2012年10月号

いまなぜ事業構想か

日本の中小企業が発展、活性化する為のポイント

清成忠男×坂本光司×東英弥

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日本において圧倒的な数を占める中小企業は、大震災・災害からの復興、人口減少、円高等の試練を乗り越えて前進していく中で、歴史を重ねて磨き上げ、蓄積してきた独自の技術やノウハウ、知財を活かしながら、さらなる成長を遂げることが期待されている。

多様で多彩な中小企業が魅力を発揮し、高め、経済活性化の主役として発展していくためには、どのような考えと姿勢で、その歩みを進めればよいのだろうか。

中小企業経営の最先端を知る3名による提言。

独自のアイデアと発想で輝く企業

清成 まずは、事業構想の視点から中小企業の定義を明確にしておきたいと思います。中小企業には大きく分けて2通りあり、一つは限られた市場で事業を行う自営事業主、もう一つは、今はまだ小さいけれど、成長を志向する企業です。ここでは、社会性を保ちながら、成長して飛躍することを志向する中小企業を対象にしたいと考えます。

坂本 家業として成長を志向せずに来たものの、事業承継者が第二次創業で新展開を果たす会社もあります。

商売と事業は違います。事業という中から考えますと、日本の多くの中小企業は、戦後、大規模産業の下に存在して成長をしてきました。業種は製造業からサービス業まで多様ですが、主にアメリカから導入された産業は、日本において〝セカンドトップ〞的な存在として根付き、出来上がってしまいました。大手企業の下請けや関連企業の枠組みにおいて資材を調達したり、部品を納入するモデルでは、親会社が不調になれば影響を受けます。この状況が現代の閉塞感を生み出していて、今こそ中小企業に新たな事業構想が必要だと考える所以です。

清成 その指摘は、まさに昭和30年代以降の日本経済の高成長の中で生じた一つの側面であり、海外から産業やモデルを導入するときには、戦略も構想も与えられましたから、創る必要がなかったのです。モデルに添いながら、和を尊んで頑張ってきた。そして今や目標がなくなりました。しかしながら、私や坂本さんは、日本にはもう一つの側面もあったのではないかという視点から、中小企業の研究を続けてきています。

まさに、独自のアイデアと発想で輝く中小企業はたくさんあります。清成先生は日本における中小企業研究および指導の第一人者として、また坂本先生はたいへんな数の企業を調査研究され、応援と支援をされています。中小企業を通じた社会に対する貢献は多大だと感じます。

坂本 極端な言い方をしますが、大企業と中小企業は、所詮生きる世界が違います。だからそこにはギャップはなく、個々の会社において、自身の夢や理念と、経営の実態の間にギャップがあるのです。高度成長の右肩上がりの市場では上を向いて口を開けていれば大企業が引っ張ってくれました。それが、指示が来なくなり、先が見えなくなったところで、自らの構想が問われています。

このような中で、事業構想大学院大学の設立及び月刊「事業構想」の創刊があります。新たな事業構想を考えれば、日本の復活は十分にあり得ます。中小企業の経営者は何と言っても、いま先生方が話されたことを認識しつつ、時代背景を踏まえ、問題点に気づいていかないといけません。社会全体がかかえる大きな問題は少子高齢化やグローバル化ですが、自らの仕事の立場に置いて、立ち位置を考えて問題と向き合うことが大切でしょう。自身の事業が、産業界および社会の中でどう存在しているか、現状認識をしないまま、目先の経済の動きだけで進もうとしているところが多すぎるように思います。私も長年経営をしてきて感じるところですが、企業経営者は責任を再認識することが重要です。人の上に立つリーダーは、雇用している=人を使っている、という感覚ではなく、雇用の責任を認識した上で、従業員とともに理念を実行していく、成長していくという考えが必要です。また、今後はいっそう少子高齢社会が進みますから、ベンチャーや新たな会社も加速的に増えることは期待できません。日本の雇用のためにも、優良な中小企業が新たな挑戦をし、その構想が支えられ、発展し、「中小企業を潰さない」ことがテーマです。

清成 事業構想大学院大学の授業でも、先日、立ち位置を見て自分のビジネスを再定義せよ、という講義をしました。そこからでないと事業構想は出てきません。7月11日に、政府は「日本再生戦略」を発表し、新聞にその要約と有識者の採点が出ましたが、一番甘い人で70点、厳しい人は30点でした。要するに、国家戦略に構想がないのです。中小企業にも触れていますが、何を言わんとしているのかがわからず残念です。国自体が再定義をしていない。

