2015年5月号

デザイン思考のプロセス

ハイアールアジア 冷蔵庫を無償提供する新ビジネス

柴田博(ハイアールアジア ビジネスデベロップメント グループ ディレクター)

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家電そのものは無料か格安で提供し、取り扱う食品やデジタルコンテンツに課金して収益化を図るという新しいビジネスモデルを生み出したハイアールアジア。家電をプラットフォーム化、メディア化するその戦略とは?

コモディティ化した液晶ディスプレイは、アート作品や広告などを掲示するプラットフォームとして提供していく

これまでにないコンセプトの家電と、家電をベースにした新しいビジネスモデルを構想するハイアールアジア。同社の製品開発プロセス、リーダーシップの重要性を解説した前回に続き、今回は家電業界の常識を覆すサービス「Off Ice(以下オフ・アイス)」と「intergallery(以下インターギャラリー)」について、構想段階から将来的な展望までを解説する。

家電でコンテンツビジネス

オフ・アイスでは、自社製品の冷凍庫をオフィス向けに無償提供し、アイスなどの販売で継続的な収益の確保を目指す。同社のビジネスデベロップメントグループの柴田博ディレクターは、「一言で表すならば、オフィス置き菓子と同じビジネスモデルです」と説明する。

柴田博 ハイアールアジア ビジネスデベロップメントグループ ディレクター

「当初は一般家庭向けのサービスも検討していましたが、廃棄コスト、配送コストの問題もあり、オフィス向けの冷凍庫の活用に絞りました。オフィスでは、冷凍食品よりも甘いモノの方が需要があるのではないかということでアイスの案が出ました。ところが、既に菓子メーカーが冷凍庫を購入し、無償でレンタルしてアイスなどの販売をしていました。そこでターゲットを美味しいものにはお金を惜しまない女性に絞って、コンビニなどでは販売しておらず、会社で手に入ったら嬉しいプレミアム性の高いアイスを販売することにしました」

柴田氏は高級アイスを取り扱う各社にアプローチした。すると、同じようにオフィス展開を考えていたアメリカ発のベン&ジェリーズとの提携が実現。さらに、コールドプレスジュース「サンシャインジュース」、スムージー「Saiby」の提供も決まった。

現在、ネットサービス事業を展開するサイバーエージェント社でオフ・アイスのテスト販売が行われており、ユーザーのリアクションは柴田氏の予想を上回っている。

「1商品あたり300-500円と高価格帯のアイスですが、販売は順調です。外は寒くてもオフィスのなかは暖かいため、冬でも高級アイスなら売れるということがわかりました」

一方、インターギャラリーはアート作品や広告などを掲示するディスプレイ。一般家庭だけではなく、ホテルや飲食店、賃貸マンション、公共スペースなどに格安でディスプレイを提供し、ディスプレイに掲載するデジタルコンテンツの利用に課金する。

「ディスプレイには無料で使えるコンテンツがデフォルトで入っていますが有料のコンテンツも提供します。目指しているゴールは、例えるならユーザーが自分でスタンプを作って課金できるLINEのスタンプです。セミプロのフォトグラファーや画家が自分自身の作品を自由に販売できるようにして、アーティストの登竜門になれば良いと思っています。そして我々は、利益をシェアするイメージです」

ハイアールアジアは液晶ディスプレイを製造していないため他社から調達する必要があるが、「差別化できない最たるもので、余っている」という低コストの液晶パネルを使ったコンテンツビジネスで収益化を狙っている。

冷凍庫をオフィス向けに無償提供する「Off Ice」。将来的には冷蔵庫棚の“不動産”化を目指す

“不動産”がもたらす新たな収益メーカーの弱みを強みに変える

「intergallery」ではフォトグラファーや画家が自分自身の作品を自由に販売できるようにする(画像はアートイメージ)

既存の家電メーカーは、家電を作って売ることで完結する「売り切り型」のビジネスモデルだ。しかし、ハイアールアジアはすぐに価格競争に陥るこの構造から脱却し、家電をスマートフォンなどのモバイル端末と同じようにサービスを提供するためのプラットフォームと位置付けた。そして家電をメディア化することによって得られる収益は、アイスなどの売り上げやコンテンツ販売の手数料収入にとどまらない。

「冷凍庫やディスプレイは、自分たちのコントロールが効く“不動産”だと捉えており、その不動産を使ったビジネスを考えています。例えば、食品会社は新商品を販売するときにサンプリングを行いますので、食品会社に対してサンプリング用としてオフ・アイスで展開している冷凍庫のなかの一段を有料で貸すこともできます。インターギャラリーでも、LINEの企業スタンプのようにコンテンツを提供する側から料金を徴収することを計画しています」

この戦略は、決して他社にまねできないものではない。しかし、家電メーカーが手掛けるからこその強みがある。

「オフ・アイスでは、『商品の調達、補充、集金まで全て自分達で実施するので冷凍庫を貸して欲しい』という企業がありました。それならば、冷蔵庫を販売するので独自に事業化したほうが利益も増えるのでは?と提案したのですが『冷蔵庫という固定資産を抱えたくない』と言われました。

それを聞いて、自前のハードウェアを持っていることのメリットを実感しました。ビジネスモデルは、誰でも考えられます。しかし、ハードウェアを自社で製造する、もしくは購入するリスクは取りたくないのです。サービス・コンテンツビジネスは、今まで家電メーカーの弱みと言われていた部分ですが、強みに変えることができるのではないでしょうか」

このビジネスモデルが成功するかは未知数だが、大きな可能性を秘めていることは間違いない。家電メーカーの未来を切り拓くために、ハイアールアジアの挑戦は続く。

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