専門職大学創設の課題と展望 55年ぶりの法改正による変化
来年4月に、専門職大学等が新設される。これは、既存の教育界や産業界、ひいては日本社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。リカレント教育、生涯教育にも深く関わる制度改革は、どのような変化をもたらすのか。
専門職大学等の制度化
いよいよ専門職大学等が2019年に誕生する。専門職大学等としているのは、専門職大学だけでなく、専門職短期大学、専門職学科も含まれているからだ。これだけ大きく注目されているには理由がある。それは1964年に短期大学が制度化されて55年ぶりに大学体系に新しい大学の種類が追加されるからである。つまり、学校の種類を規定している「学校教育法」の第1条に専門職大学、専門職短期大学が条文として加えられる。この改正にあわせて、学校教育法から「新学校教育法」へと法律の名称も変わる。まさに教育制度の一大改革といってよい。
この専門職大学・専門職短期大学は、実践的な職業教育を高等教育レベルで行う教育機関である。専門職学科は、既存の一般大学に専門職大学と同じように実践的な職業教育を行う学科を意味している。
こうして考えてみると、専門職大学等は専門学校とどのように異なるのかと疑問を抱くであろう。さらに、専門学校には職業実践専門課程が設置されているところもある。大きな違いは、専門学校は各種学校という扱いであり一条校ではない。そのため、比較的自由な学校経営ができる。だが、専門職大学として一条校になれば文教振興の恩恵とともに一定の画一的な水準が求められる。もちろん、大学卒業証明として学位が授与されるがそれだけではない。大学の教育課程と同程度の水準が求められているのである。つまり実践的な職業教育だけでなく、それを支える教養を享受することが求められている。実践と教養をバランスよく習得できる教育機関が目指されている。
社会課題と専門職大学
社会の高度化にともないさまざまな専門職業の必要性が高まっていることは言うまでもない。さらにICTの発達により、既存の専門職業ですら職業の高度化が求められているのではなかろうか。また他方で大学改革が叫ばれて久しい。専門職大学のような高等教育機関が創設される背景には、社会的要請も当然ある。何が問題なのかといえば、端的にいえば社会と大学の関係の希薄化であろう。それはどのように社会と繋がるのという点に関わってくる。それは大学の教育や研究内容が役立つであるとか、役立たないとかそういう次元の話ではない。かつてマーチン・トロウという教育社会学者は社会変動によって大学の機能が変化すると説いた。たとえば、大学教育の生涯化(はやりの言葉で言えばリカレント教育)への役割を思い浮かべればよいだろう。大学が社会の変化に合わせてどのような役割を果たすべきか再検討することが求められているといえよう。
社会の変化と大学の変貌
実務と理論の架け橋は
いかにして可能か
実務と理論の架け橋は、専門職大学院が設置されたときから目指されていた。だが、それだけで実務と理論の架け橋となり得たであろうか。専門職大学が大学教育と同様の教育課程を求められているのであれば、まさに実務と理論の架け橋の実践は喫緊の課題である。学位として認定する以上、体系的なカリキュラムが存在するはずである。体系的なカリキュラムを下支えするのはこれまでの学術的蓄積と結びついた理論であるはずだ。
まさに、課題はそこにある。「実務と理論の架け橋を考えるための」理論枠組みが必要なのではないか。そのためには、実務と理論の往復を絶えず実践していくしかない。その教育方法は果たしてどうするのか。専門職大学の教育的成功は、実務と理論の架け橋の具体化が鍵を握っているといえるだろう。
専門職大学のゆくすえ
そもそも専門職大学等の新教育制度の創設によって、教育の選択肢が広がることについて反対するものはいないであろう。日本の教育制度は、これまで単線型教育をとってきた。専門職大学制度の成否で、キャリアトラックの複線化も見えてくる。また、ドイツやフランスの職業教育とも異なる日本独自の教育制度として発展する可能性もある。
他方で、失敗の可能性も潜んでいる。ひとつは、専門職大学の卒業後に修了生を産業界は受け入れるのか。出口が不透明であることは識者からも指摘されていることではある。また、昨今の話題でいえば法科大学院や学校法人以外の大学設立など行き詰まりをみせる制度もある。今回の専門職大学認可申請校を見ても、専門学校から専門職大学へ移行する動きを見せている。そこが問題なのではなく、専門学校から専門職大学にすることによって、どのようなビジョンを持っているのか。それぞれの設置者が思い描いていなければならないのではないか。
出口の問題にせよ、それぞれの専門職大学のスタンスにせよ、専門職大学が成功するか否かは、社会のつながりとそのそれぞれの大学の独自性を構想することからはじめなければならない。