問題意識がないと、発想や着想、構想も出てきません。

清成 役所、NPO、企業。どんな組織にも構想は必須ですが、当然中小企業にも必要なのです。

坂本 私は経営者を対象に講演をする機会が多いのですが、現代は戦略よりも理念が大切です。何を通して世のため人のために尽くすか。社会的使命は何か。それを社内外に示すのが経営理念です。理念が不明確では、経営戦略が立てられません。顧客や社員を魅了する理念がないと、環境変化によってぶれてしまいます。

第四の経営資源を手に入れよ

清成 21世紀の事業構想と20世紀の事業構想はかなり違います。21世紀は人に着目する時代です。「知識基盤社会」が到来しています。これは、もの中心の工業社会のように、土地、機械や設備などの有形資産を重視するのではなく、知恵や知識を優先する社会です。人や情報といった無形資産がものを言う。知識を創造するのは個人であり、そして、個人間の「共創」が大切です。一人の経営者が何もかも生み出すことはできません。国の政策にも最近は「共創」という言葉が出てきますが、これを言い出したのはシャープの副社長だった佐々木正さんです。佐々木さんは、スティーブ・ジョブスや孫正義を最初に見出し、支援した人として知られています。異質の、優れた個人が集まって議論をすると、より高い次元のものが創造される、それを「共創」と定義したのです。ジョブスも孫さんも一人で成し遂げたのではなく、「共創」によって構想のスケールが大きくなりました。

事業構想を考える時は、一人であれこれと悩み、考えます。社会の一翼を担うような事業の発着想から始まり、最終型となる着地点をまず定めます。理念、哲学という言葉を使えば、こういうものが必要ではないか、皆が助かるのではないか、と想像しながら進めますが、そのアイデアを最終までもっていくには、さまざまな角度からの意見が必要です。しかし経営者や新規事業の開発担当者は孤独であることが多い。だからこそ、志を持つ人の集まる事業構想大学院大学のような場が必要だと考えています。

清成 まさに、「共創」の場が大切です。

いろんな方の考えを聞きながら、最初と最後を考えた人間にはこれだったらいけると思う瞬間があります。事業計画に入っていく段階では、その領域の専門家や研究者、MBA的なコンサルタント等から十分な意見を聞いて作り上げていくべきです。

坂本 経営の三大要素はヒト・モノ・カネと言いますが、現場で調べてみると、人材・技術・情報以外に、好調な会社では第四の経営資源が有効に機能していることがわかりました。これは外部資源有用というか、異業種交流というもので、組織の持つ人的ネットワークなのです。経営者の問題や構想力は前提として、自社の社員のように会社のことを心配してくれる人材が、いかに深く広く存在するかどうか。5年10年と追跡調査をしたところ、この有無で、差はさらに広がることもわかりました。中小企業が成長するためには、第四の経営資源力の確保が必須です。社会一般で、異業種交流や農商工連携という言葉が言われるようになっていますが、例えば介護の仕事をするなら、看護師、医師を巻き込んで議論をする、高齢者の方々を多数ネットワーク化して話を聞くなど、社内の技術者が本を読んで企画を作るのではなく、人脈をいかに広く深く作っていくかがポイントです。第四の経営資源がきっかけで成長を続け、利益を上げ続けている中小企業は少なくなく、東証一部上場企業のトップが集まる勉強会でも、その最先端に興味が持たれています。

根幹はみな一緒なのでしょう。畑違いの人から話を聞くと、大胆な発想が出ます。企業ではトップや幹部の人脈が中心ですが、顧客や関連協力会社をはじめ、ステークホルダーを見渡すと現場の人脈が見えてきます。

組織の内部に眠る知財を活かす

続いている企業には、ハード、ソフトを含む多様な知財が蓄積されています。それを認識していない、気づいていない面があり、だからこそ外部の目が必要です。あらゆるところに眠る宝の山をいかに発見するかが課題です。

清成 大企業が考える知財は特許が中心ですが、ノウハウ、現場の技能、技術と機能を媒介する理論など、中小企業にもさまざまな知財があります。かつては大企業が潤沢な予算を使って特許を申請保有しました。中小企業が新しい製品などを開発すると、特許侵害だと提訴するケースもありました。そのような次元の話ではなく、現代においては、中小企業が蓄積しているさまざまな暗黙知を新たな経営資源の一つとして位置づけるべきです。

