130年の歴史の根底にある 革新を続ける企業文化

エジソンの創業から138年、テクノロジーカンパニーとして常に新たな市場を切り拓いてきたGE。電気の時代の幕を開け、ジェットエンジン時代を築き、医療に革新を起こし、そしていま、「デジタル・インダストリアル」という未知なる市場の開拓に乗り出している。変革し続ける企業イメージが、世に圧倒的な存在感を与える。

変わり続けることが変わらぬ伝統

トーマス・エジソンが最初の商用電球を生み出したのは、1879年。その3年後には、ニューヨークに米国初の中央発電所を開設し、「夜も明るい時代」を実現した。また、競合メーカーであったトムソン・ヒューストン・カンパニーと合併し、1892年、ゼネラル・エレクトリック・カンパニー(GE)が誕生した。

現在、GEのCEOを務めるのは、ジェフ・イメルト氏。初代チャールズ・コフィンから9代目となる。130年以上の歴史を持ちながら、歴代CEOがたった9人というのは、驚くべき少なさだ。その理由は就任年齢の低さにある。現CEOのイメルト氏も、45歳の若さで、GE約30 万人の頂点に立った。

GEジャパン コーポレート・コミュニケーション本部の清水智美マネージャーは、「GEの経営の根底にあるのは変革の精神です。時代は移り変わるもの。次の時代も圧倒的な価値を提供するために、経営の大変革を繰り返してきました。変わり続けることが、GEの変わらぬ伝統なのです」と話す。

清水 智美 GEジャパン コーポレート・コミュニケーション本部 マーケティング・コミュニケーション マネージャー

時代を先読み、選択と集中を

初代チャールズ・コフィンは、「エジソンという稀有な発明家に依存しているだけでは会社の永続はない」と、システマチックな製品開発や競争力の強化を目指し、米国初の科学研究所を開設。天才的な才能に依存するのではなく、投資を続けて発明を繰り返していける素地を作った。GEはイノベーションカンパニーであることを自負し、常に売上の6%を研究開発に費やしている。

その後、二代、三代のCEOは国際化を進め、海外における本格的な生産や国をまたいだ合併に早い時期から乗り出した。他に先駆けた国際化への動きが、現在175ヵ国で事業を手がけるグローバル企業を作りあげたといえる。

GE の現CEO を務めるジェフ・イメルト氏。創業から130年経つが、9代目の社長。

やがて戦時中、発電タービン技術を応用して戦闘機のジェットエンジンを開発。戦後のジェット時代到来を予感した当時のCEOチャールズ・ウィルソンは莫大なR&D投資を図り、1942年に世界初のターボプロップエンジンを開発。その後、すべてのジェットエンジンの原型ともなった「J47」エンジンを完成。この航空機エンジン分野は、現在でも世界トップシェアを誇っている。

そして、20世紀最高の経営者とも言われた8代目CEOジャック・ウェルチが、各産業分野、市場で1位か2位でなければ撤退するという強烈な戦略を打ちだした。強く戦える場所でこそ、潤沢な利益を得て技術投資を図っていける。ウェルチ在任期間中にGEの時価総額は30倍にまで伸びた。

「時代のトレンドを先読みし、選択と集中をするのが、GEの経営の歴史です。そうすることで、常に新しいテクノロジーを生み出して各産業をリードし、新しい市場、時代を切り拓いてきました」

チャレンジと変革、これが、GE130年の歴史の根底に流れる企業文化と言える。

地殻変動の中心に

GEではこれまで、アビエーション(航空)、エネルギー、ヘルスケア、トランスポーテーションなどのインダストリー事業を手がけてきた。

ハードウエアカンパニーとしての印象が強いGEが目指す次のステージが、ハード+ソフトウエアカンパニーとしての姿。インダストリー分野の高い専門性と最新のデジタル・アナリティクス技術を組み合わせることで「デジタル・インダストリアル・カンパニー」という新たな企業の姿を体現しつつある。

GEでは現在、ソフトウエア事業に投資を進めており、同事業の収益は2020年までに現在の3倍近い150億ドルになると見込む。

イメルトCEOは、収益の90%をインダストリアル事業やテクノロジーから獲得するという目標を発表。インダストリアル事業に注力すると同時に、巨大化していた金融部門、GEキャピタルを売却するという、大胆な舵を切った。その第一歩として、産業用データ解析のためのソフトウエア・プラットフォーム「Predix.io(プレディクス・アイオー)」を開発。

