女性の活躍が組織を変える、社会を変える

日本で女性の活躍を阻む最大の壁は、「出産や育児」と「仕事」の両立を支える制度やサービスが脆弱なことである。両立しやすい環境整備として「待機児童ゼロ」の実現、柔軟な働き方が可能な起業の支援など、先進的なサポートで注目される横浜市。民間での豊富な経験を持ち、横浜市初の女性市長として、改革を進める林文子市長が、理想の社会像を語った。

潜在的な力を生かし活力ある社会の実現を目指す

―国をあげて、女性の活躍に向けた動きが本格化していますが、林市長のお考えをお聞かせください。

林 文子 横浜市 市長

私自身、18歳の頃から働き続けてきて、男性中心の組織で苦労もありましたが、男性と女性が互いの強みを生かし合うことで、組織が活性化し、大きな成果につながることを身をもって体験してきました。トップセールスから経営者を経て、市長となり、女性が多様な方法で社会で活躍し、潜在的な力を発揮できるよう応援していくことこそ、私が果たすべき使命だと思っています。

グローバル化や少子高齢化など、日本、そして横浜を取り巻く環境が大きく変化している中、女性をはじめ、すべての人が持てる力を十分に発揮し、それぞれの人が持つ多様な経験やアイディアを生かすことで、新たな価値が創造され、活力ある社会が実現します。

国の成長戦略の中核に「女性が輝く社会の実現」が位置付けられ、女性の活躍を推進しようと、官民を挙げた動きが加速しています。これまで女性の社会進出支援に力を注いできた私も、大いに勇気づけられています。

“横浜方式”待機児童ゼロの実現

―横浜市は「待機児童ゼロ」の目標を立て、実現をさせました。待機児童「ゼロ」を実現して、社会にどのような変化がありましたか。

日本の女性活躍を阻む最大の壁は、出産や育児と、仕事の両立を支える制度やサービスが脆弱なことです。その結果、出産・育児と仕事との二者択一を迫られ、第一子の出産を機に、いまだ6割の女性が、仕事を諦め退職しています。私は市長就任後、真っ先に保育所待機児童ゼロを目標に掲げ、民間事業者の皆様のご協力や保育コンシェルジュの配置など、あらゆる取組を実行してきました。その結果、市長就任直後には日本最多の1552人だった待機児童を、3年でゼロにすることができました。

こうした取組は、国から「横浜方式」と評価され、特に都市部において共通の課題であった待機児童問題が、本気で取り組めば解消できることを示し、今や全国の自治体が待機児童ゼロに挑戦しています。国も、全国展開するための補助メニューを新設して、自治体の取組を力強く支援しています。

待機児童ゼロを達成したことで、保育所申込者数は増え続けています。大変厳しい状況が続きますが、働くことを諦めていた女性たちが意識を変えて、行動に移してくれたことは本当に喜ばしいことです。今後も、保育の質の維持・向上にも力を入れながら、日本一女性が働きやすい、働きがいのある都市の実現を目指した取組を着実に進めていきます。

創業期の女性起業家のための会員制シェアオフィス「F-SUS(エフサス)よこはま」。

柔軟な働き方が可能な「女性の起業」を後押し

―横浜市では、横浜女性ネットワーク会議や女性起業家支援など積極的な取組がされています。

様々な分野で活躍するロールモデルとの出会いと、女性同士のネットワークづくりを進めるために、市長就任後から継続して「横浜女性ネットワーク会議」を開催しています。

しかし、組織の中で意思決定に関わる立場に昇進するには時間がかかりますし、柔軟な働き方の実現も、まだ道半ばなのが実情です。自ら起業すれば、自分自身の裁量の幅は広く、柔軟な働き方も可能となりますし、女性の視点を生かした商品・サービスが生まれ、新たな需要の創出にもつながります。そこで、横浜市では、女性の起業支援にも力を入れ、起業支援のサポートチームによる継続的な支援を行うとともに、レンタルオフィス「F−SUS(エフサス)よこはま」や、試験的に店舗運営を行うスペース「Crea's Market(クレアズマーケット)」を設置するなど、実態に即したきめ細かな支援を進めています。

長時間労働の解消や多様な働き方の導入など、男性を含めた働き方の改革も、女性の社会進出に欠かせません。女性が輝く社会の実現は、男性も輝くチャンスやフィールドが広がる社会を実現することでもあります。組織にとっても、社員のやる気と生産性の向上のためにも有効な経営戦略になり得るものです。

