繋がるクルマ「コネクテッド・カー」が創る未来

多数のセンサーを搭載し、ネットワークに常時接続する「コネクテッド・カー」に注目が集まっている。次世代カーナビゲーションや自動運転は、社会と自動車業界をどのように変えるのか。自動車メーカー各社の戦略を分析する。
文・鈴木ケンイチ モータージャーナリスト

 

BMWとクアルコムが共同開発した「Augmented Vision」(拡張現実メガネ)。クルマの未来に向けて異業種連携が加速している

中国では1年間に約2350万台ものクルマが販売される。約500万台規模の日本の4倍以上、2位であるアメリカ1650万台を700万台も上回る。そんな文句なしに世界一の自動車市場である中国にて、2015年4月20日に上海モーターショーが開催された。

ここでBMWは、MINIブランドのブースで、クルマの未来のあるひとつの姿を披露した。それが『Augmented Vision』(拡張現実メガネ)だ。カーナビゲーションの案内やクルマの周辺情報をモニターではなく、拡張現実メガネに映し出す。ドライバーはクルマの外の様子とナビの案内を、メガネを通して一元的に得ることができる。このシステムをBMWと共同開発したのは、ウェアラブル・デバイスを得意とするクアルコム社だ。

今、クルマの未来を考えるとき、クルマとネットとのつながりを外すことはできない。次世代カーナビゲーションをはじめ、自動運転、スマートシティ構想など、どれもクルマとネットの接続が大前提。「クルマ×IoT」は、自動車業界あげての大きなテーマなのだ。

ビッグデータを活用してカーナビを高度化

クルマとネットとの接続の歴史は意外と古い。特にカーナビゲーションが世界トップクラスに普及する日本では、「テレマティクス」という名称で、すでに15年以上前からクルマのネット接続は実用化されている。

ホンダの「インターナビ」やトヨタの「Gブック」といったサービスは、ネット接続を通して、ドライバーにルート案内や渋滞情報などを提供する。こうしたカーナビゲーション車載器型サービスの最新版であるトヨタの「Tコネクト」やマツダの「マツダ・コネクト」、フォードの「SYNC」(日本未導入)などは、車載器に音声認識やインターネットラジオなどのアプリを追加できるようにすることで、サービスの幅を広げている。

また、これらのサービスは、1台1台のクルマの位置をクラウド側が把握できるため、それら運行情報をまとめるとビッグデータとなる。2011年の東日本大震災のときにホンダは、それらの運行情報を使って、震災被害エリアで通行可能な道路を見つけ出し、その情報を公開した。現在でも、ホンダは急ブレーキ情報を集めた危険箇所を知らせるセーフティマップを公開している。また、トヨタも、行政などにビッグデータを提供するサービスを開始している。

「クルマ×IoT」は、カーナビゲーションの車載端末を基本として実用化が進んできたが、最近になって驚異の新規参入者が現れた。それがAppleだ。Appleは、自社のiPhoneをモニター付き車載器(カーナビ機能は必要ない)とリンクさせて利用するApple CarPlayという規格を立ち上げた。これは、音声認識(Siri)やナビゲーション、メッセージの読み上げなど、iPhoneの機能をドライバーが格段に利用しやすくなるというもの。欧米だけでなく日本メーカーのほとんども参加を表明するだけに、数年以内に大きな勢力に成長することが予想される。今後の普及の進捗具合に、自動車業界全体が注目しているところだ。

トヨタの超小型電気自動車「i-Road」。シェアリングや都市交通との協調などを模索している

ホンダは急ブレーキ情報を集めた危険箇所を知らせるセーフティマップを公開

クルマの進化の先にある新しい未来の暮らし

カーナビゲーションや社内エンタテインメント以外にも、自動車業界として「クルマ×IoT」の世界をさらに進化させる構想が多数ある。

トヨタは、クルマの電化(プラグイン・ハイブリッドや電気自動車の普及)を見据えて、クルマの充電と地域社会の電力供給をバランスさせるエネルギーマネージメントの実証実験を愛知県豊田市で実施している。また、クルマのテレマティクス・サービスだけでなく、超小型電気自動車「i-Road」のシェアリングや都市交通との協調など、幅広い社会全体の未来の姿を模索する実証実験「Ha:mo」も進行中だ。

トヨタだけでなく、ホンダも超小型電気自動車MC-βなどを利用しての同様の実証実験を埼玉県などで行う。日本では、クルマの進化もあわせて、新しい未来の暮らしを模索する構想が存在しているのだ。

一方、欧米はどうであろうか?

欧州ブランドの雄であるメルセデスベンツは、2015年1月にアメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模の家電ショーであるCESにおいて、自動運転のコンセプトカー「F015 Luxury in Motion」を公開した。夢物語ではなく、近い将来に実現できる自動運転車として紹介され注目を集めた。

実際に、メルセデスベンツなどのドイツ系自動車メーカーだけでなく、GMやトヨタなどは、北米において自動運転車の実証実験を積極的に行っている。ここで重要になるのは、クルマ側の技術もさることながら、詳細な地図データや周辺情報といったビッグデータだ。周辺の地図データをネット接続によって、リアルタイムに受け取ることで、精度の高い自動運転が可能となるためだ。欧州の巨大サプライヤーであるコンチネンタルは、そうしたビッグデータ構築に熱心に取り組む。

また、同じく欧州の巨大サプライヤーであるボッシュは2012年より商用車向けのコネクテッドサービス「eホライズン」をスタート。地図データを利用して、商用車が効率的な運転を行うようにサポートするサービスである。

このように、自動車業界は総力をあげてIoTの研究開発に取り組んでいる。それはIoTが、クルマの未来への扉を開く手段であることを理解しているからだろう。

メルセデスベンツがCESで公開した自動運転コンセプトカー「F015 Luxury in Motion」

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