日本有数の文化財、「保存」から「活用へ」 奈良・荒井知事の構想

奈良県は、世界遺産に登録される「古都奈良の文化財」をはじめとした豊富な文化資源を持つ。これらを活用した観光振興などの地域戦略を、荒井正吾知事に聞いた。

荒井 正吾 奈良県知事

「脱ベッドタウン」を目指す

――奈良県の現状と課題について、どう見ていますか。

奈良県の人口は現在約140万人です。大阪のベッドタウンとして人口が伸びてきた経緯があり、30数年の間に約60万人と、急速に人口が増えた地域です。

いま、超高齢社会を前に、ベッドタウンの高齢化という、大都市近郊の地域がどこも抱える問題を、我々も抱えています。さらに、雇用の受け皿があまりなく、若者が県外に出て行く傾向にあることも、課題のひとつです。

県としては、「住んで良し」、「働いて良し」、「訪れて良し」を地方創生の基本的な考え方とし、最も大きな構造改革として「脱ベッドタウン」を掲げています。

一挙に増えることが予想される高齢者に対する社会保障、医療・介護の充実と、若者がしごとの場を奈良で見つけられるよう、産業を興していくことが喫緊の課題です。

特に、企業誘致には力を入れており、県内の工場立地件数は2007年~2014年の8年間で204件にまで伸びています。

誘致と合わせ地元の中小企業の振興や起業支援も行うことで、産業のバリエーションを広げ、若者が奈良で就職できる選択肢を増やし、人材の地域内循環を目指していきます。

奈良県は、奈良公園と平城宮跡を結ぶ大宮通り周辺を一体的に整備する「大宮通りプロジェクト」を推進。奈良初の外資系ホテルの誘致(上)や、コンベンション施設の整備(中)、平城宮跡の利活用(下)など、様々なプロジェクトが進んでいる。

文化財を「保存」から「活用へ」

――奈良県のポテンシャル、地域資源にはどんなものがありますか。

奈良には多くの文化財があります。1998年に世界遺産として登録された「古都奈良の文化財」は、東大寺や薬師寺など国宝建造物を有する6社寺と、特別史跡である平城宮跡、特別天然記念物の春日山原始林の8箇所の遺産全体が物語る、奈良の歴史や文化の特質が評価されました。

これまでは、これら文化財は、触らぬよう、壊さぬよう保存することが通常でした。それを地域資源として「活用しよう」というのが、新たな動きです。保存するだけでなく、文化財の意味を知り、全国、世界へ発信していくことが、活用の第一歩だと考えています。文化資源の値打ちを多角的に勉強し、展示、発信していくため、昨年度、「文化資源活用課」を作りました。

2010年1月1日から1年間開催した「平城遷都1300年祭」では、全国、世界から多くの観光客を呼び込むことに成功しました。2012年からは、世界遺産の社寺などを会場にした音楽祭「ムジークフェストなら」を展開しています。このように、奈良の持つ歴史や文化財を資源と位置づけ、まずは、観光振興に力を入れていきたいと考えています。

――奈良の仏像を海外で展示するという事業も動いていますね。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたプロジェクトです。奈良の仏像は、世界的にも稀有な仏像彫刻であり、これらを世界の著名な美術館で展示することで、古代日本の歴史文化を効果的に発信し、海外からの観光客誘客につなげていくことが狙いです。

現在、展示の交渉を行っている施設は、英・大英博物館と、仏・パリのギメ東洋美術館です。このプロジェクトには国の賛同も得ており、支援をいただいています。

奈良の仏像は、ギリシャやローマの彫刻にも匹敵する、特色ある文化財であることは間違いありません。ただ、どう展示するかには工夫が必要だと思います。

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