起業支援に取り組む「老舗醤油屋」 被災地に学ぶ地方創生

岩手県陸前高田市にある、1807年創業の老舗しょうゆ醸造会社、八木澤商店。社長の河野通洋氏は、本業のかたわら、「スモールビジネスを無数に創りたい」と、仲間とともに「なつかしい未来創造株式会社」を創設。創業支援のための活動をおこなう。
文・中嶋聞多 事業構想大学院大学 副学長

 

旅館をリノベーションした八木澤商店の新本社

「奇跡の一本松」で知られた被災地域から気仙川沿いを車で上ること約15分、旧今泉街道として知られる国道343号線脇にぽつんとたっているのが八木澤商店の本社である。親戚の経営していた元旅館をリノベーションしたという社屋は、漆喰のなまこ壁がある古くて新しい木造建築で、まさに現在の八木澤商店を象徴した建物となっている。今回はここで、東北未来創造イニシアティブの関沢太郎氏のご協力のもと取材をおこなった。

父親と陸前高田への恩返し

八木澤商店の現社長である河野通洋氏は地元の高校を卒業後、アメリカにわたり数年間、農業や自然の循環などを学んだ後に、地元、陸前高田に戻ってきた。当初、日本に戻り家業を継ぐ気持ちはなかった河野氏だが、父親である現会長が病気で倒れたことがきっかけだったという。「ここまで自由にやってこられたのは、父が働いてお金を出してくれたから。今自分がすべきことはそんな父親、そして自分が生まれ育った陸前高田への恩返し」。そう考えた河野氏はすぐさま地元陸前高田に戻り、盛岡のホテルで経営を学んだ後、1999年、八木澤商店に入社する。父である会長も、その後体調を持ちなおし、今では元気に日本各地を飛び回っている。

河野通洋 八木澤商店代表取締役

受け継がれる地元を想うDNA

河野氏は地元に戻ってきてから、積極的に地域活性化の活動をおこなってきた。これといった産業がない地域では、交流人口を増やし雇用を生むのが重要だとして、地元への合宿誘致活動をおこなったり、今や「太鼓の甲子園」と呼ばれる全国太鼓フェスティバルを始めたり、林業を支援したりするなど、ハードに頼らない地方創生をめざして、その活動は多岐にわたる。

何故そこまで地域のために活動をするのか、「尊敬する祖父の背中を見て育ってきたからではないでしょうか」と河野氏は言う。河野氏の祖父は1960年代、陸前高田にある広田湾が火力発電所建設のために埋め立てされようとした際、「自然を破壊してまでの発展は地元のためにならない」と先頭に立って反対活動をおこなった。結果、発電所建設は白紙となり、豊かな自然が残ることになった。地元を愛し、地元のために行動する姿勢はこうして育まれてきた。

陸前高田のシンボル「奇跡の一本松」(2015年4月)Photo by Sakaori

地域を守るためには企業を倒産させないことが大切

河野氏が活動をする地域の「中小企業家同友会」では、各企業が自社の事業計画書、財務諸表をみせあい、お互いに率直な意見を言いあうという。「正直、事業計画書は他人にみせたくないし、まして赤字の財務諸表なんて、恥ずかしくてみせられない。けれど、そこを敢えてみせあうことで、企業同士のつながりが強くなる。お互いを良く知ることで、知恵を出し合うことができ、地域の企業の倒産を未然に防ぐことができるのです」

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