坂本 中小企業の経営者には 顧問の会計士、税理士、弁護 士がいますし、銀行もいます が、仕事を切られると困るでし ょうから、平時には当たり障り のない話しかしません。トップ は、客観的な立場で、辛口に、 大所高所の話をしてくれる人 をそばに置くことが重要です。 本物の人物は、その人の背後に 500人、1000人のプロ がいるのです。

構想し、起業する人は、他者に話をしてもらって教わるのではなく、いろんな人の話を自発的に聞いて、チョイスして落としこむことが必要です。

清成 チョイスする能力が高くないといけない。

坂本 私はこれまでに約6600社の会社を見てきましたが、数十年間増収増益、この10年間も経常利益が5%以下になったことがないという中小企業が1割程度存在します。このような会社には共通項があり、細かくは20程度、集約すると7つ程度になりますが、その一つが、知財を活かして新たな価値を創る、「市場創造型企業」です。 去年創ったもので美味しいご馳走を食べようとしていない。次々とお客様を魅了する商品を創りだし、新しい感動価値を顧客に与えます。市場対応、顧客対応型ではなく、価値創造型で、指示待ちでないところが共通しています。未来工業は有名企業ですが、1年間に新商品を1000作り続けていて、去年と同じものはほとんどありません。企業理念は、「常に考える。なぜ?なぜ?なぜ?」という。知財を活かし、改善改良も含んで、川上に行くも川下に行くも良し、組み合わせ、横展開も含んでいろいろ試みることです。そして、人に関係するものがキーワードです。

本気の行動とモチベーション

トップ、幹部、社員、、外部の協力者の立場でも、その人に本気度がどのくらいあるかが重要です。私がモチベーション3大要素と考えるのは「やる気」「根気」「元気」です。これがないと俯瞰的にものが見えませんし、ものごとが進みません。同時に、時代において大事な要点を整理することが求められていて、時代に即した新しい感覚をいつも考える必要があります。それが本気度です。本気度イコール気力で、そこから閃きが生まれます。気を配れば気配を感じる。活躍している会社や、続いている会社にはこれがあるのです。結局は人材になってきます。経営トップ自身の人間力です。本学はテーマが事業構想ですから、院生は最初から本気です。授業への姿勢も他には見られない真剣さがあると感じています。この本気をいかに波及させるかが事業構想の最も大事なことの一つととらえています。

清成 気配、時代感覚は大局観につながります。大局観がないと、冒頭に話した「再定義」になりません。

MPDはMBA+クリエイティブと表現していますが、現代は特にクリエイティブの部分が大切です。事業クリエイターです。

坂本 中小の経営者がとかく誤解をしているのは、中小企業における人材問題はミドルや社員ではなく、経営者自身ということです。本人は「人材がいない」と言いますので、それ以上面と向かって言えないことも多いのですが、経営者に優る人材がその組織にいるわけがありあません。学び続け、苦しみ続ける、経営者本人のやる気が中小企業の柱です。

事業は市場や顧客と向き合うものですから、実態を見ることが大事です。机上で計画や戦略を立て、それをもとに研究を進めると違う世界に行きがちですが、本当はシンプルなものです。

坂本 私の研究室では資料や本を見て調べることもありますが、実際に数多くの会社を訪問します。1年で1人が平均70社程度、多い学生は100社訪ねています。出会うと、たくさんの気付きがあります。時代は男性よりはむしろ女性。若者よりは高齢者、健常者よりは障がい者。社会的に弱いとされている人たちが幸せと感じる商品、サービス、会社をつくることが成功の要因になっています。社会貢献をしたほうが会社の業績も社員のモチベーションも上がることを、実行している会社は知っています。

清成 世界銀行副総裁を務める西水美恵子さんのような人が、坂本さんの本に興味を持つことも、その客観的評価だと思います。坂本さんは数多くの中小企業を見ていくことで、共通で光っているものがあることを探し出しました。社会的に弱いと言われていた部分への提案ですが、限界に目を向けると、逆に全体が見えるものです。これはすごい発見であり、新鮮な視点です。

坂本 実態調査をして現実を見れば、考えが変わります。企業の経済性と社会性はイコールであり、相反するものではありません。利益の高い会社は社会性も高い。リストラをしない、障害者雇用に尽力する。定年が来ても働きたい人にはチャンスを与えるなどの取組みをしながら立派な業績を上げています。リーマンショック、震災を経験し、決定的に社会は変わりました。他社を追い抜く、一番になる、シェアを高めるという目標を持つ会社はほとんどなく、どうしたら社会に認められるか、良い会社になるかを志向しています。赤字をださないことは前提ですが、人を輝かせるのが会社の役目です。直接関係のない人も含んで、社会によい価値を与える。社会価値の高い会社は、結果として経済価値も高いのです。

