「三方よし」が今も息づく工業県 家訓を継承、中小企業に強み

関西経済圏を支える工業県として、存在感を発揮する滋賀。その強みは、地域に根づいた数多くの中小企業によって支えられており、それらの企業には、近江商人の経営哲学「三方よし」が受け継がれている。

「われは湖の子 さすらいの 旅にしあれば しみじみと のぼる狭霧や さざなみの 志賀の都よ いざさらば...」

旧制三高(現・京都大)の寮歌として国民的人気を博し、また、昭和46年(1971年)には歌手の加藤登紀子さんが歌って大ヒットした「琵琶湖周航の歌」。

その琵琶湖を取り囲むようにして、長い歴史の中で培われた多くの優れた地域資源を有する県がある。奈良・平安時代から食べ継がれてきた個性強烈な乳酸発酵食品「鮒鮨」、弥生時代前期に淵源を有し、今や世界的注目を集める針江の「川端(かばた)文化」、世界遺産「比叡山延暦寺」を初めとする由緒ある寺社群、高級ブランドとしてその名も高き「近江牛」......、それは滋賀県である。

地元中小企業群の「強さ」

現代の滋賀県を一言で表すならば、“関西経済圏を支える工業県”である。

同経済圏の周縁にあたる鳥取県や徳島県は“関西の台所”と呼ばれるが、同じく周縁部にある滋賀県は、その地勢的優位性から、県外大企業の工場や研究所が多数集結する工業県となった。

全産業に占める2次産業比は、40.9%で全国1位。出荷額1位の製造品の品目数は20を超える。県土の6分の1を占める琵琶湖の汚染問題と向き合ってきた歴史から、環境関連技術に長けた企業が多いのも特徴である。

こうした同県の製造業界を担う企業のうち、実に99%以上が中小企業であるが、産業基盤は決して脆弱ではない。その要因として、次の4点が挙げられる。

  1. (1)県内進出大企業と地元中小企業の強固な関係性
  2. 県内の中小企業の3分の1が、県内進出大企業を「最大顧客」としている。
  3.  
  4. (2)「取引先との信頼関係」「技術力」に強みを有する中小企業
  5. 進出大企業との信頼関係を通じて、技術力を高め、ノウハウを蓄積している。
  6.  
  7. (3)県内進出大企業事業所の「マザー工場化」進展
  8. 大企業の事業所・工場が、国内外の研究開発・人材育成の拠点化しつつあり(=マザー工場化)、県内中小企業が、これらと連携することで、より一層の成長機会に成し得る状況にある。
  9.  
  10. (4)県内中小企業の海外志向の高さ
  11. 17.7%の県内中小企業が「販路開拓」などのため海外進出し、その結果として、5割の企業が売上増、8割の企業が雇用の拡大もしくは維持を実現している。
  12.  

以上の4点は、実は「言うは易く行うは難し」である。たとえば、“首都圏経済を支える工業県”の栃木県では、県内中小企業群が大企業のニーズを満たせず、また海外志向も低いことから、両者の取引関係は減少し、県内の中小企業の売上は減りつつあると言われているからである。

では、なぜ滋賀県では、上記のような成果を創出し得ているのか。それを解くカギは、“近江商人の伝統”である。

「三方よし」が成長要因

滋賀県は「近江商人」発祥の地だ。そして、彼らが実践した経営哲学が、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」である。

近畿・中部・北陸の結節点に位置し、東海道・中山道・北陸道が合流する交通の要衝であることが人口の流出を生み、滋賀県は、歴史的に人口流出地帯であった。近江商人が全国へ進出していったのもその一つの現れで、「琵琶湖の鮎は外に出て大きくなる」というコトワザを生んだほどである。「三方よし」は、彼らが異郷の地で商売をしてゆく過程で形成されたと言われ、その流れを汲むとされる企業は数多い。

大丸、高島屋、山形屋、伊藤忠商事、丸紅、双日、トーメン、兼松、ヤンマー、西武グループ、日清紡、東洋紡、東レ、日本生命保険、ワコール、西川産業、武田薬品工業、白木屋、ニチレイなどなど......。

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