関あじ・関さばのブランド化 「高くても売れる」魚のつくり方

大分県漁協佐賀関支店の組合員が一本釣りで釣ったマアジ、マサバだけが、「関あじ」、「関さば」の名を冠することが認められる。ナンバーワン・ブランドは、前例のない挑戦と徹底した品質管理によって生み出された。

高級魚として重宝される「関あじ」、「関さば」。身が引き締まり、歯ごたえがよく、刺身などの形で食される

「あじ、さばと言えば?」の問いに半数以上は「関あじ」、「関さば」と言うほど全国に知れ渡っている高級魚。その名が一躍世に広がったのは1988年頃。佐賀関では魚価がなかなか上がらず、町の漁業者や漁協も厳しい状況を迎えていた。

坂井 伊智郎 大分県漁業協同組合 佐賀関支店 支店長

漁協、組合、仲買の代表で構成する「値立て委員会」での話し合いも魚価の引き上げに反映されることはなかった。「何とかこの状況を打破しなければ」と検討する中、漁協の職員が「漁協が魚を買って売りましょう」と提案。それが「関あじ・関さばのブランド化の始まり」と語るのは、大分県漁協佐賀関支店支店長の坂井伊智郎氏だ。

坂井氏によると「漁協が魚を買う」という行為は、仲買業務に進出すことでこれまでにない異例の方法だった。

経験のない販路開拓に挑む


大分県佐賀関沖の豊予海峡で、大分県漁協佐賀関支店の組合員が一本釣りでとった魚が「関あじ」、「関さば」。漁師は早朝、漁場へ向かい、伝統の一本釣りで一匹ずつ釣り上げる

前例や経験のない販売に着手した佐賀関漁協。競業となるはずの仲買4社も、経験の提供やルートの紹介などで協力を惜しまなかった。まずは巨大市場「東京」での流通を目指してキャンペーンを展開することを決定する。しかし、その会場探しは「苦労の連続」だった。さばを生で食べさせることをホテルなどの会場側は拒否。何件も交渉を試みたが会場が見つけられないでいた。

「一般的に『生き腐れ』とまで言われるさばを刺身で提供するとなると、なかなか会場を貸してくれない。東京ではそれだけさばを生で食することに抵抗があったのでしょう。やっとの思いで見つけた先は、やはり漁協グループの全国漁業協同組合連合会が管理する会館でした」

苦労しながらのキャンペーンは一定の成果を上げた。

「関あじ、関さばは、大分県佐賀関沖の豊予海峡で大分県漁業協同組合佐賀関支店の組合員が一本釣りでとったものしか認めない。徹底した品質管理をした特別な魚。自信はありました」

都内有名店での取り扱いが始まると、好景気に後押しされ消費は急拡大。出せば出すだけ高値で売れ、当時1本1万円~2万円で取引されたこともあったという。

ブランド維持に多くの努力

景気に後押しされ急拡大した「関あじ」、「関さば」。その知名度も急拡大し、誰もが知る「高級魚ブランド」として確固たるものとなる。しかし、高値で売れる「魚」として広がる中で類似品も増加した。対策として商標登録を行い、魚体一つ一つに公認のマークを付けた。水産品として初めての地域団体商標である。

しかし好景気に相まって拡大した市場も、バブル崩壊による消費低迷の煽りを受けた。「このままでは価格を保てない」と、佐賀関支店は大都市圏を中心に仕掛けていた販促を多方面に広げることを決意。各県での試食会を繰り返し行うとともに加工品の開発にも着手。また、「地産地消」と銘打って県内消費を呼び掛けるなど、多方面で努力することによりナンバーワン・ブランドを維持している。

目の前に来ている後継者問題

トップブランドとして定着した佐賀関。しかし、後継者問題は目の前に迫っている。昭和30年代の約2万6000人をピークに人口は減少。合併前(2004年10月)のデータで人口約1万2000人まで減少している。

「現在はピーク時の水揚げの約3分の1。組合員は590人と年々減少しています。1本釣り漁法は比較的高齢でもできるのですが、限界があります。若手が職業として選んでくれる仕組みをつくらなければなりません」

現在、佐賀関支店が最も力を注いているのは、「ブランドとしての信頼、信用の維持」である。消費者の信頼を維持することは容易ではない。2012年3月、その象徴ともいうべき新しい荷さばき所(総工費約16億円)が国と県の助成により完成した。新施設は水揚げした魚の洗浄、選別、梱包、出荷までの作業を行う。

「佐賀関の場合、早朝の市場に間に合わせる漁とは違い、釣った魚はその日の市場へ出荷しません。釣った魚を持ち帰り、生け簀へ入れます。漁師が釣ってから、出荷までこれまでよりもさらに徹底した品質管理を続けなければなりません」


釣った魚は、1日生け簀で寝かせることで、漁によるダメージや極度のストレスを軽減。品質管理を徹底させている

1日生け簀で寝かせることは、漁によるダメージや極度のストレスを軽減させることでもある。それにより魚体の生存率を高めることにも寄与し、ロスも減る。

「トップブランドとして品質管理は当然のことです。現在、消費者ニーズに合った商品の開発や他の商品と組み合わせたマーケティングなどに取り組んでいます。JALを利用しての『産直便』は早朝に出荷作業を行い、当日の15時には都内へ到着する鮮度を第1に考えた商品です。私たちのブランドはこれからも進化し続けます」

日本の食文化は変わりつつあり、魚の消費量は年々減少傾向にある。そうした中で、佐賀関支店は、自分たちのブランドが底上げの要因になれるよう今後も努力していく構えだ。

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

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