マーケティング・ブランディングこそ重要 地域産品の海外販路開拓

地域産品の海外販路開拓を支援したいと起業したエンパピリオの小野章子氏は、流通に関する知識と人脈を補強すべくふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業*に臨んだ。国内外での研修を経て、前段階としてのマーケティングやブランディングの重要性に気づいたと語る。

前職のアマゾンジャパンでは、ときには海外出張もこなすなどグローバルに活躍していた小野氏。「地方で美味しいものを作っている生産者の方に、ワクワクするような働き方をしてもらうために何かしたい」という思いで、2015年11月にエンパピリオを創業。現在は、自社で運営するウェブサイト「CUPIDO」やSNSを活用し、地方自治体や生産者の海外への情報発信をサポートしている。

そんな小野氏が「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」でフォーカスしているのが、アメリカにおける緑茶の販路拡大だ。創業間もない頃に縁あって茶農園を訪ねた際、全国20以上の都道府県で生産されている緑茶において、一番茶の収入が生産者の年間収入の80%を占めていると知り驚愕。生産者の労力に季節変動はほとんどないにもかかわらず、「香り」を重視する日本のマーケットでは、8月以降に収穫される「番茶」は一番茶である「煎茶」の6分の1程度まで価格が下落するという。そこで、番茶のすっきりとした爽やかな香りと後味を活かし、海外マーケットに向けて新たな価値観をプラスした商品を投入できないかと考えた。

小野章子エンパピリオ代表取締役

「アメリカに本社を置く外資企業での勤務経験から、様々な出身国や価値観、食文化の入り交じる西海岸の風土に馴染みがあります。逆に、私に不足している食品流通の知識やネットワークを補強し、商品化や販路開拓につなげていくことが今回の研修における課題。日本の代表的な産品の一つである緑茶を丹精込めて作り続けている生産者の方々の年間収入の安定化に貢献したいですね。

かつて中小企業庁の創業補助金を獲得後、アメリカ市場を視察したとき、食品バイヤーとのネットワークを拡げることが食品流通を成功させる鍵だと感じた小野氏。実践的な研修が組み込まれた「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」は、「聞けば聞くほどぴったりの内容」と確信し、東京での講義・ワークショップを受講した後、2016年10月より地域産品の海外の販路開拓を支援するトランセント社で海外視察を含む研修を受けている。

まず、東京での研修では、番茶のカフェイン含有量が少ないスッキリとした味が日本茶を飲み慣れていない外国人にとっては魅力に変わるのではないかと仮説を立てた。そして、初期ターゲットとして「健康志向の高い20~60代の女性」と自身に近いペルソナを設定。女性に人気のあるフレーバー紅茶やフレーバーウォーターのように、地方産の果物で香りをつけた緑茶を開発すれば、「フレーバー・グリーン・ティー」として驚きや面白さを演出できると考えた。

さらに、血糖値上昇抑制効果を持つポリサッカライドを引き出す水出し法を提案することで健康志向に訴えるというアイデアも加え、アメリカでの研修に臨んだ。

現場を見て気づいたマーケティング、ブランディングの重要性

視察前半のロサンゼルスでは、日系のスーパーマーケットや食品・雑貨等を扱うセレクトショップを巡り、輸入茶葉がどのように売られているかを確認。視察前は、手軽に飲めるティーバックでの販売をイメージしていたが、中国産と横並びにされては価格で比べられるだけと気づき、パッケージデザインを含むブランディングや販促が新たな検討課題に。

ロサンゼルスには、トランセント社のビジネスパートナーが経営するセレクトショップもあるが、こちらはロサンゼルスの消費者のテイストに合わせたセンスの良い日本産品を取り揃えると同時に、日本ならではの伝統的な製法やその価値を購入客にきちんと説明できる体制になっている。量販店とは好対照だ。

ならば、価格競争とは別の“土俵”に立てるよう、パッケージデザインなどで商品の魅力を醸し出せないか?健康情報などを付加できないか?発想をガラリと変えて食品ではない売り場を狙ってはどうか?

「たとえば、スポーツクラブで自由に飲んでもらえるようポットに入れて提供するといったシーンを想定すれば、商品の形態も変わってきます。物を流す前に、マーケティングやブランディングをしっかりしておかなければ......と再認識しました」

その後にシアトルも訪問。広いアメリカの中でも比較的移民の多い地域であるせいか、「多様性を受け入れる空気があると感じました」と小野氏。日系やインド系など茶文化に抵抗のない人も多く、緑茶のポテンシャルを発揮できる可能性を感じて帰国した。まだ商品化への第一歩を踏み出したばかりだが、「課題が見つかったことで、歩むべき道が見えた気がしています」と語る。

今後の商品化に向けての原料調達先探しやコスト計算、商品パッケージングの委託先や物流パートナーの選定、地方自治体や生産者らを巻き込んでのネットワーク構築など、国内でやるべきプロセスも見えてきて、ますます意欲を高めている。

*ふるさとグローバルプロデューサーは、ふるさとプロデューサー等育成支援事業において、育成しています。当事業は、中小企業庁の補助事業として株式会社ジェイアール東日本企画が実施しています。同社は、カリキュラムの作成等を学校法人日本教育研究団事業構想大学院大学に委託しています。

日系のスーパーマーケットや食品・雑貨等、現地生活などにて視察やヒアリングを実施。渡米前に作成した仮説を現地で検証する

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