医療機器販売のメディアスHD 事業規模拡大で地域医療に貢献

医療機器販売大手のメディアスホールディングスは、M&A戦略を通じて事業規模の拡大を図り、医療機器サプライヤーとして圧倒的No.1になることを目指している。大規模投資が可能な経営基盤を固めて供給体制を強化し、地域医療に貢献していく。

池谷 保彦(メディアスホールディングス 代表取締役社長)

SPDによる医療材料の
供給で病院との取引が増加

メディアスホールディングスは2009年、協和医科器械株式会社(以下、協和医科器械)からの単独株式移転によって設立された。患者や医療従事者を感染や汚染から守る個人防護具(PPE)から、手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」のような大型の機器まで、100万点以上に及ぶ医療機器や消耗品を医療機関などに供給する事業を展開している。

「日本では戦後の復興に伴い医療機器販売業が成長しましたが、初期は注射器や医療材料の大部分が、滅菌して複数回使用するものでした。それが使い捨て(ディスポーザブル)製品に変わり、マーケットはさらに拡大しました。その際、私たちは消耗品を中心に供給していく方向へ進みました。日常的に需要のある商品を扱うことにより、病院に出入りする機会が増え、医師のニーズが把握しやすくなり、それが現在のビジネスの基盤になっています」。

メディアスホールディングス代表取締役社長の池谷保彦氏は、自社の事業成長について振り返る。また、供給(Supply)、加工(Processing)、分配(Distribution)を意味するSPDといわれる販売方式が普及したことも、事業の拡大につながった。SPDは、医療機器販売における独特の販売方式だ。元は米国で始まった病院内の物流管理効率化策だったが、25年程前に日本でも導入され、その後は日本独特の方式で行われるようになった。

「SPDではまず病院に医療材料をまとめて配置し、使用された分を補充しつつ、その料金を請求します。『富山の置き薬』のようなこの仕組みの導入で病院側は在庫管理や発注の手間がなくなり、負担が大きく減りました。特に医療材料には滅菌期限があり、期限を過ぎると使えなくなることによる病院側のロスが5%程あるといわれていました。この仕組みでは提供側に一定の体力が求められるため事業規模が必要とされますし、更なる規模拡大への原動力にもなっています」。

地域の病院で医療機械の使用や
経営の効率化をサポート

2009年の設立以来、メディアスホールディングスはM&A戦略による事業規模の拡大を図り、医療機器サプライヤーとして質・量ともに圧倒的No.1となることを目指してきた。その背景を、池谷氏は「日本の人口が減少する中、今後は医療機器市場もシュリンクしていくでしょう。国内には現在、医療機器販売を手掛ける会社が1000社以上あり、地元の中小企業が地域の病院を支えている構図です。私たちの企業理念は『地域医療への貢献』で、医療を止めないために、ともに活動していける仲間を増やそうというのがM&Aに対する考え方です」と語る。

現在は各地域にある傘下の事業会社で、スケールメリットを活かしたシナジーを発揮しようとしている。今後も、全国の各都道府県でトップレベルの売上がある医療機器販売の企業を買収し、物流インフラや情報網の整備など大規模投資が可能な経営基盤を固めて、供給体制を強化していくことを目指している。

また近年は、人口減や人手不足で経営がひっ迫している病院が多いことから、今後は病院経営の効率化もサポートしていく方針だ。

「医療材料や医療機器を現場で効率良く使っていただく仕組みを提案したり、物流コストを安く抑えられるようにすることで、病院経営をサポートしています。プライベートブランド商品も開発し、高品質のものをできるだけ低価格で提供できるよう努めています。さらに、今後は高度医療の効率化にも寄与できるよう、新たなサービスを開拓していきます」。

高品質で価格を抑制したプライベートブランド品を開発した

病院経営の効率化や物流、医療機器を通じたサポートでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)も進めていく方針だ。「厚生労働省の地域医療構想では、2025年までに病床数を削減する方針が示されています。人口減少に合わせた合理化を進めても、ITを使った遠隔画像診断などが活用できるようになれば、水準を保ちつつ適切な医療が受けられる可能性があると思います」。

SPDによる病院内の物流管理。システム化により、医療機関の職員の作業や、財務面での負担を軽減する

企業価値を高める人的資本の強化
M&A後の組織作りも重要な要素

医療機器サプライヤーとして今後も企業価値を高めていくためには、人的資本は最も重要な要素となる。このため、メディアスホールディングスでは中期経営計画の中でも「人的資本の強化」を重要課題に位置づけている。

従業員の育成では、自ら考え、自ら動き、顧客に合わせたより良い商品やビジネスアイデアを提案できる人材の育成を目指し、教育体系の拡充を図っている。また、各事業会社では、幹部候補研修や従業員の自発的な勉強会など様々な取組みを進めているが、今後はその裾野を広げ、より多くの従業員の基礎能力開発につながるプログラムを構築していく方針だ。さらにグループ各社の従業員による情報共有や交換を促進するため、グループ間交流の場を作っていく。

「M&Aで色々な事業会社がグループに加わっていますが、会社ごとに社風や文化は異なります。ですから、ここでもう一度、しっかりした企業文化を作り、長く残していきたいです。また、世の中では人材が多様化しており、社内の教育や指導も、それぞれの人に合ったやり方が必要だと思います」。

近年のコロナ禍では医療機関や医療品のニーズが高まったことから、経営難に陥っていた病院や関連企業でも需要が増え、「バブル」のような状態になった。しかし、「足下の2、3年はその反動で、厳しい状況になると思います」と池谷氏はみている。このため、中期的には、そこをどうやって乗り越えるかが課題になるという。

さらに、現在は世界的にエネルギーや資源の価格が高騰し、国内では円安に伴う物価高騰も生じている。医療材料の約6割は輸入品だ。このため、価格の上昇をどう抑えていくかが足下の課題になっている。他方で、景気の後退はM&Aのチャンスにもなる。

「今後もM&Aを推進し、それが成功すれば中長期的にスケールメリットを活かした経営ができると思います。規模が大きくなれば様々な投資も可能になり、社会や地域へのさらなる貢献もできるはず」と、池谷氏は展望を語った。

 

池谷 保彦(いけや・やすひこ)
メディアスホールディングス 代表取締役社長

 

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