医療・介護の統合による成長戦略の構築を

(左から)岡本義行教授(法政大学大学院政策創造研究科長)、東英弥理事長(事業構想大学院大学)、清成忠男学長(事業構想大学院大学)、菅義偉・官房長官、岩尾聡士教授(名古屋大学大学院・藤田保健衛生大学)

清成学長が菅官房長官に提言書を提出

世界に先駆けて人口減少・超高齢社会を迎えている日本。今後、労働力の深刻な減少など、他国がいまだ経験したことがない課題に直面することになる。

こうした課題の解決に向けて、地域福祉社会研究会(座長:清成忠男事業構想大学院大学学長・元法政大学総長)は、医療と介護の統合サービスによる産業化や成長戦略についての研究を行っており、このほど、提言書を取りまとめた。5月29日には、菅義偉・官房長官に提言書を提出。清成学長のほか、岩尾聡士教授(名古屋大学大学院・藤田保健衛生大学)、岡本義行教授(法政大学大学院政策創造研究科長)、東英弥理事長(事業構想大学院大学)が同席し、菅官房長官に医療・介護分野の改革の必要性を訴えた。

清成学長は、提言書について「現実に展開されている医療・介護事業の経験を踏まえたもの」であることを強調。提言書は、岩尾教授が中心となり行っている「高齢者を街全体で看守る」実証モデルの成果を反映し、取りまとめられた。

岩尾教授は中部地域において、医療・看護・介護の専門的技術を持ったスタッフのいる施設を核に、医療機関、介護事業所をシームレスにつなぎ、質の高い医療を効率的に提供する仕組みを実践している。岩尾教授は、「今後、日本では特に75歳以上の後期高齢者が増える。他国でも高齢化は進んでいるものの、75歳以上の高齢者が増えるのは日本だけ。そのエビデンスは、日本でしかとれない。医療・介護の新たなビジネスモデルを日本が確立できれば、世界に輸出することができる」と語る。

今回、政府に提言した内容は、主に以下の9つ。

(1)「地域包括ケアシステム」の抜本的見直し

市町村単位の地域間格差は拡大し、先行きは不透明。地域包括ケアシステムは事務局体制、自己責任が不明確で組織としても不完全であり、早急に見直すべき。

(2)ヘルスケア・サービスの早急な「産業化」

日本版IHN(Integrated Healthcare Network:統合ヘルスケアネットワーク)の構築により、ヘルスケア・サービスを早急に産業化することが必要。

(3)地域レベルで医療・介護のシームレスな統合

医療・介護の統合事業者(インテグレータ)は、大学病院が望ましい。ただし、国立大学法人の病院を中心とした再編は、現時点において非実的。

(4)医療・介護事業を統合したチェーン・オペレーションの展開

私立大学病院や地域中核病院が中心となり、チェーン・オペレーションを展開する。

(5)医療機関の再編促進

急性期ベッドを維持できない病院を転換・再編・統合し、高齢者住宅、介護施設の間接部門を一元管理することで、投資の無駄を省き効率化を図る。同時に、再編に必要な投資に対して税制上の優遇措置(損金算入等)が有効。

(6)集合住宅に対する在宅診療に関する規制の改革

2014年度診療報酬改定で、集合住宅への在宅医療報酬が4分の3削減され、適正に診療を行っている医療機関の意欲を喪失させている。抜本的改革が必要。

(7)分散・自立型介護ベンチャーの活用

介護施設は大規模経営への統合でなく、分散型の独立介護ベンチャーを活用する。

(8)ICTインフラの整備促進

患者および関連事業の情報につき、ITインフラの整備を進める。

(9)多様な関連人財の質的向上をはかるため、人財育成システム整備する

生産性の向上をはかるため、経営人財および各種専門人財の育成を進めるとともに、職種 連携の円滑化を図る教育訓練を行う。

 

こうした施策により、最終的には医療産業クラスターの形成を促し、生活関連ビジネス(配食、洗濯、掃除等)への波及効果が期待できる。

提言書によると、ヘルスケア・サービスは、2030年には就業者数で900万人を上回り、売上高も約160兆円に達する見込み。清成学長は、「日本は人口減少率と高齢化比率で、世界最先端の位置にある。医療・介護の効率化、質的向上をはかるためには、この分野の『産業化』を進める必要がある」と語った。

 

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