目標は東京五輪、サーフィンで金 「日本人初」若き天才が挑む
2020年、東京五輪では合計5競技18種目の採択が正式に決定された。その1つであるサーフィンで今、日本はもとより、世界で注目されている選手が五十嵐カノアだ。6歳で初出場したローカルコンテストで初優勝。以来、「最年少記録」「日本人初」という肩書がついてまわる。弱冠21歳の天才は今、世界をどう見つめ、未来をどう切り拓こうとしているのか。
文・油井なおみ
プレッシャーや負けがあるから
勝負はより面白くなる
五十嵐カノアがサーフィンを始めたのは、わずか3歳のこと。
両親ともにプロサーファーで、サーフィンをする父について、歩くようになる前から海に通っていた。彼にとって海は常に遊び場だったのだ。さらに、「子どもには小さい頃から海と英語に親しませたい」という両親の教育方針のもと、五十嵐が2歳のときに家族でカリフォルニアの海のそばに移住。そんな五十嵐が3歳でサーフィンを始めるのは、ごく自然の成り行きだった。
6歳で初めて出場したローカルコンテストでいきなり優勝。9歳にしてアマチュアUSAチームの強化選手入りを果たす。12歳でサーフィン界のレジェンド、トム・カレン氏が持つ全米アマチュアサーフィン連盟最多優勝記録である30勝と並び、全米ナショナルチャンピオンを獲得。アマチュアを卒業し、プロサーフィン・ツアーへと戦いの場を移してきた。
プロでの初優勝は13歳。その後も数々の大会で優勝などの好成績を挙げる彼のニュースや記事には、いつも「史上最年少」や「日本人初」という冠が躍る。幼い頃から周囲の期待を一身に背負ってきた五十嵐。勝つことが当たり前のように見られ続けるのは、21歳という年齢には重すぎるプレッシャーに違いない。だが、五十嵐自身はいたって軽やかだ。
「そういう記録を特に意識したことはないですね。ただ僕は、勝つのが好きなんです。勝ちたい、と思ってやっていたら、そこに記録があったという感じ。プレッシャーはもちろんありますが、その状態が僕にとっては自然なこと。プレッシャーがないと試合は面白くないし、力も出ません」
10代前半の頃までは、ひたすら「勝つ」ことだけに面白さを感じていたというが、今は違う。
「いつでも勝てる試合に出ても、面白くないですよね。むしろ、負けがあるからこそエキサイティングだし、負けたときの方がモチベーションが上がります。次の勝利へのパワーになっているんです」
負けた原因を自ら分析し、次につなげる。今はただ波に乗って勝つことより、勝つための駆け引きやプロセスを考えるほうが面白くなってきたのだという。五十嵐はサーフィンを「チェスのようなスポーツ」と語る。
サーフィンの試合は、2人の選手が30分間海に入り、対戦形式で点数を競い合う。時間内に来た波には何本乗っても構わない。ただし、闇雲に乗っても大きなスコアは狙えない。潮の満ち引きや風の状態を読みつつ、相手が得た得点も頭に入れ、残り時間で何本波が来るか予測し、そこからどの波を選んでどう乗るか。波数とスコアを計算しながら戦わなくてはならない。天性の感覚だけで勝てるスポーツではないのだ。
「よく"体格の華奢な日本人には不利じゃないか"と聞かれますが、そんなことはまったくありません。むしろ、細かい計算や頭を使うのが得意な日本人には向いているスポーツです。サーフィンは考えることが鍵となるスポーツ。体格よりも思考力が重要なんです」
とはいえ、体形やパワーに任せて、次々と来る波に乗って勝つタイプのトップランカーもいる。
「相手選手がどんなサーフィンをするのかによっても戦い方は変わります。相手の出方をチェスのように読みながら戦うのが面白いんです」
自然を相手に、データ、計算、思考、駆け引きを駆使していく。それこそがサーフィンの醍醐味なのだと語る。
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