清成 アメリカの中小企業庁が「儲かるパブリックリレーションズ」という本を発行しています。冒頭に、ビジネスを展開しながら社会貢献を行えば、結果として利益がでると書かれています。例えば、中小企業が地域に貢献するには、寄付だけではなく、小学校で机や椅子が壊れたらすぐ直しに行ってあげるといった、コミュニティーの問題解決を本気でやっていくといったことなのです。

私は経営者ですので、実感として、理念に基づいた貢献をしていくことが大事だと考えています。ブランドコミュニケーション、社員のモチベーションにもなるからです。事業とかけ離れると違和感が出ますから、仕事の分析をやりながら、自社にどういうことができるかを知ることも大切です。 人を育てるという点では、サッカーの香川真司選手が先日英国のマンチェスターユナイテッドに移籍をしましたが、FIFAの「貢献金制度」は良くできた制度です。15億円の移籍金の内、5%を12歳〜23歳まで育った日本のチームに支払うと言います。これを聞き、私は事業を行う企業に取り入れるべきと思いました。ビジネス社会は競争の世界でもあり、人材を取られるから教えない、というかたちになると未来がありません。時代の節目にあって、組織体系、人材育成も、時代に即したものが必要です。企業経営も変わっていかないと事業が成り立たちません。

清成 FIFAはスポーツ大学院大学を運営していて、イタリア、スイス、イギリスの大学と組んでさまざまなカリキュラムを提供しています。社会で本当に活躍できるグローバル人材の教育は大きな課題です。

事業構想を考える時、早い段階から社員や仲間が参加をしていくことで教育にもなり、盛り上がっていきます。

坂本 人のやる気は、参加をすることから始まります。全員参加経営で上も下もない、問題も情報も共有。自分たちがつくった事業だとなり、構想づくりに寄与します。社員の特技や趣味などの能力も事業に活かせることはたくさんあるでしょう。経営者が社員から学べることは多い。

清成 異業種交流も目的が不純なものは続きません。クリエイティビティを一段も二段も上げる気概が必要です。

坂本 いま業績のよい会社は、一次産業でも二次産業でも三次産業でもない、業種分類できないような、いわゆる二・五次や六次産業的な存在の会社が目立ちます。製造業的な小売業など大手流通とは競争しないところで戦えるような中小企業が誕生しています。

清成 縦型の分業からは生まれない、小さな市場は多数あります。

マーケティング計画に、適したメディアも手軽に活用できる時代ですから、柔軟で機動力のある中小企業こそ、アイデアと行動力次第で画期的なことができるはずです。

(文中敬称略)

清成 忠男
東京大学経済学部卒業、法政大学経営学部教授、経営学部長を経て、1996年から9年間、法政大学総長・理事長を務め、5学部の新設や、日本最初の企業家養成ビジネススクールを立ち上げるなど、大学経営を活性化させる。2005年から法政大学学事顧問。その間に、沖縄振興開発審議会会長、日本私立大学連盟副会長、財団法人大学基準協会会長などを歴任。2010年瑞宝大綬章受章。『ベンチャー中小企業優位の時代』、『企業家とは何か』など著書多数。
坂本 光司
法政大学大学院政策創造研究科教授。同大学院静岡サテライトキャンパス長。1947年、静岡県出身。1970年法政大学経営学部卒業。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授等を経て現職。他に、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会委員長等、公務多数。主な著書は『日本でいちばん大切にしたい会社1.2.3』(あさ出版)など。中小企業経営研究の第一人者として、これまで6,600社を超える企業への訪問調査・アドバイスを行う。
東 英弥
学校法人東教育研究団事業構想大学院大学理事長。これまでに11社起業し、宣伝会議を加えた12社を経営。事 業の傍ら、東京大学大学院新領域創成科学研究科等で学び、理論と実務の融合を実践する。宣伝会議では、「広報会議」「販促会議」をはじめ、環境と哲学の雑誌「環境会議」「人間会議」を創刊した。著書に『統合型ブランドコミュニケーション』他。早稲田大学日本地域文化研究所副所長、地域活性学会理事等の公職多数。
■リンク:東英弥公式サイト
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