2015年1月号

今日から始めるロボット事業

ロボットベンチャー座談会 ビジネス立ち上げのポイントは何か

株式会社 フォトシンス

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ロボットビジネスを立ち上げるには、どのようなポイントを留意すべきか。鍵ロボット「Akerun」で注目を集める株式会社フォトシンスのメンバーに、開発プロセスや事業化の苦労、戦略などを聞いた。

スマートフォンを認識して扉の鍵を自動で開け閉めしてくれる。そんな、ありそうでなかった鍵ロボット「Akerun(アケルン)」が注目を集めている。

開発したフォトシンスは、平均年齢26歳のメンバーで構成。ソフトバンクやパナソニックなどの企業から飛び出した彼らは、それぞれ異なるバックボーンを活かし、わずか半年程度で事業化までの道筋をつけた。ハードとソフトの両面が求められるロボットの開発やチームビルディング、ビジネスモデルの構築はどのように行われたのか。中心メンバー5人に聞いた。

鍵ロボット「Akerun」はスマートフォンを認識して扉の鍵を自動で開け閉めする。家電との連携や、人工知能の搭載も検討中

一番アナログなものをロボットに

――まずは、鍵ロボット「Akerun」の基本機能についてお話いただけますか?

渡邉  簡単にいうと、スマートフォンで鍵を開閉するスマートロックシステムです。スマートフォンとBluetoothをペアリングすることで、スマートフォンを持って鍵に近づくと自動的に開閉ができるようになります。設置方法は簡単で、扉の室内側に付いた回転式のツマミ(サムターン)の上から、「Akerun」を挟むように取り付けるだけ。僕たちはその鍵を開ける「Akerun」という装置を鍵ロボットと呼んでいます。

渡邉 宏明
フォトシンス副社長COO。ソフトバンクテレコムでは法人営業や米PayPal社とのジョイント事業立ち上げに参加。スポットライトで来店促進O2Oサービスの事業開発を担当。

河瀬  ソフト的な役割は、大きく分けて2つ。1つは、開閉の権限を他人に付与できること。たとえば、家事代行を利用するときに、毎回、業者に会って鍵を渡す必要がなくなり、業者はスマートフォン一つで入退室ができるようになります。2つ目は、「誰が、いつ入退室したか」という入退室の管理。飲食店などでアルバイトに開閉の権限を付与すれば、合鍵を発行されるリスクや盗難の防止に役立ちます。

熊谷  完全後付型の鍵ハードウェアは世界初です。海外でもスマートロックのサービスが出始めていますが、設置するにはサムターンごと付け替えなければなりません。その点、「Akerun」なら面倒な手間も業者費用も不要です。

IoTの先を見据える

――鍵ロボットというユニークなアイデアはどのように生まれたのですか。

渡邉  そもそも、3Dプリンターが10万円程度で買える時代になり、個人でも簡単にモノづくりができる「メイカーズムーブメント」の流れがあった。そこに家電や自動車などをネットワークで繋げるIoT(Internet of Things)が出てきて、「何か事業ができないか」と常日頃みなで議論していました。

僕達はソフトウェアとハードウェアのエンジニアやマーケッター、Webディレクターなど、それぞれ異なったスキルやバックボーンを持っています。これも、鍵ロボットの着想に影響しているのかもしれません。フリーディスカッションをする中で「一番アナログなものがロボットになったら?」という発想から、鍵ロボットというアイデアが生まれてきたのです。

河瀬  家電をインターネットに接続する流れは進んでいるのに、意外と身近なプロダクトにまで広がっていない。それなら身近で、かつアナログな鍵がデジタルになったら面白そうだ、と。

熊谷  手ぶらで入退室できる、ポストや植木鉢の下に隠していた鍵の受け渡しがなくなる。そういった便利さはもちろんですが、最も重要なのは開閉の権限を付与するという、新しい価値を生み出せることです。そこからさまざまな事業展開ができると思いました。

河瀬  ちょっとした遊び心から始まったのですが、僕らが考える鍵ロボットは完全後付型で、低コストかつ利便性が高い。これならビジネスとしてやっていけると思い、今年3月から本格的にプロジェクトを始動し、その後半年で試作品が完成しました。9月に会社を登記し、現在は一般販売に向けてセキュリティの強化や耐久性の強化などの準備を進めています。

ロボット事業に必要な「柔軟性」

――開発過程では、どのような苦労がありましたか?

川村 裕一
千葉工業大学でロボット開発や人工知能研究に取り組む。パナソニックに入社後、FAロボットのソフトウェア開発に従事しモータ制御やアプリケーション開発を行う。

川村  ハードウェアの開発の観点では、小さい装置の中にさまざまな機能を入れるのに苦労しましたね。また、開閉スピードを早めると、スマートフォンの電池を早く消費してしまうので、開閉スピードと電池の持ちのバランスをどうやって取るかも重要なポイントでした。

熊谷  セキュリティの確保も非常に苦労しました。特許申請中の内容なので詳しく語る事は出来ませんが、開閉信号の通信にBLE(Bluetoth Low Enegy)という新技術を利用しています。BLE通信においてセキュリティを担保しながら利用者の利便性を損なわないように制御するのは、非常に難しかったです。

人材の確保も大変でした。「メイカーズムーブメント」の流れが起こってはいるものの、やはりハードウェアのエンジニアは大企業に所属しているケースがほとんど。そんな中、「Akerun」を作る上で必要な、各分野のスペシャリストを集める事が出来たのは大きな強みだと考えています。

川村  僕は、パナソニックで溶接ロボット用のソフト開発をしていたのですが、「もっとクリエイティブな仕事がしたい」と思い、一人で起業するつもりで退職したんです。ちょうどその頃、前職の仲間だった熊谷から鍵ロボットの話を聞き、登記した翌日から参加することに。実用化が始まる本当にギリギリのタイミングでしたね。

