3Dプリント再生医療の最前線

3Dプリンターが先端医療の現場で活躍し始めている。CTスキャン画像から3Dデータを作成することで、患者にあわせた治療の提供が可能になったからだ。

ネット・データ・プリンター3つの進化が革命を起こす

東京大学の高戸毅教授と鄭雄一教授、および再生医療ベンチャーのNEXT21(東京都文京区)が開発した「CT-Bone」は、CTスキャンデータと3Dプリンターを組み合わせた、カスタムメードの人工骨成形技術だ。現在は厚生労働省への製造・販売申請の準備中で、早ければ2014年にも上市される。

NEXT21の鈴木茂樹社長は、医療と3Dプリンターの関係について次のように説明する。

NEXT21 鈴木茂樹社長

「3Dプリンターばかりが注目を集めていますが、医療分野では20年以上前から3Dプリンターが活用されており、チタン焼結人工骨、手術前確認用モデル、手術用治具などが実用化されています。現在起こっている大きな変化の根底にあるのはインターネットの情報伝達技術の進化です」。

大量のデータを即座に送受信できるようになったことが何よりも大きな進化だという。さらにデータキャプチャ技術の普及と進化。つまり病院にCTスキャンが普及し、そこから簡単に3Dデータが作成できるようになった。「ここに造形技術の進化として3Dプリンターが加わり、3つの進化が重なって医療現場に患者ごとに最適な治療を可能にする『カスタマイズ・イノベーション』が起きようとしています」。

患者にぴったりの人工骨をカルシウム粉体で積層

iPS細胞と3Dプリントの技術を組み合わせた、耳などの軟骨再生医療も研究が始まっている

CT-Boneは顔面の骨を失った患者の治療を主な目的としている。まず患部のX線CTスキャン画像を利用して3次元CADデータを作成。これをもとに、インクジェット方式の3Dプリンターでカルシウム粉体を積層し、人工骨を製造する。患部にぴったりの外部構造をもった骨を事前に用意できるため、手術時の微調整などがほぼ不要になり、従来方法に比べて手術時間は大幅に短縮することができる。

積層する粉体は「α型リン酸三カルシウム」という素材で、実際の骨と成分が同じのため、移植後に患者自身の骨に置き換わる。また、3Dプリンターで骨の内部構造を自由に設計できることも従来との大きな違いだ。骨伝導や血管の導入に適した内部構造を作ることで、自分の骨に早く置き換えることができる。

開発のきっかけはマサチューセッツ工科大学発のベンチャーが開発したインクジェット式3Dプリンターとの出会いだ。2004年からコーギー犬で人工骨移植実験を開始。2006年以降は約30人の患者に臨床試験を行い、患部への適合性や安全性を確認してきた。「開発を始めてから13年。ついにここまで来たかと感じますね」と鈴木社長は感慨深げだ。

事故や病気、先天異常などを理由に顔の骨移植を行う人は年間数千人にのぼる。現在の移植手段には、患者自身の骨を正常部から摘出移植する「自家骨移植」、他人が提供する骨を利用する「他家骨移植」、そして「人工骨移植」がある。顔面の骨の場合は自家骨移植がほとんどだが、健康な骨に傷をつけ、術後の審美性や摘出量に制限があるなどの問題があった。

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