DA PUMP『U.S.A.』を活用 話題の復興応援動画、なぜ成功?

DA PUMPの人気楽曲『U.S.A.』のアレンジ曲を使った動画、『カモンベイビー オカヤマ!!』が大きな話題を呼んでいる。その反響の裏に隠された、取り組みの背景と戦略を紐解く。

大崎 龍史(瀬戸内サニー 代表取締役、総合メディアディレクター)

今年7月、大きな爪痕を残した西日本豪雨。風評被害の影響もあり、災害直後、岡山県の観光名所である美観地区の人通りは、普段の半分以下にまで落ち込みました。

少しだけ私の話をさせてください。私は、大学時代を香川県で過ごす中、将来地域に関わる仕事をしたいと思うようになりました。大学卒業後、東京の企業で修行。そして、今年1月にベンチャー企業を香川県高松市に設立し、4月にインターネットメディアをオープン。会社としてこれからというときに、世の中が悲しいニュースで覆われてしまいました。

「人の行き来」を増やす動画を

復興を後押しするような動画を作りたい。そこで、DA PUMPの人気曲『U.S.A.』を活用した復興応援動画を企画。岡山県の友人・黒住宗芳くんの協力のもと、総勢200名が踊り、伊原木・岡山県知事も特別出演頂きました。岡山県民の皆さんの前向きな「笑顔」を撮影では大切にし、被災地に過度なプレッシャーがかからないようにiPhoneで撮影しました。

岡山県民約200人が踊り、伊原木隆太・岡山県知事 も出演する『カモンベイビー オカヤマ!!』。大きな反 響を呼び、50媒体を超えるメディアに取り上げられた

大元 宗忠神社では100名近くの岡山県民が出演

モーメンタム戦略で話題を加速

できるだけ多くの人に視聴してもらうために、YouTube起点で、SNS、インターネットメディア、マスメディアでの話題化を図りました。その時に重要視したのが、「モーメンタム(勢い)」です。話題の勢いを殺さず、繋げて、拡張していく工夫をしました。時系列に追って、公開後の動きを振り返ります(下図参照)。

モーメンタム戦略上の戦術ポイントと話題量・露出の関係

出典:著者作成

 

8月9日に動画を公開。まずは地域性が強いSNSであるFacebookで、岡山県民のみなさんの力で大きな「うねり」が起こりました。ただ、メディア掲載はインターネットメディア1媒体のみ。早速、話題が途切れそうになってしまいました。

そこから、なんとか新たな話題を作るためにTwitterに主戦場を移動。Twitterは趣味嗜好性と拡散性が強いSNSで、DA PUMPメンバーやファンも積極的に利用していました。モーメンタムを殺さないためにも、DAPUMPファンに共感して拡散頂き、最終的にDA PUMPメンバーにも反応してもらうことを目指しました。

Twitter上で工夫をして発信することで、ファンも共感し、拡散を手伝ってくれるようになりました。結果、なんとDA PUMPファンサイトでも掲載。ファン公認の動画になったんです(笑)。そうすると、ファンの中から、ISSAさんや他メンバーに対してこの動画を紹介してほしいという依頼ツイートが見受けられるようになりました。加えて、こちらからのアプローチもあり、ISSAさんがリツイートで反応。ファンの中でも盛り上がりが最高潮に達しました。

ここで、「DA PUMPメンバーもSNSで反応」というファクトが出来ました。手を休めることなく、改めてインターネットメディアの記者に連絡。そこから、ハフポストで掲載いただくことができ、SmartNewsやYahoo!ニュースの転載に繋がりました。Twitterで形成したモーメンタムをインターネットメディアに繋ぎ、拡張することができました。

また、一歩先に宮城県栗原市のアレンジ動画『I.N.K.』が話題になっていました。そこで、『I.N.K.』を視聴したYouTubeの視聴者やメディア関係者が合わせて視聴してくれるように、YouTubeのアルゴリズムに最適なタイトルや詳細欄、関連タグを設定。結果、『I.N.K.』経由で視聴してくれたキー局ディレクターから連絡があり情報番組で紹介。他キー局でもご紹介頂くことができました。

さらに、ローカル局や地元新聞社にはリリースの投げ込みが有効だと地元新聞社の方から意見を頂き、岡山県内で投げ込みを実施。プロジェクトメンバー一丸となってプロモートを続けた結果、地元メディアに多数ご紹介頂くことができました。

結果として、テレビ13番組、新聞10記事、ラジオ2番組、インターネットメディア34媒体。合計50媒体を超えるメディアに掲載いただき、視聴回数も2週間で20万回を突破。世の中は、復興を前向きに進めるポジティブな空気で覆われ、8月下旬の美観地区を訪れる観光客は、7~8割まで回復したと聞きました。

メディアの役割分担

今回の災害を受け、改めて各メディアの役割を整理し、今後の災害に備えたメディアの役割分担をする必要がある段階なのではないかと私は考えています。

テレビの報道力やリーチ力は地域において非常に重要な存在です。テレビが被災地を広くあまねく照らし、災害地域の課題をあぶり出します。そして、その課題に対して、インターネットメディアがSNS上の声を拾いつつ、ボトムアップ的な解決策を打ち、復旧&復興を後押しする。加えて、ラジオはよりコミュニティ起点で、映画というメディアもその時代を捉え後世に伝えていくという意味で、非常に重要なメディアだと考えることができます。

具体的な社会課題を解決する
ソリューションビデオに

海外ではインターネットメディアやインフルエンサーが配信しているソーシャルメディアを起点とした動画のことを、「ソーシャルビデオ」と呼びます。

日本において、ソーシャルビデオを単なる娯楽とせず、「具体的な社会課題を解決するソリューションビデオ」として定義できるかどうかが、いま問われているように感じます。

その先行事例として挙げられるのが、2015年に話題となった宮崎県小林市の『ンダモシタン小林』です。人口減少の問題を解決するために、同市は移住促進動画をYouTubeにて公開。1週間で80万回再生を突破し、市の公式HPへのアクセスは、動画公開前の8倍、同市の「空き家バンク」のホームページへのアクセスは10倍を超えたそうです。

また、ミレニアル世代に絶大な人気を誇るYouTuberも、実はそういった動きを見せています。西日本豪雨発生後、ヒカキンさんは募金方法を丁寧に紹介する動画を公開。募金者が1日で16万人増加。美容系YouTuberの佐々木あさひさんも100均防災グッズ特集の動画を大阪府北部地震発生後に公開し反響を呼びました。実は、YouTuberは社会性を備えたロックなジャーナリストなのです。

現在、愛媛県や広島県でも同様に動画制作を進めています。日本は災害が多発し、その度に人々は逆境に立たされます。その人々の背中を後押しし、復興を進めていく。この記事がその一助になれば、これほど嬉しいことはありません。

 

大崎 龍史(おおさき・りゅうし)
瀬戸内サニー 代表取締役、総合メディアディレクター