熊谷  各分野のスペシャリストが集まったベンチャーだからこそ、大企業に負けない強みもたくさんあります。大手の家電メーカーなどでは、家電と一緒にソフトウェアまで作るといった発想がないことが多い。提供するサービスを考えながらのモノづくりや、ソフトからハードまでできる柔軟性が、ロボットビジネスでは特に重要です。小回りの効くベンチャーだからこそ、約半年で製品完成まで持っていけたのだと思います。

熊谷悠哉
パナソニックでスマートフォンのアプリケーション開発に従事した後、同社グループのIoTソリューションに関するプラットフォーム開発や新規事業創出を経験。

河瀬  積極的にメディアを通じて、スマートロックの可能性やIoTで実現できる社会を発信したことが奏功したようで、経済産業省管轄の大型の助成金の採択が決まっています。人との出会いに恵まれた当社ですが、事業を進めるためにはもっと幅広い人や企業を巻き込む必要があります。

小林  僕は家事代行サービスを提供する株式会社エニタイムズにも所属しています。家事代行は米国では一般的なサービスですが、日本でも約6000億円の市場に成長することが推計されています。その一方、他人に鍵を渡すことに対する心理的なハードルもあるため、今年9月から家事代行に「Akerun」を活用し、セキュリティ強化を進めているところです。

小林 奨
大学院在学中にWebエンジニアとしてIT企業に入社し、開発リーダーを担当。家事代行サービスのエニタイムズではウェブディレクターとして活躍。

人工知能搭載も検討

――今、異業種からの参入が相次ぎ、ロボットビジネスが盛り上がりを見せています。産業用ロボットとは異なる新たなロボットも生み出されていく中で、みなさんはロボットをどのように位置づけていますか?

河瀬  単に便利なだけではなく、「人間に寄り添うコンシェルジュ」だと考えています。たとえば、ご主人様が帰宅したタイミングを見計らって、タイミングよく「おかえりなさい」と言いながら鍵を開けてくれ、外出時に「今日は傘を持っていったほうがいいよ」といった文字が表示されるなど、付加する新しい機能も構想しています。人工知能の搭載もありえるかもしれません。人間の手助けをしてくれるもの。そして、意志を持つもの。この2つを兼ね備えたものがロボットだと思います。

河瀬 航大
フォトシンス代表取締役社長。筑波大学理工学群卒業後、ガイアックスに入社。事業責任者として大手企業を中心にソーシャルリスニング・マーケティングを行う。

熊谷  愛着が湧く存在であることも重要だと思います。お掃除ロボットはその好例。部屋の隅々まで綺麗にできなくても、試行錯誤しながら部屋の間取りや段差を学習している姿がなんだか可愛いですよね。そういった観点からも、お掃除ロボットはロボットだけど、掃除機は機械だと解釈しています。

渡邉  だから、ネーミングには随分迷いました。愛着が湧くようにペットのような名前を、という案も出たのですが、やはり質感やデザインにもこだわったロボットなので、格好良さもほしい。なおかつ、名前を聞けばどんな商品かをイメージできるようなもの。そして、最終的に落ち着いたのが「Akerun」だったんです。

「住宅の入り口」を抑える意味

――今後のサービス展開はどのように考えていますか?

渡邉  鍵という「住宅の入り口」をおさえることで、家電との連携など色々な可能性が見えています。ITを使って家庭内のエネルギー消費を制御するHEMS(Home Energy Management System)が急速に広がっていますが、部屋を出た瞬間に電気やエアコンが消えたらいちばん便利ですよね。

僕は環境ビジネスにも関心を持っていて、自然環境をテーマにしたハッカソンイベント「Green Hackathon」を主催しています。ここに家電メーカーやエネルギーメーカーに来てもらいながら、API公開や連携についての議論を始めています。「Akerun」をエコな世界を実現するロボットとしても打ち出し、大きなムーブメントを作っていきたいですね。

小林  遊休不動産と連携して、空室の短期貸しや会議室のレンタルを行う。不動産仲介業と連携して、内見の際の合鍵のやりとりをなくす。ホテルと連携して、レセプションから部屋の入退室、決済に至るまで、スマートフォン一つで完結させる。パッと列挙しただけでも、「Akerun」から派生する新たな事業はたくさん浮かびます。インターネットにつながっているから、アイデア次第でさまざまなサービスが展開できるんですよね。

渡辺  日本が世界と戦える市場こそIoTだと思っています。海外の方から「日本の工場はレベルが高い」と言われて改めて気づかされましたが、高い技術力を基盤とした日本のモノづくりは、やはり価格競争に巻き込まれてはいけない。ハードがソフトと紐づくことで、原価を大幅に下げられるし、新たな付加価値も提供できるようになるのですから。

河瀬  おかげさまで「Akerun」はありそうでなかった商品として、多くの反響をいただいています。僕らはこの日本発のスマートロックを携えて、日本初のIoTベンチャーとなることを目指しています。世界的な成功事例がない分野だからこそ、一つのデバイスを置くだけでさまざまな分野が紐づき、新たな市場が拓けていくのだと思うんです。

渡邉  僕らがよく話すのは、「Akerun」は半歩先の未来だ、ということです。1歩先あるいは100年先の未来は、マンガやSFの世界の夢物語になってしまいます。僕らは今を生きている人間であり、実務家でもあり、起業家でもあるので、世の中の人を半歩先のリアルな未来に連れて行くような商品を作っていきたい。その未来社会の扉を拓くのが、文字通り、この鍵ロボットだと信じています。

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