事業アイデアからビジネスモデルへ 理想の構想案をつくる

事業構想のサイクルにそって、前回まで「発・着・想」「未来思考」について論じた。今回は「構想案」をつくる上で最も重要な「ビジネスモデル策定」に焦点を置く。事業構想大学院大学のビジネスモデルは、事業の理想の設計図として構想の軸となる。

事業家≠事業構想家

今回のテーマ「構想案」である。このテーマを考えるにあたって、まずは事業家と事業構想家について考えてみたい。

世の中には事業家あるいは実業家と呼ばれる人が数多くいる。彼らがみな最初から明確な「事業構想」をもっていたわけではないだろう。むしろ構想なく始め、さまざまな試行錯誤と努力を重ねて(それさえなかったという人も稀にいるかもしれないが)成功をつかみとった人のほうが多いのかもしれない。

もちろんそうした方々もおおいに賞賛に値するとは思うのだが、彼らは事業家ではあっても事業構想家ではない。もとより事業家は必要である。しかしそれ以上にいま、この国に求められているのは事業を構想できる人間、すなわち事業構想家なのだと思う。ではそもそも事業構想とはなんであるか。前回までの「発・着・想」から第2段階の「構想案」へと進むには、まずこの点から明らかにする必要があるだろう。

事業構想を定義するには

たとえば「社会学」における「社会」の定義と同様に、「事業構想学」(これもまだ構想の段階)における「事業構想」の定義はそれ自身、継続的に研究されるべき大テーマだといえる。そんな難問に真正面から取り組むのはまた別の機会にゆずることとして、まずは言葉そのものに着目してみよう。本学では「事業構想」を“project design”と英訳している。事業=project、構想=designというわけである。

むろんこれには異論がある方も多いに違いないが、一つの見方であることはまちがいなかろう。ただ翻訳の常として、“project”が「事業」の、“design”が「構想」のもつニュアンスをすべて表現し尽くしているかというと必ずしもそうではない。一対一対応にはどうしても無理があるといわざるをえないのである。その点を考慮して、とくに「事業」についてもう一つ別の言葉を持ち込んでみよう。

“business”である。急いでつけ加えるが、この場合の“business”は日本語の「ビジネス」以上に幅広い意味を含んだ概念である。それを教えてくれたのは、マネジメントの大家ピーター・ドラッカーであった。彼は主著『マネジメント』(原書:Management)に“What is a business?”という節を設けながら、“business”の直接的な定義には言及せず、以下のような解説を加えている(興味深いことに、多くの翻訳書はこの場合の“business”を「企業」と訳している)。

ビジネスとはなにかを知るためには、その目的から考えなければならない。それはビジネスそれ自身の外にある。実際、企業が社会の機関であることから、ビジネスの目的も社会の中にあらねばならない。ビジネスの目的のただ一つの有効な定義、それは顧客の創造である。

To know what a business is we have to start with its purpose. Its purpose must lie outside of the business itself. In fact, it must lie in society since business enterprise is an organ of society. There is only one valid definition of business purpose: to create a customer.・・・

市場は神や自然や経済の力によって創られるのではなく、事業家によって創られるのである。

Markets are not created by God, nature, or economic forces but by businessmen.

・・・

ビジネスとは何かを決めるのは顧客である。 顧客だけが、商品やサービスに対する支払いの意思によって、経済的資源を富に変え、物を商品にかえる。

It is the customer who determines what a business is. It is the customer alone whose willingness to pay for a good or for a service converts economic resources into wealth, things into goods.

ここにはより深く広い意味でのビジネスの定義がある。ビジネスは社会の中で顧客を創造し、一方で顧客によって決められるものである。少し矛盾しているように感じられるが、社会と顧客の間でいきもののように変化する姿こそが正しいビジネスの姿である。そして社会と顧客の間でただビジネスをつくるだけでなく、その変化をふまえてビジネスのあり方そのものをデザインすること、これが事業構想である。構想案とはここで構想された事業の設計図であり、より分かりやすくいえばビジネスモデルであるともいえるのではないだろうか。

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