「新築信仰の強さ」は嘘 中古住宅の販売、田舎にこそチャンス

古い住宅を仕入れてリフォームし、「価値を足す」。買い取り再販のカチタスは、地方を中心に展開し、「中古住宅再販戸数ランキング」で3年連続1位を記録。販売を伸ばしている背景には、現社長・新井健資氏による数々の改革がある。

「日本人の新築志向が強いというのは、嘘だと思う。むしろ供給サイドの問題で、これまではお客様が本当に欲しいと思える中古住宅がなかったから、新築に流れていた。そもそも、新築か中古かという議論ではなく、お客様が求めているのは暮らしを良くすること。良質な中古住宅があれば、選択肢に入れるお客様はたくさんいます」

そう語るのは、カチタスの新井健資社長だ。カチタスは中古住宅の買い取り再販最大手であり、2015年度には3034棟もの中古住宅を販売。売上高は393億円にのぼる。

新井社長はコンサルティング会社やリクルート等を経て、2012年にカチタスの前身「やすらぎ」のトップに就任。当時、やすらぎは業績不振に陥っており、新井社長は投資ファンドの要請を受けて同社の経営を担うことになった。そこから事業を立て直し、カチタスを成長企業へと生まれ変わらせたのである。

「結果を出すには、どれだけしつこく徹底できるかが重要になります。私は現場の声を直接聞き、それに対して一つ一つフィードバックを繰り返し、信頼を築いていきました。信頼がなければ、現場は動きません。最初の1~2年は、企業文化を変えることに力を注ぎました」

新井 健資(カチタス 代表取締役社長)

物件を仕入れるノウハウ

カチタスが手掛けているのは、中古住宅を仕入れてリフォームし、再販売するビジネスだ。やすらぎ時代は、仕入れを競売物件に頼っており、競売物件の増加を追い風に全国展開を果たした。しかし、環境が一転し、入札にかかる競売物件が減ってくると、根幹となる仕入れが機能せず、業績が先細りするリスクをはらんでいた。

新井社長は、そのビジネスモデルを転換。就任当時、仕入れの9割を競売物件が占めていたが、現在は1~2%程度。今や仕入れのほとんどが、個人が所有する中古住宅の買い取りだ。

中古住宅の質は千差万別だ。カチタスはその中から、再販売できる見込みのある物件を見極める。

「すぐに買い手がつきそうな物件や、腐朽・破損で使えない物件は誰が見てもわかります。現実には、その中間に再販売できるかどうか微妙なラインの物件が膨大にある。見えないところに瑕疵がある恐れもあり、リスクがあるので多くの会社は手掛けづらい。そこにビジネスチャンスがあります」

カチタスに持ち込まれるのは、ボロボロの空家も多い。カチタスは現場調査を徹底し、実際に買い取るのは数棟に1棟程度だ。

「売っていただくためには、お客様との人間関係が大事です。しっかりとした人間関係を築くために、半年、1年とかけることもあります。お客様が家を手放すのは、相続を機にというケースも多く、権利関係を整理するために、司法書士に手伝ってもらいながら全国に散らばっている親族の方と話をするときもあります」

売るためには「企画力」が必要

また、カチタスでは、買い取りからリフォーム、再販売まで1人の社員が担当する。

「担当に求められるのは、企画力です。最初に購入されるターゲット層の家族構成、暮らし方をイメージし、どのようにリフォームするか、出口を想定したうえで仕入れを行います」

カチタスは、中古住宅を徹底的にキレイに清潔にして、前の住人の生活感を一切感じさせないようにリフォームする。さらに、カチタスにとってリフォームとは、家の中の改修にとどまらない。

「例えば、昔の家は駐車場が1台分のところが多いのですが、地方では1人1台の時代です。場合によっては、家のスペースを削ったり、隣の家から土地を譲ってもらう交渉をして、駐車場を増やします」

企画や設計は、現場によって異なる。そうした中で、仕上がりの質を保つために標準仕様書をつくり、全社で遵守する。また、成功事例や失敗事例を共有し、ノウハウの蓄積を進めている。

「地域に根差すことが重要なので、スケールメリットが効きづらいビジネスです。だから、地場で中小事業者が存在している。スケールメリットがあるとしたら、知見の共有。カチタスは全国に100店舗以上あるので、その強みを発揮できます」

カチタスは、前の住人の生活感を一切感じさせないように、中古住宅をリフォーム。徹底的にキレイに清潔にしたうえで、販売する

人口減少の地域こそチャンス

カチタスは、人口5万人~10万人規模の地方都市に多くの店舗を構えている。一見、人口が多いほど、住宅のニーズは高まるように思える。しかし、実は少子高齢化が進む地域ほど、ビジネスになりやすいという。

「高齢化が進む地域では、相続で物件が売りに出るので、仕入れがしやすい。また、地方は建売住宅の供給が少ない。マーケットが小さくても、売り物が出ないところにキレイで安価な中古住宅を提供すれば、十分にニーズはあります」

カチタスが販売する中古住宅は、平均1300万円程度。その価格で戸建てが手に入り、しかもキレイで実用性が高く、購入後2年間は瑕疵担保保証が付く。商品力を高めることで、カチタスは売上げを伸ばしていった。

大手の仲介会社は、政令指定都市レベルの都市にしか支社を置いていない。一戸建ての買い取り再販事業には、多くの手間とノウハウが必要で、地方にまで出向いて手掛けようとするプレーヤーはほとんどいない。カチタスにとって、人口が減少する地方は競合が少ない成長マーケットなのだ。

カチタスが全国的な店舗ネットワークを有しているのは、もともと、やすらぎ時代に競売物件を仕入れるために、裁判所のある都市に積極的に進出した結果でもある。かつて機能不全に陥っていた資産が今、競争力の源泉になっているのだ。

2016年3月には、名古屋に拠点を置く同業のリプライスと経営統合。リプライスは都市部で展開しており、比較的新しい物件の仕入れに強みを持ち、カチタスとは補完関係にある。両社を合わせた再販物件数は、昨年実績で年間3700棟規模。新井社長は「近い将来、1万棟を達成したい」と語り、さらなる需要の掘り起こしを狙っている。

新井 健資(あらい・かつとし)
カチタス 代表取締役社長

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