、相撲、バレーのチームが練習でどういうことをやっているか、たくさん話を聞いて、それを参考に練習メニューを組んでいる。そうやって新しいことを勉強しないと進化しないでしょう。オールブラックス(ラグビーニュージーランド代表。世界屈指の強豪)も調子が良い時に戦術を変えています。いくら強くても同じことをしていたらほかが追い付いちゃうから、良い時こそ変えるんです。進化するためには新しい負荷のかけ方、新しい情報、新しいやり方を取り入れないとね」

以前、エディ監督は講演で09年のワールドベースボールクラシックで優勝した日本代表の原辰徳監督、11年の女子ワールドカップで優勝したなでしこジャパンの佐々木則夫監督、元格闘家の高阪剛氏などに話を聞きに行ったと明かしている。

エディ監督は母国オーストラリア代表のヘッドコーチとして03年のワールドカップ準優勝、南アフリカ代表のチームアドバイザーとして07年のワールドカップ優勝を経験している。世界のトップレベルを知る指導者として、独自のメソッドも確立しているだろう。しかし、必要とあらば自分と国籍の違うフランス人やイングランド人をコーチに雇う。他の競技の第一人者にも教えを乞う。

19年のワールドカップで日本をトップ8にするという最大の目標を叶えるために、国籍や競技の枠を超えてあらゆる勝利のヒントを探るというなりふり構わない貪欲さと思考の柔軟性が、日本代表を世界ランキングトップ10にまで導いているのだ。

リーチは、トレーニングだけでなく戦術面にもその柔軟性が浸透していると語る。

「代表の時は監督とコーチ陣がリーダーを集めて『こういう作戦でいこうと思うんだけど、どう思う?』と話し合います。選手としても考えていることはだいたい同じで、キャプテンとしてすごくやりやすい。でも、相手の作戦もあるので、監督は『絶対に作戦通りはいかない』と言います。だから、うまくいかない時のためにプランBを作る。問題が起きたらすぐにすぐに解決しないと、どんどん悪い方向に進んでしまうから、問題が起きた時にどう解決するかが大事ですね」

柔よく剛を制すという言葉があるが、エディ監督は戦い方すらも他人の意見を取り入れ、さらに自分の戦術が機能しなかった場合にも備える。

そのしなやかさは、強者に挑む挑戦者として不可欠のものだろう。

リーダーとして戦術を体現

そして試合中、「問題が起きた時」に問われるのがキャプテンの存在だ。

ラグビーの場合、試合中、監督は観客席で観戦しながら、ヘッドセットでコーチに指示を送る。選手に監督の指示が伝わるのは試合前とハーフタイムのみ。試合中のあらゆるプレーの選択は、キャプテンに任される。まさにピッチ上の監督と言ってもいい存在だ。

エディは「ワールドクラスになれる」とリーチをキャプテンに指名した理由を明かしているが、そのプレーや振る舞いから年齢を超えたリーダーシップをリーチの中に見出したのだろう。

リーチは日本代表だけでなく、所属する東芝ブレイブルーパスでも去年からキャプテンを務める。若干25歳にして、常にチームの行方を左右する大きな責任を背負っているのだ。

昨シーズンは2月に左ひじを骨折、6月には日本代表のフィジー戦で足首を骨折と度重なる負傷にも見舞われた。どちらも復帰までに数カ月を要す負傷で、普通の若者なら、リハビリやトップコンディションに戻すことで頭がいっぱいになってしまうところだ。

そんな状況で、東芝が連敗を喫してチーム内に不協和音が生じた時も、リーダーとして的確に対応してみせた。

「人のせいにしても状況は変わりません。そんなことばかりしていたらシーズンが終わってしまうから、とにかく、自分にできることに集中することが大切です。負けている時は、すぐにプランを考えて、全員が同じことを考えるようにさせます。それぞれが違うことを考えていたらばらばらになるから、集中することを決めておいて、やるべきことを3つぐらい決めてそれをやる。東芝の強いところはスクラムとモールなので、そこにもっていくようにしてリズムを作りました」。

どんな状況でも冷静さを保ち、的確な指示を出す。劣勢なら味方を鼓舞し、優勢なら気を引き締める。そして、誰よりも魂を込めてプレーする。

キャプテンシー溢れるリーチはいまや日本に不可欠の存在だ。日本独自のラグビーの構築を目指すエディ監督とその戦術をピッチで体現するリーチが揃ってこそ、日本代表が前進するための両輪となる。来年のワールドカップで日本がベスト10に入るためのカギを握るのは、この若き闘将だ。

リーチ・マイケル
ラグビー選手
日本代表主将
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