成熟市場BtoB企業の突破力 企業価値向上でブレークスルー

自社の主力事業が、BtoB主体の、世間的には地味な事業分野であり、しかも、自社はもとより業界全体がもはや頭打ちの時、いかなる方向でブルークスルーを図るべきか? それに対し明快な実証例を示した人物がいる。

デザイン脚立「ルカーノ・シリーズ」。

ハイセンスな顧客層に愛される脚立

「私は、元々“ええかっこしい”で、それが革新の原動力になっているのですよ」と愉快そうに笑うのは、長谷川工業の取締役副社長でマーケティング本部長の長谷川義高氏(44)だ。

長谷川工業は、1956年創業(設立は1963年)で、資本金は4億6,750万円、売上は69億9,800万円。脚立の製造販売では国内シェア約4割を誇るトップ企業であり、ハシゴ、踏み台など総合仮設機器、家庭用作業用品を取り扱う。

義高氏は、その創業家の一員であるが、2005年に彼が入社して以降の同社の躍進ぶりは素晴らしい。

それまで、脚立や踏み台と言えば、「見た目はゴツく、色もシルバー、その上、重くて持ち運びが不便。使用シーンは、主として日本国内の建設現場などの“3K職場”であり、仮に家庭にあっても、ほとんど物置や納戸に仕舞われたまま」というイメージだった。

ところが、彼が開発したデザイン脚立「ルカーノ・シリーズ」は、その卓越したセンスと機能性によって、“世界3大デザイン賞”のひとつ「ドイツ・レッド・ドットデザインアワード」において、2010年、ダイソンの「羽のない扇風機」やBMWと共に、“Best of Best”に輝いたのである。

“世界3大デザイン賞”のひとつ「ドイツ・レッド・ドットデザインアワード」の“Best of Best”を受賞し、世界で愛用される商品に

そして、それを皮切りに、毎年、米国、上海、香港など世界各国の名だたるデザイン賞を獲得し続けている。

今や、「ルカーノ・シリーズ」は、世界の富裕層家庭の、インテリアとして、さらにはギフト用品として、日本、中国、シンガポールなどのアジア諸国はもとより、米国、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、フィンランドなど世界21か国で愛用されている(図表「lucano世界販売網」参照)。

「ルカーノ・シリーズは、BtoBを主体とする“プロ用脚立のパイオニア”である当社の『企業価値』を高めた、という点にこそ、最大の価値があると思います」と義高氏は言い切る。

時代の潮目を読む“洞察力”

山形県で生まれ育った創業者の長谷川義幸氏は、19歳の時、「ショージハシゴ」と出逢う。これは近所の発明家が考案した二つ折りの鉄製ハシゴで、従来の、折り畳みのできない木製ハシゴに比べ、利便性・安全性ともに格段に優れた製品だった。

長谷川工業創業者の長谷川義幸氏

「これは売れる!」と確信した義幸氏が早速その販売に乗り出したところ、山形県の名産・サクランボの生産農家に飛ぶように売れたという。

地元で売り切った彼は、“商都”大阪で勝負したいと考え、1956年、大阪市福島区に長谷川商事を創業する。

その年、経済白書で「もはや戦後ではない」と謳われ、折からの「神武景気」と、続く「岩戸景気」に乗って、「白黒テレビ」「洗濯機」「冷蔵庫」が“三種の神器”と喧伝され、「ショージハシゴ」は、テレビのアンテナ工事用として大ヒットした。

(左)二つ折りの鉄製ハシゴ「ショージハシゴ」を山形県サクランボ生産農家に販売したことが創業のきっかけになった。 (右)1965年には伸縮自在のハシゴ「アップスライダー」を開発

やがて、義幸氏は、鉄よりも軽量のアルミニウムで、伸縮自在のハシゴ「アップスライダー」を開発する(1965年)。

時あたかも「いざなぎ景気」が始まり、日本全国で“夢のマイホーム”(2階建ての戸建)の建設ラッシュが発生し、このアップスライダーも空前の大ヒットとなる。

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