豊岡市 地方で暮らす価値を創造 小さくても輝く世界都市に

人口規模は小さくても輝き、住民が誇りを持って生活し、世界の人々から尊敬、尊重される「小さな世界都市」。その実現を目指す兵庫県豊岡市の取り組みが、注目を集めている。豊岡市の中貝宗治市長に、その柱や将来の姿について聞いた。

中貝 宗治(豊岡市長)

受け継いできたものを守り
育てて引き継ぐ

兵庫県北部に位置し、日本海に面する豊岡市では、地方創生と人口減少対策が最大の課題となっている。現在の人口は約8万2000人だが、2040年には3割程度減少し、約5万7000人となる見込みだ。

市では人口減少を和らげ、2040年の時点で約6万2000人とする目標値を定め、対策を進めている。しかし、目標値を達成しても人口は2万人減るため、「まちの在りようの転換も必要です」と中貝市長は言う。

豊岡市の転入・転出数は特に、「10代で大幅な赤字」となっている。市内の若者の約8割が、高校卒業時に地元を離れる。20代では、大学卒業時に戻り、新たに転入する人もいるが、10代で失われた人口に対する20代での回復率は40%程度に過ぎない。

「なぜ20代で戻らないのかと考えると、社会的、文化的、経済的に『貧しい地方』と『豊かな都市』という強烈なイメージがあるからだと思います。また地方は閉鎖的で、若者の出番はないと思われています。この状況を変えるため、私たちは地方で暮らす価値を創造する必要があります」

世界には人口規模は小さくても燦然と輝き、住民が誇りを持つまちもある。豊岡市は現在、「小さな世界都市(Local & Global City)」として、世界の人々から尊敬、尊重されるまちづくりを目指している。グローバル化の進展で、世界の文化や街並みが同様になる中、地域固有であることが輝く機会を生み出している。さらにインターネットの普及で、小さなまちも世界に向けて情報発信できるようになった。

城崎温泉では近年外国人宿泊客数が増加している

世界に通用する「ローカル」を磨く

中貝市長によれば、世界に通用する「ローカル」を磨く5つの柱は、以下のようなものだ。第1の柱は、「受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐ」ことである。例えば、豊岡市城崎町の城崎温泉では1925年の北但馬大震災に伴う火災で、旅館街がほぼ全焼した。復興では鉄筋コンクリートの建物を要所に配置し、防火壁の機能を持たせたが、その一方で伝統的な木造3階建ての旅館街を再建した。

町の住民は約3500人だが、今ではその魅力が世界的に知られ、2015年には国内外から約67万人の宿泊客が訪れた。「共存共栄」が町の鉄則で、町全体で宿泊客をもてなす。

豊岡市の外国人宿泊客数は近年、急増しており、現在は城崎温泉の閑散期である春と秋の宿泊客を伸ばすことが課題だ。このため、春や秋に訪れる宿泊客が多い欧米などを中心に、宿泊客をさらに増やす試みを進めている。閑散期の宿泊客増加は通年雇用の創出につながり、これは就職を希望する若者の受け皿となるはずだ。

豊岡市の魅力を高める官民連携のDMO(地域と協同して観光地域づくりを実施する法人)「豊岡観光イノベーション」も発足した。さらに大手電気通信事業者と協定を結び、城崎温泉を中心とした豊岡市内の観光スポットのWi-Fi整備や旅行者に関するデータ収集を進めている。これらの活動を通じ、より魅力的なサービスを提供していく。

「地方行政と企業の関係は、変化しています。従来のような単なる契約関係ではなく、共に未来を切り拓くパートナーとしての関係が求められています。これは日本全国の地方自治体に関して、いえることだと思います」

コウノトリ育む農法による水稲作付面積は年々増加している

2009年、鞄業界として初めてiFデザイン賞を受賞した

地域産業を支える
次世代の人財育成にも注力

「ローカル」を磨く第2の柱は、「芸術文化を創造し、発信する」ことだ。市では、閉館されていた歴史ある芝居小屋を2008年に復活させ、歌舞伎の公演を始めた。また、あまり使用されていなかった県立のホールを、2014年に「城崎国際アートセンター」としてリニューアル・オープンさせた。

舞台芸術に特化した国内最大のアーティスト・イン・レジデンスで、アーティストは3ヵ月まで滞在し、施設を無料で利用できる。世界各地から滞在希望が寄せられ、著名なアーティストの滞在や若手育成の場にもなっている。

第3の柱は、「環境都市『豊岡エコバレー』を実現」である。「コウノトリのまち」でもある豊岡市では絶滅したコウノトリを復活させ、現在は飼育下で95羽、野外で87羽が生息している。コウノトリの生息には、豊かな自然が必要だ。

2004年度には「豊岡市環境経済戦略」も策定し、現在は62事業を「環境経済事業」に認定。それらの事業が、市の経済を支え始めている。さらに、コウノトリ・ツーリズムや環境創造型農業の「コウノトリ育む農法」も推進している。この農法で作られた米は、地元の小学生たちの発案で、東日本大震災の被災地にも送られた。

第4の柱は、「内発型の産業構造を創る」ことだ。市では城崎温泉を中心とする宿泊と共に、特産の鞄づくりを「二大基盤産業」とし、強化している。鞄以外の革小物産業の育成や次世代育成、海外輸出拡大にも力を注ぐ。

第5の柱として、「『小さな世界都市』市民を育てる」ことも大切だ。今年度から全面展開している「Local & Globalコミュニケーション教育」は、①系統的に豊岡のことを学ぶ「ふるさと教育」、②幼稚園や保育園から始める英語教育、③演劇によるコミュニケーション能力向上の3つを柱とする。また、高校での「地域国際系列」創設や、観光コミュニケーション、アートマネジメントを学べる県立専門職大学誘致にも取り組む。

「これらがうまく行けば、さらに世界の人々が集まり、豊岡は世界とつながります。そうなれば、10代で豊岡を離れても帰ってくる人が増えるのではないでしょうか」

豊岡に住んで家族や地域を支え、家族や地域に支えられながら、世界とも結ばれていく。やがて、故郷に誇りを持った大人たちが増えれば、豊岡は「小さな世界都市」として、将来も活力あるまちを保ち続けられるはずだ。