「メディアはメッセージ」 マクルーハンが予言した未来

「メディアはメッセージ」などの主張を展開し、「メディア」から社会の根底にある原理を読み解いたマクルーハン。インターネット時代を予見したようなその理論は、今なお独自の輝きを放つ。

メディア論の泰斗、マーシャル・マクルーハン(1911年~80年)。著書に『グーテンベルクの銀河系』、『メディア論』など

マーシャル・マクルーハンの名前を聞いて、「ああ、あの人」と反応できる人はもう60代より上の人かもしれない。1960年代に本格化し始めたテレビ時代に、「メディアはメッセージ」などの言葉で、メディアの本質を鋭く論を展開した著書で世界的に注目され、ニュートンやダーウィンに次ぐ偉人ともてはやされた人だ。

日本でも67年に竹村健一氏の解説書が出てテレビや広告関係者の間で一大ブームになったが、(その後、本人の論が翻訳されたものの)あまりに難解だったせいか、誰も理解できないまま数年で忘れ去られた。しかしネット時代が到来すると、米『WIRED』などの雑誌を中心に、マクルーハンの理論がテレビばかりか電子メディア全般の本質を言い当てていたと再評価する声があがるようになり、2011年には生誕100年を記念するイベントも世界各地で開催された。

「メディア」から時代を読み解く

そもそもカナダ人のマクルーハンが、当時は明確に意識されていなかった「メディア」なるものを論じるきっかけは、イギリスのケンブリッジ大学に留学して中世文学を学んだ後、帰国してからアメリカの大学で教え始めて受けたカルチャーショックだった。スーパーマーケットや派手な広告があふれ、若者の間でビートニクやロックンロールが流行るのを見てびっくりしたマクルーハンは、それをどう受け止めたらいいのかわからず、中世文学を評論するような手法でアメリカのコマーシャリズムを切って、『機械の花嫁』(51年)というアメリカ現代文明批評を書いた。それはある意味、外国人だからこそ見えたアメリカの実像だった。

彼はその後、フロイトが「無意識」という心の奥に潜む何かから人間の心理を解明したように、現代社会の奥にある規範をグーテンベルクの活版印刷による文字文化に求めた(『グーテンベルクの銀河系』、62年)。そしてさらに文字文化が、19世紀の電信から始まり、テレビに代表される電子メディア文化へと移行するという論(『メディア論』、64年)を展開し、メディアが時代を変えていくと宣言した。つまり彼は、時代の背景に潜む、人間の無意識に相当する社会を支配する原理を「メディア」だと看破したのだ。

ある時代のメディアは、その時代の持つ固有の姿に大きな影響を及ぼす。活版印刷によって大量に刷られた本による知の体系は、中世からルネッサンスへの移行を加速し、文書を中心にした法体系や学問体系による近代化をもたらし、19世紀に発明された電信は、世界中を瞬時につなぐことで、植民地の支配やグローバリズムを引き起こし近代国家の興隆を促した。まさに電信の末裔とも言うべき、インターネットというメディアの普及は、現代の個人の生活から社会生活や企業活動、はたまた国際関係にまで多大な影響を及ぼしている。

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