2015年3月号

MPDサロンスピーチ

ビジョナリーワードが競争力の根源に 未来は言葉でつくられる

細田高広(クリエイティブディレクター・コピーライター)

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まだ世の中にない何かを生み出そうとするとき、新しい言葉が必要になる。優れた経営者や起業家は“ビジョン”を実に的確な言葉で表現し、人々を魅了している。求心力を持つ言葉を生み出す発想法から、言語化の技術までを語った。

未来をつくった言葉たち“ビジョナリーワード”

--新しい時代が始まるとき、そこには必ず新しい『言葉』がある。そう語った細田高広氏は、広告制作にとどまらず、経営層と向き合って数々の企業のビジョン開発に携わってきた異色のクリエイターだ。

ひとつの例として、スケッチを見せた。このスケッチが掲載されたのは、1972年、アラン・ケイによって発表された論文。タブレット端末のようなスケッチが描かれ、初めて“パーソナルコンピュータ(PC)”という言葉が使われた。当時の常識では、コンピュータは巨大で、複数人で共有するものであり、これからさらにコンピュータは巨大化すると考えられていた。そのコンピュータを、個人が所有して、子どもまでも簡単に使えるという発想に誰もが驚いた。その後、スティーブ・ジョブズがアラン・ケイのビジョンに刺激されてMacintoshを作った。そして40年の時を超えた今、私たちはタブレットPCを手にしている。言葉が時代をつくるきっかけになった事例である。

他にもSONYは“ポケットに入るラジオ”という開発ビジョンを掲げ、社の運命を大きく変えるトランジスタラジオを生み出した。“女性の体を自由にする”という言葉を掲げたココ・シャネルは、コルセットの追放に始まり、ショルダーバッグやリップスティックの発明など、女性のファッションに大きな革命をもたらした。「どの事例でも、現実になる前に言葉がありました。新しい商品、サービス、時代が生まれる時には、必ず新しい言葉が生まれます。まだ、未来を写せるカメラはありません。言葉だけが未来の風景を描く手段となり、人と思い描いた未来を共有することを可能にするのです」

クリエイティブディレクター・コピーライター 細田高広氏

このような、まだ見えないものを言い当て、聞いた者に未来の風景を想像させる“見える言葉”を細田氏は『ビジョナリーワード』と名付けた。「良いビジョナリーワードは未来から届いた絵葉書のようにクリアな方向性を見せてくれます。そしてビジョナリーワードは、周りの人を巻き込み、束ね、向かうべきゴールに導いていく力があるのです」。細田氏は、同時に日本企業が安易に掲げる『ビジョン』に対しては厳しい評価をしている。「“誰もが笑顔になれる時代”“顧客イノベーション”“地球に優しい”など、ありきたりな単語を並べたものが多く、ビジョナリーワードとは言えません」。未来を具体的に表す言葉を語れるトップ経営者やリーダーが日本には少ないと話した。

見える言葉をつくる、3つの問い

STEP 1 現状を疑う

本当にそう?

STEP 2 未来を構想する

もしも?

STEP 3 言葉で描く

つまり?

常識を打ち破る発想方法

では実際に、ビジョナリーワードと呼ばれる言葉をどうつくるのか。 「強力な言葉を生み出すためには、まずは現状を疑う。そして未来を構想する。言葉で描く。というステップがあります」と、話した上でまずは常識を打ち破る発想方法をレクチャーした。その発想法は、次の3つの問を習慣にすること。世の中に溢れる様々な情報に、「本当にそう?」「もしも?」と質問を投げかけ、そして、出てきた発想に対して「つまり?」と聞く。この「つまり一言で言うと?」という問いかけが、「例えば、JR東日本のエキナカプロジェクト。最初は『駅構内の活性化』というお題からスタートしたそうです。

チームがユーザーの駅の過ごし方を調査したところ、誰も駅で過ごしたいなんて思っておらず、むしろ、いち早く駅の外に出たいと思っていた。それは非常にショッキングな事実だったそうです。しかし、その問題点を180°ポジティブな方向に反転することで、理想とする駅が描かれました。それが、『もしも駅がマルシェのような場所になったら?』という理想像です。そこから『つまり?』に答える『通過する駅から、集う駅へ』という大きな指針になる言葉が生み出されました」

日本企業にはVISIONを語る文化がない

言葉で描く3つのポイント

細田氏は、さらに「言葉で描く」ステップでのポイントを「解像度」「焦点距離」「風景の魅力」の3つにまとめた。「具体的で景色が浮かぶ言葉をつくるためには、抽象的な言葉ではなく、より具体的な言葉で表現することが必要です。例えば“美しい”といった形容詞なら、“花”や”星”といった具体名詞に置き換えるなど、できる限り風景が浮かぶ言葉を選ぶことで言葉の解像度を上げることができます」。

さらに、「焦点距離」は目標の現実度だとし、「努力すればなんとかなるギリギリの時代設定が鍵」と語った。そして、「風景の魅力」については、「自分目線ではなく相手目線に立って共感される未来になっているかどうか。そして個人を超えて社会的に意味があるかどうかが大切」などとポイントを語った。

海外では経営トップがビジョンをぶつけあって論争することも日常茶飯事。宇宙開発に取り組むイーロン・マスクは「人類を火星に送り込む」とビジョンを語った。「“宇宙開発No.1”や“幸せな宇宙生活”なんてことを語っても誰も想像できませんよね。日本の企業のサイトを見ると、こういった解像度が低い抽象的な言葉や、自社都合で相手にとっての魅力が考えられていない言葉がとても多いのです」

成熟社会の中では、企業が発するメッセージによって、消費者はもちろん、優秀な人材が集まるかどうか、投資家が集まるかどうかなど、企業の競争力につながってくる。時代を生き抜くためには求心力を持った言葉と構想を生み出す能力が、より重要視されるようになってくるだろう。


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