「知の交換」で産業集積は進化 ICT時代、地域経済の行方

人は語る以上のことを知っている――。そうした暗黙知の存在は、対面による情報交換の必要性を増し、特定地域への特定産業の集積をもたらす。一方、ICTによる形式知の情報交換は、クラスター間の新たな分業を可能にする。情報交換の視点から、産業クラスターを分析する。

ICT(Information Communication Technology)の時代になり、情報交換に関して人と人との距離が無くなりつつあり、とても便利になった。その一つの現象として、設計は米国で行い、製造は新興国で行うというように、産業クラスター間でのサプライチェーンの国際分業が始まっている。

一方でシリコンバレーをはじめとする特定の産業クラスターでは、集積が集積を呼ぶ現象が起こりつつあり、分散とは逆の現象が起こっている。このような最近の新しい変化を踏まえ、「ICT時代における産業クラスター」を情報交換の視点から議論したい。

特定地域に特定産業が
なぜ集積するのか

特定地域に特定産業が集積することに注目したアルフレッド・マーシャル(1920、Principle of Economics、経済学原理)は、英国の産業革命の時代、同じ繊維産業であっても綿花市場は港町のリパプールに集積し、織物市場はランカシャーに集積するというように、特定産業が細分化した形で特定地域に集積することに注目した。日本でも広島の熊野には筆、鯖江には眼鏡のフレーム、燕三条には金属加工、諏訪には精密工業というように、特定産業が特定地域に集積する傾向がある。

マーシャルは、その要因を3点指摘している(表参照)。第1は、特定地域にその産業に従事する技術者が多数存在するため、他の地域よりも人が集めやすい。第2に、原料や中間財に関しても、既にあるので集めやすい。経済学で指摘されている、労働と原材料の投入財に関する市場が発達しているので、市場での取引費用が安いということである。第3に、特定の産業に関する情報が伝播していることを指摘している。

図 集積した産業クラスターにおける競争力強化のプロセス

出典:著者作成

 

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