ロフトワークが林業に参入する狙い 「飛騨の森でクマは踊る」始動

「飛騨の森でクマは踊る」は、飛騨市と在京企業2社が手を組んで設立された異色の企業。林業と地域の再生を目的に、世界中のクリエイターと地域をつなぐという構想を持つ。クリエイティブは、地方創生にどのような力を持つのだろうか。
文・中嶋聞多 事業構想大学院大学副学長

 

飛騨市は面積の93%が森林、その7割を日本在来の広葉樹林が占めている

林業再生に異業種がタッグ

今年4月、「飛騨の森でクマは踊る」(通称:ヒダクマ)という個性的な社名の企業が発足した。ユニークなのは社名だけではない。この企業は、2万2000人が登録するクリエイティブ・エージェンシーと3Dプリンター等を備えたデジタルものづくりカフェ「FabCafe」を運営するロフトワーク、森林資源の保全・活用など林業コンサルティングを手掛けるトビムシ、そして飛騨市が共同で設立した異色の第3セクターだ。ヒダクマ代表には、ロフトワークの林千晶代表取締役が就任した。

「森林や飛騨の匠の技を活かし、クリエイティブの力で地域産業創出を目指す」ことをミッションに掲げる。飛騨市の面積の93%は森林であり、ここから「組木」をはじめとした木造建築や木材加工の優れた伝統技術が生まれた。しかし、国産材の市場縮小や後継者不足など、林業の抱える課題は深刻だ。

林千晶(はやし・ちあき)飛騨の森でクマは踊る代表取締役ロフトワーク共同創業者、代表取締役

ヒダクマでは、トビムシの林業再生ノウハウ、ロフトワークのクリエイティブネットワークなどを活かして、新しい森林ビジネスの創造と、地域経済の再生を目指す。取り組むビジネスは、(1)森林活用事業、(2)組木データベース事業、(3)FabCafe事業、(4)滞在・合宿事業、の4分野だ。飛騨市が2000万円、トビムシとロフトワークが各1000万円を出資、飛騨市は約20ヘクタール分の市有林も現物提供する予定である。

飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)のロゴマーク

滞在型ものづくり拠点で異分野のアイデアを掛け算

このコラボレーションは、以前から飛騨市の林業コンサルティングを実施していたトビムシ代表の竹本吉輝氏から、林千晶氏に声がかかったのがきっかけで実現した。林氏は、最初は乗り気ではなかったという。ところが一度、飛騨古川を訪ねた時に「日本の尊敬すべき美学に基づいた暮らしが残っている」ことに魅了され、飛騨古川のポテンシャルと現地でロフトワークがやるべきことを見出した。

3Dプリンターやレーザーカッターの登場によって、個人が工場を持たずにプロダクトをつくれる、いわゆるデジタルファブリケーションの時代が到来した。しかし、実際に何をつくるか、という問題もある。「組木を見て、これこそデジタルファブリケーションが貢献できる領域だと思いました。日本が培ってきた伝統技術が、市場に流通せず、民芸館の中にレガシーとしてしまわれようとしている。産業の衰退と同時に、飛騨古川に残る日本的な生き方や町並みも失われつつある。それがいかにもったいないか、伝統がいかにカッコいいかを伝えたいと思い、FabCafeをやろうと決めたんです」

ロフトワークは3Dプリンター等を備えたデジタルものづくりカフェ「FabCafe」を運営

林氏のこの決心が、ヒダクマの事業の核となった。今夏にオープン予定の「FabCafe HIDA」は飛騨古川の町中にある大きな古民家を改装したスペース。世界展開しているFabCafeは飛騨で6軒目になるが、初めての宿泊滞在型施設になる。そこに、林氏の狙いがある。

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