横浜市では、中小企業を対象に、ワーク・ライフ・バランスの推進を後押しするためのセミナー・研究会の開催や、女性が継続的に働き続けられるための社内制度づくりを導入する際の費用助成も始めています。そして、男女が共に働きやすく子育てしやすい事業所を「よこはまグッドバランス賞」として認定し、企業の意識改革を促しています。働き方を見直し、男女がともに仕事と家庭生活で役割を果たせるよう、これからも現場に即した政策を推進していきます。

戸塚駅構内に「Crea's Market(クレアズマーケット)」を設置。開業を目指す女性起業家は、試験的に店舗運営を行うことができる。

意欲や能力を引き出し意思決定のポジションに

―市役所内においても女性登用への取組が進んでいます。女性の活躍推進についての考えと、今後の期待についてお聞かせください。

私たち基礎自治体は、生活に密着した行政サービスを提供しています。人口の半分を占める女性がもっと意思決定に関わるポジションに就けば、よりきめ細やかな行政サービスを実現することができます。横浜市ではこれまで、社会人経験者の採用や、民間企業や他の自治体との人事交流など、人材の多様化を図ってきています。中でも、教員を除いた全職員の35・3%(2014年4月)を占める女性職員の意欲や能力を最大限に引き出し、積極的に登用するため、横浜市では、2008年に策定した「女性ポテンシャル発揮プログラム」を改訂し、「2020年4月までに課長級以上に占める女性の割合を30%以上」という、高い目標を設定しました。新たな目標に向けて、取組を加速していきたいと考えています。

―社会における女性の役割が高まる中、女性は生き方、働き方をどのように捉えていくべきでしょうか。

少子高齢化の進展、労働力人口の減少が予想される中、労働力の拡大という「量」の観点から女性の社会進出の必要性が語られがちですが、女性の活躍は「質」の面からも大変重要です。女性が社会経済の様々な場面に参画し、女性ならではの生活者としての視点や価値観、女性の強みである受容力や共感力を生かすことで、組織の活性化や新たな市場開拓が期待できます。

ボランティア活動や地域活動も含めて、女性が活躍する場は、今まで以上に広がっています。私自身、「女性にはできっこない」、「前例がないからダメ」と言われたときでも、あえて厳しい道を選ぶことで、周囲にも助けられ、多くの壁を乗り越えることができました。一歩を踏み出す勇気を、多くの女性に持って欲しいと思います。皆さんの行動一つひとつが、「女性の生き方、働き方」をより多様なものにし、豊かな社会を作っていくのです。

女性の力を生かし、好循環を生み出す

―多様な人材が組織に入ることで、どのようなイノベーションが起こるでしょうか。

女性の積極的な登用や、民間企業との交流など、人材の多様化を進めてきましたが、実は私自身が、横浜では初の女性市長であり、歴代市長では珍しい民間企業経験者です。

「市民の皆様はお客様です。おもてなしの心で接してください」「営業マインドを持ってこちらから出向くようにしてください」と、私自身が職員に言い続けたことで、市役所の雰囲気が確実に変わり、市民の皆様からも、「横浜市役所が変わった」とおっしゃっていただくようになりました。多様な視点や経験、価値観を持った人材が加わることで、新たな気付きを生み出し、お互いを刺激し合うことで、職員同士のモチベーションも上がり、行政サービスや政策の質をさらに高めることができました。

多様な人材が組織に参画することは、多様化している市民の皆様のニーズを把握し、きめ細かなサービスを提供することに繋がりますし、どのような課題も、それぞれの強みを発揮し合うことで、必ず解決策を見出すことができると思っています。

―林市長の理想とする社会像についてお聞かせください。

すべての基本は「人」だというのが私の信条です。「人」の力を引き出し、多くの「人」を惹きつけることができるまちづくりを進めていくことが、横浜の更なる成長につながると確信しています。女性・子ども・若者・シニアなど、あらゆる人が持てる力を発揮することで、新たなイノベーションが生まれ、一層、組織やまちに活気が生まれます。こうした好循環を生み出すためにも、「人」が大切にされ、主役となる社会にしていきたいと思っています。

横浜には、横浜を心から愛し、横浜のために何かをしたいと、日々ご尽力いただいている市民や企業の皆様がいらっしゃいます。今後も皆様とご一緒に「オール横浜」で横浜の未来に向けて邁進していきます。

林 文子(はやし・ふみこ)
横浜市 市長

 

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