「AIと人の協業」の事業構想 Mico アジアNo.1への挑戦

店舗経営の挫折が生んだ
「集客の民主化」への志
株式会社Mico 山田修代表取締役社長が、初めて起業したのは20歳の時。店舗ビジネスやタイからのクロコダイルバッグの輸入、自費出版の営業など、様々な事業を手がけた。「良いサービスを提供すれば、お客様は自然と増えると思っていました。でも現実は違いました。社員が一生懸命頑張っても、集客の仕組みがなければお客様は来てくれません。クーポンサイトに掲載して安売りをすれば来客数は増えましたが、利益は出ないことも多かったです。この矛盾に悩み続けました」と山田氏は当時を振り返る。
その後、HRTech領域で2事業を立ち上げ売却を経験。3社目の起業として2017年にMicoworks株式会社(現:株式会社Mico)を設立した。当時、LINEやSNSなど生活者のコミュニケーション手段は多様化していたが、ビジネスシーンでは依然として紙・メール・電話が主流。「BtoC事業では、生活者と事業者のコミュニケーションに大きな乖離が生じていました。この課題を解決し、集客・事業成長につながるプロダクトを作ろうと決めました」。自らの手触り感のある課題に、テクノロジーで挑む。それがMicoの原点だった。
「AIによる効率化」ではなく
「AIと人の協業」という思想
Micoの特徴は、単なる業務効率化ツールではなく、「人の価値を最大化するアシスタント」としてのAI活用を重視している点だ。LINE チャットソリューション「Mico Engage AI」は、9,700万人のLINEユーザーとブランドを繋ぎ、集客からファン化までを促進する。2024年には、AI自動架電ソリューション「Mico Voice AI」をリリース。導入した人材派遣会社では、面談リマインドコールにAI電話を導入し、従来の人員体制で3ヶ月かかる架電量を実現。通電時の回答率も27%と人力と遜色ない成果を上げている。
「プロダクトを打ち出していく上で『従業員数100人を1人に減らせます』ではなく、『従業員100人の生産性が倍になります』というメッセージを大切にしています」と山田氏は強調する。「特に日本では、人の力を最大化するAIの方が受け入れられやすいです。これは結果論ではなく、私たちの思想です。どこまでいっても、AIが人に完全に置き換わることに対しては、一定数の人が抵抗を感じる現実があるからです」。この「ヒューマン・ライク・テクノロジー(人間に寄り添うテクノロジー)」というコンセプトが、Micoのブランド刷新の核となった。
2025年6月、同社は社名を「Micoworks」から「Mico」に変更。ラテン語で「輝かせる」を意味する「Mico」をよりシンプルに体現し、海外認知拡大を図る。祖業は人材紹介業であったため社名に"works"を入れていたが、「アジアNo.1を目指す中で、よりシンプルで強固にブランドを体現する必要がありました」と山田氏は社名変更のポイントを説明する。グローバル展開への姿勢は、組織構成にも表れており、現在名(2025年10月現在)のうち3割が英語話者、開発チームでは過半数を占める。国籍は20カ国以上に及び、 インドやフィリピン、台湾には拠点も持つ。
グローバル組織と多角的プロダクト展開で
「アジアNo.1」へ
急成長を支えるのは、グローバルスタンダードの徹底した組織づくりだ。「日本人の当たり前を押しつけないようにしています。宗教や食事、休日やコミュニケーションスタイル。すべてにおいて、一人一人を本当に尊重して考えることが大事です」と山田氏は語る。「例えば、小さな言葉遣いとっても、日本人は言い方などに非常に細かく反応しがちです。しかし、私たちはお客様により良い価値を届けるために集まっています。『コト』に向き合える組織にしていかなければなりません」。
外向きの施策も進行しており、2025年6月には、インド・バンガロールに「Mico Global AI Innovation Center」を設立。機械学習や自然言語処理、音声解析など、顧客コミュニケーションに応用できるAI研究開発を推進していく。また、インドのKLE工科大学とも産学連携協定を締結し、学生にインターンシップ機会を提供。学生らも「プロダクトという面では、例えばアプリ一つとっても、海外のデザイナーが作るプロダクトのUIの方がシンプルで現実があります。『日本が優れている』という感覚を捨て、より良いモノを作るために進んでいく必要があります」と山田氏は語る。
オペレーション変革の壁を越え
新領域でのAI導入を加速
組織・事業共に急成長を遂げているだが、AI導入の現状に関して、山田氏は「今の日本では、オペレーションそのものを変えるのが非常に難しい」と指摘する。大手人材系企業でAIエージェント導入プロジェクトが頓挫した事例を挙げ、「理論上はポジティブでも、現場でオペレーションを変えると、かえって短期的には効率が悪くなるケースがあります。AI側ではなく、人間側の仕事のフローを構築し直すのは非常に困難です」と語る。
一方で、10年、20年、30年のスパンでは、AIがあらゆる業務を担う時代が来ると確信している。「近未来でいくと、人が関与しながら、特定のドメインはAIでやっていこうという形が主流になるかと思います。しかし、既存オペレーションを変えるのではなく、新しく何か始めるケースでは、AIが中心の仕事が増えると思います」。
今後の事業構想について、山田氏はこう語る。「私たちがベースで置いているのは、BtoCのブランド様に対して事業展開を行う。ここは変わりません。」と述べつつ、AIによる将来の社会課題解決にも触れる。「例えば、AIエージェントをユースケースごとに作れば、低賃金の地域の人件費さえも上回るコストの低さで、あらゆることを提供できるようになります。日本を含む先進国では人手不足の解消に繋がり、アジアの発展途上国では教育者不足の解消につながります。オペレーションの部分まで私たちが担うことで、様々な社会課題を解決していきたいです」と山田氏は力を込める。
良いサービスにお客様が自然と集まる仕組みを創りたい。
20歳の起業家が抱いた志は、AIと人の協業という独自の哲学と、グローバルな組織力によって、アジアNo.1への道を着実に歩み始めている。
- 山田 修(やまだ・おさむ)氏
- 株式会社Mico 代表取締役社長