日本を牽引する起業都市対決 福岡市 vs. 川崎市
イノベーション都市・米国シアトルをモデルに積極的にスタートアップ支援を進める福岡市。国際的な研究開発機関や産業技術が集積し、大きく変貌する川崎市。日本のイノベーションと新規事業を牽引する両自治体の今を探る。
起業支援・育成のロールモデルとなる2つの都市
開業率日本一といわれる福岡市。2010年に就任した高島宗一郎市長は2012年に「スタートアップ都市ふくおか宣言」を発表、起業を志す若い世代を引きつけてスタートアップ支援の基盤を着々と整え、就任以来3年で、誘致企業数128社、1万269人の雇用創出を実現した。2014年に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定され、同年10月には創業支援施設「スタートアップカフェ」を設立。交流拠点での談論風発、柔軟な発想のリミックスを狙った。政策を立てるだけでなく、その先にムーブメントを作り出すこと。市長によれば、それが福岡市ならではの創業・起業支援の特色だという。
市は、外国人の起業に必要な資格の緩和、創業者対象の「スタートアップ資金」、地元大学生対象の「スタートアップ奨学金」、既存起業とのマッチングイベント「フクオカ・スタートアップ・セレクション」など、スタートアップ予備軍や既存企業を巻き込む施策を次々と打ち出すことで一気に「スタートアップ都市」の骨格を作った。2017年には市内に点在していた機能を「FUKUOKA growth next」に一元化、100社を超える会社が利用登録する。同年、スタートアップ法人市民税減税制度も導入、最初から海外進出を目指すスタートアップのための「フクオカグローバルスタートアップセンター」も設ける一方、「スタートアップ都市推進協議会」、「熱意ある地方創生ベンチャー連合」を通じた他の自治体との連携も進める。こうした熱気の中で、九州大学には「起業部」も誕生、大学生の起業熱にも火がついた。
一方、開業率3位の川崎市。情報通信、学術研究などに従事する人、専門的・技術的職業に従事する人が政令指定都市中最も多く、物理学、電気を中心に取得特許数は65,466件に達するという。ナノ/マイクロ分野の研究開発拠点「新川崎・創造のもり」、ライフサイエンス分野の研究開発拠点「キングスカイフロント」など約400のインキュベーション施設、研究開発機関が集積するという産業基盤に恵まれた自治体だ。「かわさき新産業創造センター」などを通じて起業・創業支援にも力を入れており、2019年3月をめどに、市内に立地する「新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)」と共同で起業家支援のワンストップ拠点「K-NIC」を設立、ハイテク分野の支援体制を強化する。
知財を活かすオープンイノベーション施策として名高いのは、大企業や研究機関の知財を中小企業に紹介して、中小企業の製品開発等の高度化を促進する「川崎モデル」。「出張キャラバン隊」が精力的に中小企業を訪問してニーズを集め、「知財交流会」がそのニーズを大企業の開放特許とマッチングする仕組みで、2018年3月までにマッチング件数は29件、製品化数は18に達している。市では関東経済産業局とともにこのモデルを全国に普及させようとしており、静岡県富士宮市や新潟県柏崎市、福岡県、宮城県などがその手法に学んでいる。最近では大企業の試作品を中小企業が提供するという新展開もあり、モデルはなおも進化中だ。大企業と中小企業の連携、官民連携のしっかりした土台、伴走型の支援があることは、特にハード系のスタートアップにとっては何かと心強い。
役所に起業相談窓口を設けるだけでは誰も来ない。この二つの都市の取り組みには、官民連携のハードルをどのように下げ、行政がどう動けば、スタートアップを育成・定着させられるのかについてのヒントが数多くある。スタートアップ飽和状態の感もある東京・大阪以外の自治体が、どのような起業支援・育成を展開していくのかに注目したい。
福岡市
福岡市
市制施行 | 1889年 |
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面積 | 343.39km2 |
人口 | 1,567,189人 |
労働力人口 | 52万人 |
市長 | 高島 宗一郎(44歳) |
主要産業 | サービス業(対事業所・対個人)、 卸売・小売業、不動産業、運輸通信業、 工業(食品加工・印刷出版・機械金属) |
地域資源 | 櫛田神社、キャナルシティ博多、中州屋台 |
川崎市
川崎市
市制施行 | 1924年 |
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面積 | 144.35km2 |
人口 | 1,505,741人 |
労働力人口 | 67万人 |
市長 | 福田 紀彦(46歳) |
主要産業 | 製造業、環境技術、福祉、医療研究、 情報・サービス |
地域資源 | 川崎大師、藤子・F・不二雄ミュージアム、 工場夜景 |
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