このPredixは、産業用アプリケーションのための世界最初で最大のマーケットプレイス基盤となる。Predixによる新たなソフトウエアと製品を展開することで、GEの持つインダストリアル分野の知見と技術を顧客に提供し、生産性や品質向上に繋げていく。GEにしかできない、人と産業機械をつなぐ高度なソフトウエアを提供するのだ。

CADのデータと3Dプリンターがあれば、設計データを送るだけで、工場でなくともどこでもモノができる時代。ノウハウや発想も自社でためこまずに、クラウドソーシングなどを利用して外から短期間で取り入れることができる。モノづくりの常識と戦い方が劇的に変わりつつある。

「モノづくり産業は大きな変革の時代を迎えているといえます。この地殻変動を、中心的存在となって起こしていく。成長が鈍化していた先進諸国に、新たな発展のシナリオを示す。世界や社会にプラスのインパクトを与えるという存在意義こそ、企業のブランド力なのだと思います」

社員が企業の語り部

「ブランドという言葉の語源は、牛につけた焼き印です。差別化、識別し、分かりやすく印象づけることがブランディングだとすると、GEにしかない強みを、いかに明確に示せるかが勝負となります」

BtoBビジネスにおいて、ブランド力を発信するための最も強力な媒体となるのは、社員だという。「GEを選び、何十億、何百億という投資を決断していただくうえでは、お客様と接する社員がどれだけ企業の語り部となり、ブランドを映す鏡になれるかが重要です」

社内でも「GEとは何か、自分たちの役割とは何か」といった思想や価値観を社員と共有する取り組みに力を入れている。

「GEはいま、最も大きなターニングポイントを迎えています。これまでずっとインダストリアル、重工業の世界にいた社員にとって、デジタル、ソフトウエアの世界へと発想や行動を変換するのは容易ではありません。だからこそ“GEにしかできない変革がある”ということへの情熱を皆で共有し、面となって変革を進め、価値をお客様に届けようとしています」

清水氏は、「社内向けのブランディングも社外向けのブランディングも同じ」と言う。社員に対して伝えたメッセージは、その社員が媒体となり、外に伝わっていくからだ。

重要なのは、メッセージがどのくらい人の心を動かすか。「時代の変革期をGEと共に突き進みたい」、そう思わせる力が、真のブランド力だ。

インナーブランディングとして企業の理念を掲載した冊子を作成し、配布した。社員が、企業の語り部となり、ブランドを発信する中心になっている。

100年企業のブランド力

GEジャパンは、2014年7月に、オンラインマガジン「GEReportsJapan」を創刊した。グローバルな企業間競争や先進技術、企業経営や人材開発などに興味のあるビジネスパーソンが対象だ。

電力、航空や医療などの分野で、GEが世界各地で手がける最新の取り組みを紹介するほか、GEのイノベーションや製造技術革新の取り組み、スピードを増す世界の変化の中でGEがどのように競争力強化に取り組んでいるかなどを発信している。

「あえてオンラインマガジンを名乗ったのは、GEならではのグローバルな視座で、実際に事業を行う企業だからこそのリアリティを発信することで、市場に示唆を与え産業の発展に貢献したいと考えたからです」

ブランド力発信の手段として、自社メディアを持てるというのは、いまの時代ならではの良さだ。しかし、自己満足の一方的な発信では、ブランドの価値を落としかねない。

「客観視点をもち、私たちの知見を産業界にどう役立てることができるのかを示すことが、重要だと考えています」失敗を恐れず、チャレンジし変化し続ける企業文化が築き上げた、時代を読む力と圧倒的な技術力。“変革”の中心には常にGEがある。その絶対的な存在感が、100年企業のブランド力と言える。

オンラインマガジン「GEReports Japan」を2014年に創刊した。自社のコミュニケーションではなく、産業の活性化を目指したメディア。

清水 智美(しみず・ともみ)
GEジャパン コーポレート・コミュニケーション本部 マーケティング・コミュニケーション マネージャー

 

『人間会議2016年夏号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 次代につなぐ 日本の心と文化創造--多様性と調和の五輪に向けた動き
特集2 コーポレートブランド--歴史と伝統をどう生かすか
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勝井三雄(グラフィック・デザイナー)、大久保喬樹(東京女子大学 特任教授)、他
(発売日:6月6日)

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