地域電力会社は自治体が主導する時代に 新エネで地域活性

2017年10月6日、地域経済を活性化させるためのエネルギー戦略シンポジウム(主催:環境ビジネス、協賛:Looop、後援:事業構想大学院大学)が開催された。自治体職員を中心に総勢250名以上の参加者が集まり、熱気あふれるイベントとなった。

自治体担当者を中心に参加者多数となった本シンポジウムは、東京をメイン会場とし、札幌、名古屋、大阪の会場へ同時中継された

自治体が主導する地域電力会社

「もともと日本の電力は民間のものでした」と谷本龍哉教授は講演をスタートした。谷本教授は、事業構想大学院大学客員教授であり、かつて衆議院議員として内閣府副大臣を務め、エネルギー政策にも通じている人物だ。基調講演の中で、日本における電気事業制度の歴史や課題などの説明を行った。

冒頭の言葉のように、明治時代には国内に数十の電力会社があったが、戦時中の国有化を経て、戦後は地域ごとに10社の一貫体制となった。しかし、競争のない分野の効率は悪くなる。そのため、平成以降、発電部門や業務用高圧電力の小売り自由化等を経て、2016年には、一般向けの低圧電力も自由化がなされた。

加えて、2011年に東日本大震災が発生。原子力への依存度が低下し、地域分散型電源や再生可能エネルギーなどの多様な電源の活用や、需要者への多様な選択肢の提供など、電力システム改革の声が高まってきたのだ。

そこで注目され始めたのが、自治体が主導する地域電力会社(以下、自治体PPS)だ。一つの大きな発電所が広範囲に電力を供給するという従来の方法ではなく、地方自治体のような単位で発電システムを保有する、従来の問題を解決する一つの方策と考えられている電力システムだ。

小嶋祐輔 Looop 執行役員 電力事業本部長

地域経済活性化を実現させる

「地域の中で電力をまかなう。それは地域に貢献することになります」と、Looopの執行役員であり電力事業本部長である小嶋祐輔氏は説明する。Looopは、東日本大震災直後のボランティア活動をきっかけに生まれ、再生可能エネルギー関連のビジネスで急成長を遂げており、地域エネルギーシステムに関しても豊富なノウハウを有する。

「電力の自由化によって、分散型発電が拡大しています。それに加えて、一般の家庭向けの小売りも自由化しました。これにより、ユーザーのニーズに応える多様なサービスが可能になっています」と小嶋氏。ニーズに即したサービスを用意することで、安売り合戦ではない、付加価値を生み出すことが可能となるというわけだ。

自治体PPSの具体的なメリットとしては、「非常時のエネルギー供給の確保」「エネルギーの効率的利用」などに加え、「地域経済活性化」が挙げられる。この点について小嶋氏は「地域外から電力を購入すると利益が地域外に流れてしまいます。ところが地域で新電力会社を設立すれば、地域内で利益を循環させることができます」と解説した。

スモールスタートが可能に

「自治体PPSを始めるスキームとして、ライセンスが不要なタイプと必要なタイプの2つがあります」と小嶋氏は続ける。これは経済産業省が認めているスキームだ。「おすすめはスモールスタートが可能な、ライセンスなしのスキームです」と小嶋氏。

具体的には「媒介モデル」「取次ぎモデル」というもの。これは他の電力小売業者と顧客を、自治体PPSが間に入って取り持つスタイルだ。自治体PPSは顧客への営業に注力し、それ以外の部分は他の電力小売業者に委託する。これにより、一気に参入のハードルが低くなるという。小嶋氏は、具体例として、人口5万人規模自治体での実施例を披露した。それによると、電力利用シェアが10%ならば年間売り上げ11億円、営業利益1億円を実現するのも可能だという。一方でライセンスが必要なスキームで実施する場合、自治体PPSが送電業務を行うこととなり、電力の需給管理業務が必須となる。それは素人には不可能な業務であり、専門のノウハウを持つ人材が不可欠だ。

次に、自治体PPSが取るべき戦略について、小嶋氏は「まずは法人需要を集めるのが良いでしょう。特に自治体管轄の施設をまとめるのが近道ではないでしょうか」と話す。そして、重要なのは価格ではないという。小嶋氏は「電力は色のない製品なので、安売り合戦になると旧一般電気業者には勝てません。やはり地元への愛着心や、新しいサービスの提供などがビジネスのカギになります」と続け、いかに顧客のロイヤリティを醸成するかがポイントとなると指摘した。

白田範史 環境ビジネス 編集長

自治体PPSの実現に向けて

シンポジウムの締めはパネルディスカッションだ。谷本教授をはじめ、小嶋氏、環境ビジネス編集長白田範史氏がパネラーに。事業構想大学院大学事業構想研究所副所長の織田竜輔がモデレーターを務めた。

最初の話題は、事業のスタートについて。「自治体PPSをスタートさせるのに、組織内のコンセンサスを取るのが難しいのでは?」というものだ。

谷本龍哉 事業構想大学院大学客員教授

「自治体首長のビジョンと、電力事業への投資がいかに関係しているかが重要でしょう」と谷本教授。「収支とリスクという経済面から言えば、リスクの少ないビジネススキームもあります。たとえば地元の企業に主導してもらって、自治体はサポートのみにするというやり方もあります」と小嶋氏。「住民のコンセンサスが必要です。地域住民の生活に直結するメリットわかりやすく伝えて、いかに一緒になって作り上げるかが需要でしょう」と白田氏は話す。

そして、改めて話題となったのは、自治体PPSとして顧客メリットをいかに訴求するか、という点についてだ。織田副所長は、「価格メリットのみを訴求しても、いずれ違う事業者に顧客は流れるでしょう。"安さ"ではなく、自分たちのまちが設立した会社から電力を買うことの価値を感じてもらい、顧客のロイヤリティを上げることが重要ではないでしょうか。」と指摘した。そして最後に、小嶋氏は「電気は誰もが使っていて、何かをのせていくものだと考えています。弊社としてもPPSに参画したのは、お客様との接点ができるというのが理由です。価格競争からの脱却。サービス価値の創出。そういうものに向かって一緒に仕事ができる人と出会いたいなと考えています」と話し、会を締めくくった。

地域経済活性化を実現させるため、自治体PPSの実施を検討している自治体は近年増加傾向にあるが、そのプロセスや実施スキームに関する情報の少なさ、単独実施のハードルの高さがネックとなっているケースは少なくないだろう。本シンポジウムは、それぞれの専門家の講演やパネルディスカッションを通し、自治体PPS実現のための具体的な情報や示唆が得られたイベントとなった。あなたの地域でも、実施を検討してみては如何だろうか。

 

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