水へのアクセスは国際的な行動目標の象徴

自然の変動に伴って数年に一度の割合で起きる渇水時に水不足が生じてしまうような地域で水ストレスが高いとされる。世界人口の増加や都市部への人口集中は、今後さらに、世界の水ストレスを増大させるとみられている。一方、水ストレスが少ないといわれる日本にも、水供給の課題は存在する。人口減少が進む中で、長い年月をかけて造られてきた水を使いこなすための施設を、次世代に残していくことが重要となる。

都市部への人口集中で水ストレス増大も

水ストレスは、「水を使いたいだけ使うことができず、何らかの制約がかかっている状態、あるいは制約がかかる可能性がある状態」を指す。水資源は時間的な変動が大きく、同じ地域でも時期によって、多過ぎる、少な過ぎるといった状況が生じるため、問題になる。

「飲み水がない、あるいは足りない場所に人は住みませんが、普段は水が足りており、年によって足りなくなるような地域には住んでいます。数年に一度の割合で起きる渇水時に水が不足するような地域において、水ストレスは高いと言えます」と東京大学生産技術研究所の沖大幹教授は指摘する。

沖 大幹 東京大学生産技術研究所 教授

水不足の要因としては、地球温暖化も考えられるが、むしろ人口増加や経済発展による水需要の増大が重要となる。先進国のように溜め池や水路のような設備が整っている地域では、水の変動に対する備えは比較的できているが、それらが整っていない地域では、わずかな水の変動でも水不足が生じる可能性がある。先進国でも渇水が長引けば被害は避けられない。例えば米カリフォルニア州では、過去2年半にわたって大渇水が生じ、水の使用を制限する事態となっている。また、4年前に大洪水が起きたタイでも、今年は大渇水の傾向にある。タイには川の流量で2年分程度を溜められる規模の貯水池があるが、昨年に続いて今年も渇水になったことから水不足が生じている。

「砂漠のような地域よりも、普段はある程度の水があり、利用可能なぎりぎりのレベルまで水が使われている地域の方が、水の変動に対して脆弱なのです」

一方、世界人口は今後も増え続け、特に都市部への人口集中が進んでいくとみられている。人口集中は、環境への影響や経済活動への配慮とは関係なく進むことから、都市における水ストレスの増大が懸念される。

世界の農業用水供給で鍵となる地下水利用

世界の水利用を見ると、消費量ベースで9割程度、取水量ベースで7割程度が農業用として使われている。一方、過去の農業生産の伸びは農地拡大よりも、主として単位面積当たりの収量拡大によって実現されており、そのために多くの水や肥料、高収量品種が投入されてきた。

このような中で、世界では将来的にも農業用水が足りるかどうかが議論されている。その推計には様々なものがあるが、沖氏によれば「鍵となるのは地下水利用」だ。

世界的に見ると、地下水を利用できる乾燥地は、天候に恵まれていることから不作が生じにくく、農業生産に適した土地となっている。同様に、半乾燥地で付近に川があり、安定した灌漑が可能な地域も、農地には適している。例えば、米カリフォルニア州やパキスタン、インドなどにそのような場所が多く、これらの地域で行われる農業では、水さえ調達できれば多くの収量が期待できる。

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