民間救急ヘリで医療過疎地を救う ヘリの多目的活用で事業化

数々の離島・僻地を抱え、「医療過疎」に悩む沖縄県本島北部で、日本初の民間救急ヘリを運航するNPO法人がある。欧米の航空医療を手本に、自分たちで資金調達、運営することで、度重なる運営難を乗り越えてきた。「MESHサポート」の事例から事業化のポイントを探る。

塚本 裕樹(NPO法人 MESHサポート 事務局長)

沖縄人口の約1割が命の危険に晒されている

亜熱帯海洋性気候特有の美しい風景が広がる沖縄県本島北部。ヤンバル(山原)と呼ばれるジャングルが海岸まで続き、ヤンバルクイナなど世界的にも貴重な動植物が多数生息する。だが、この地域は観光スポットとして人気を博す一方、長年、医療過疎に悩まされてきた。

北部地域の総人口は13万人弱。沖縄県全人口に占める10分の1にすぎないことから、医療施設が人口の多い南部に集中し、医療の南北格差が生じているのだ。さらに昨今は、財政難によって県が運営する診療所で閉鎖が相次ぎ、交通の便が悪い北部から南部に受診せざるを得ない状況となっている。

救急救命となれば、距離はなおさらリスクとなる。離島や僻地の住民の場合、名護市内の病院まで救急車で片道1時間以上を要するため、搬送中に命を落とすケースも少なくなかった。

広がる医療格差を是正するため、「MESH(メッシュ)」は日本初の民間救急ヘリチームとして結成された。名護市の北部地区医師会病院による全額負担で、2007年6月に運航を開始。現在はNPO法人「MESHサポート」として、院内に事務局を置き、民間救急ヘリを自主運航する。恩納村の以北、離島は伊是名・伊平屋を含む北部全域をカバーし、年間約250件の要請を受けている。

MESHのヘリは同病院から約150メートル離れたヘリポートの格納庫に待機している。消防隊や診療所から要請があれば、医師と看護師を乗せて3分後に飛び立つ。現場や搬送中に初期治療を施しながら、患者に適した医療機関に搬送するという流れだ。塚本裕樹事務局長は、「ヘリの目的は初期治療までにかかる時間の短縮」だといい、こう続ける。「欧米では、出動から15分以内(50キロ圏内)の現場到着を目指す“15分ルール”が主流。医学的には、多量出血の患者でもほぼ救命できる時間です。救急車で到着に1時間掛かる距離もヘリなら15分以内に到着できるため、救命率はもとより社会復帰できる確率が高まります」

ヘリ内部は、狭いながらも、救急医療が施せるようになっている

本当に必要な地域ほどヘリ導入が遅れる理由

沖縄県では民間救急ヘリMESHと、2008年から南部の浦添総合病院救命救急センターに導入された県のドクターヘリの、計2機が運航している。国や県に先駆けてMESHが救急ヘリ事業を始めたのはなぜなのか。

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