地域の「日常」は旅の「非日常」 「ありのまま」に観光の商機

地元の人たちが、「山と海だけで、何もない」と思っているような地域でも、外から来た人にとっては、「何もない」ことこそが大きな魅力になり得る。香川にも、香川だからこそ体験できる数々の観光資源がある。

同じ瀬戸内海でも、広島・しまなみ側と香川側では、まったく異なる表情があり、香川でしか体験できない瀬戸内がある

訪日外国人が急増し、日本国内の旅行需要が拡大する中、各地では観光振興が熱気を帯びている。これまで多くの地域では観光資源が乏しいとの考えから、新たな観光の目玉を創作することや、奇をてらった販促手法に取り組んできた。しかし、その地でしか得られない、その地ならではの資源にこそ、観光の商機があるのではないだろうか。

期待値の低さが驚きを生む

香川県は47都道府県で最も面積の狭い県であり、讃岐うどんや芸術を主軸とした観光振興を展開してきた。しかし、それだけが観光資源ではなく、少し視点を変えると香川ならではの素材の魅力が見えてくる。

瀬戸内海に面した香川は、年間を通じて温度や湿度が比較的安定しており、自然災害が日本で3番目に少ない。また、大小の島々が連なる風光明媚な多島海景観を有する。こうした資源に注目し、瀬戸内海でアウトドア・レジャーであるシーカヤックのガイドツアーを主催するFree Cloud(フリークラウド)代表の小前昭二氏に話を聞いた。

小前昭二 Free Cloud 代表

――ガイドツアーを始めたきっかけは何ですか。

小前 19歳の頃に奄美大島をシーカヤックで一周してその魅力にのめり込みました。島に滞在中、子供の頃から慣れ親しんできたアウトドアでの体験を商売にできないかと思い立ち、アウトドアガイドツアーの本場であるニュージーランドに渡りました。プロガイドのスキルと安全基準を学び、ニュージーランドスタイルの観光ツアーを日本に持ち込もうと企画しました。

水の透明度、数々の無人島などのコンテンツが、香川でのシーカヤックを魅力的なものにしている

――香川でツアーを始めようと思ったのはなぜですか。

小前 香川を拠点とした瀬戸内海でのシーカヤックは、観光ツアーにとても適しています。魅力は大きく3つあります。

1つ目は、水の透明度です。香川の海域は徳島県鳴門側から潮が満ち引きするのですが、本州側は潮流の影響で海水が濁ってしまいます。一方、香川側には太平洋から鳴門を通じて綺麗な海水が入ってくるので透明度が高いのです。瀬戸内海の水の透明度が高いという期待値が観光客にはあまりないため、良い意味での驚きを提供できます。

2つ目は、無人島が無数にあること。観光ツアーにおいてシーカヤックは移動手段であって目的そのものではないので、移動する目的がたくさんあると、観光客のツアー中のモチベーションは高く維持できます。

香川側のポイントから出発すると、瀬戸内海には約3km圏内に無人島が点在しているので、初めての人でもシーカヤックを楽しめます。また、観光ツアーはどれだけ非日常の体験を提供できるかが勝負だと思うのですが、無人島というのは「今ここに、自分たちしかいない」という非日常を体感するのに分かりやすいコンテンツです。

3つ目は、豊富なジオサイトの存在です。ジオサイトという言葉は、地質学的に見て重要な自然の遺産という意味で、近年注目されてきていますが、香川はジオサイトの宝庫です。無人島の風景の中に、天然記念物に指定されているような岩肌や断崖絶壁が点在していて、それが観光客を連れていける距離にあります。

――まさに香川でしか味わえない瀬戸内海の楽しみ方ですね。

小前 そうですね。外洋に面している伊豆半島や紀伊半島などもシーカヤックツアーとしてはもちろん魅力的であり、景観のスケールが全然違います。すごく大きな洞窟があったり、それだけで観光の目玉になります。

香川にはそのような大きな目玉はありませんが、その代わりに資源を組み合わせてコースを何パターンも用意できるので、飽きさせない観光ツアーを実現できます。

豊かな自然が育んだ食材も、魅力の一つ

「神々の島」の歴史を巡る旅

自然以外にも「その地ならではの資源」は存在する。香川県の小豆島にてシーカヤックツアーを主催する自然舎の山本貴道氏は、島の歴史にスポットを当てたガイドツアーに注目している。

山本貴道 自然舎 代表

――小豆島ならではのガイドツアーについて、どう考えていますか。

山本 小豆島は古事記にも出てくる神々の島。300年以上も受け継がれる農村歌舞伎や88ヵ所の山岳霊場、岩穴で行われる護摩祈祷など深い歴史があります。島の自然に身を委ねて、その歴史を紐解きながら巡っていくことで1日楽しめる観光ツアーが造成できます。

また、新鮮な海の幸、オリーブ、佃煮、醤油など食べ物がとても美味しいので組み合わせることで観光客のさまざまなニーズに対応できます。

自然や歴史など、昔からその地にあった資源に再度目を向けてみると、見落とされていたその土地ならではの魅力が数多く眠っている。観光客が旅先に求める「非日常」体験は地域に住む人々にとっての「日常」であり、そこにこそ商機は広がっているのではないだろうか。

山野智久(やまの・ともひさ)
カタリズム 代表取締役

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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