缶詰工場からフルーツ彩り企業へ 新展開のヘッドピン「イチゴ」

ジャムのトップブランドとして知られるアヲハタ。2014年から営業部門を設置し、新たなるステージに踏み出した。今後はイチゴを主力商品に、既存の領域に捉われず商品の多様化を図る考えだ。代表取締役の野澤栄一社長がアヲハタの目指す未来図を語った。

日本初の低糖度ジャムとして販売した「アヲハタ55オレンジママレード」。

旧工場を改装し、工場見学者の受け入れやジャムづくりが体験できる「アヲハタ ジャムデッキ」

青い三角旗が印字された瓶入りジャムはアヲハタを代表する商品だ。そもそもジャムはたっぷりの砂糖で果物を煮込んだもの。しかし、アヲハタは果実感にこだわって技術開発に取り組み、1970年発売の「アヲハタ55オレンジママレード」では日本初の低糖度ジャムを実現した。代表取締役の野澤栄一社長は同社のこだわりについて話した。

「砂糖を減らしただけでなく、ゲル化剤に新しい種類のペクチンを採用するなど、さまざまな工夫を施しています。このことが結果的に他社の参入障壁を高めることになりました。企業の経営環境はほぼ10年ごとに大きく変わりますが、その都度、荒波を乗り越えられたのはフルーツそのものの美味しさを味わえる55ジャムのおかげだと思っています」

野澤 栄一(アヲハタ 代表取締役社長)

「イチゴのアヲハタ」で社内から活性化を図る

アヲハタは、みかん缶詰工場として創業したが、大きな転換点は1978年に「脱缶詰」を宣言したことだった。

「缶詰業は旬の果物を大量に買い付けて加工し、通年で販売しますが、果物の収量や価格相場の影響を大きく受けます。季節商品から脱して経営基盤を安定化するための決断でした」

1994年には、創業の商品であったみかん缶詰の製造を終了し、アヲハタは食品企業として成長していく。2014年にはグループのキユーピーよりパン関連商品の販売事業を承継し、連結対象会社として新たな船出をきった。この新体制によりジャム販売のプロ化が図られ、現場の声を商品化するスピード感が高まった。

「今後目指すのは、ジャムのアヲハタから『フルーツのアヲハタ』への転換。フルーツが持つさまざまな魅力を提供することで、楽しく豊かな生活シーンに彩りを与えたいと考えています。その第一歩として中期経営計画に『イチゴのアヲハタ』を掲げました。イチゴはフルーツのなかでも断トツの人気で、ボウリングでいえばヘッドピンのようなもの。イチゴを起点にフルーツ全体に広げていきたいと思っています」

イチゴのアヲハタの理想像は、スーパーマーケットでいえば、生鮮売り場には生食用イチゴが、精肉売り場にはイチゴソースが、冷凍食品売り場にはイチゴアイスがあるというように、あらゆるところに同社のイチゴ関連商品がある状況だ。また、既存領域に捉われず、非食品分野も含め、多様な売り場や生活シーンに展開していく考えを持っている。

こうしたアイデアは7年ほど前から温めており、新品種開発や生産地チリでの事業強化などを少しずつ進めてきた。ここへきて中期経営計画にイチゴを明記したことで社内も活気づき、イチゴに関連する新規ビジネスの社内公募には多数の応募があった。

育種・開発したイチゴ「夢つづき」を起点に、「イチゴのアヲハタ」として多様な売り場での展開を目指す

未来創造のために突き詰めて考えた

野澤社長は大学卒業後、食品加工の技術者として入社した生え抜きだ。現職に就いたのは2012年1月。自身が社長になるとは思ってもみなかったという。

「15年間ほど経営企画の仕事に携わり、取締役も務めましたが、社長業は全然違います。取締役は社長への進言までが仕事ですが、社長は集まってきた情報をもとに最終意思決定を下すラストマンです。その決断は会社の永続的存続・発展を図るためのものであり、未来への責任を果たすことですから、社長業とは未来創造業だと思うのです」

未来創造のために、野澤社長は「企業は何のためにあるのか」「会社経営とは何をするのか」と突き詰めて考える。アヲハタの場合、経営理念は「正直・信用・和」、追及してきたのは「最高の品質(美味しさ、健康)、お買い求めやすい価格」であった。これらを踏まえて事業を図式化すると、取引先から原料等を仕入れて、アヲハタで加工し、お客さまに提供するという事業活動の流れが描ける。

「お客さまからの対価が、仕入れ・加工のコストを上回れば、利益が出ます。株主配当や社会貢献も重要ですが、利益は事業活動強化の投資に回すのが最優先です。利益を再投資に回せば、研究開発や設備投資ができるので、お客さまに新しい商品やサービスを提供できますし、従業員の処遇が改善されると、より良い事業活動が可能になります。日本人は利益を得ることに後ろめたさを感じがちですが、堂々と利益を出して、みんなで幸せになることが大事だと思っています」

こうした哲学は折に触れて読んできた心理学などの書籍、ビジネス研修などの蓄積によって築かれたもの。新入社員に対しても仕事への向き合い方やメンタルマネジメントなどを抜き出して語る。「人の成長なくして企業の成長はない」と語る野澤社長の目線の先にはイチゴのアヲハタからフルーツのアヲハタへと発展する未来図が見えていることだろう。

野澤 栄一(のざわ・えいいち)
アヲハタ 代表取締役社長
 


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