飽和状態から目的志向へ

アメリカが先行し、世界的なスタートアップも生みだしたコワーキングスペースだが、日本も負けてはいない。皮切りは2010年の神戸、直後に東京。そしてここ2~3年で一気に全国で300近いスペースが生まれている。その中心は渋谷だ。

日本のコワーキングスペースは、アメリカからの輸入型で始まったのだろうか。「概念的には確かに輸入型かと思います」と話すのは、自らコワーキングスペースの監修にも携わる山下正太郎氏(コクヨファニチャー、WORKSIGHT編集長)だ。

当初の日本のコワーキングスペースの姿勢は、「主にフリーランス同士が、悩みを共有したり、一緒に楽しく働けたら良い、というコミュニティ重視」(山下氏)のもの。入居者は、オーナーの人脈や人的魅力を核として集まってくる形だ。

目的志向へと発展を遂げたコワーキングスペースの類型

コクヨファニチャー 山下正太郎(WORKSIGHT編集長)

山下氏によれば、現在日本のコワーキングスペースは大きく(1)ワークパーティー型、(2)ビジネスサロン型、(3)インキュベーション型、(4)ソーシャルイシュー型、の4つのタイプに分けられるのではないかと分析している。

(1)が創成期のコミュニティ重視型、(2)は主に企業勤務のビジネスパーソンを対象に自己啓発や新しいビジネスマッチングを提供する型、(3)は企業出資により、VCなどが投資・買収先、パートナーとしてスタートアップの囲い込みを狙う、また社会貢献活動として起業家の活動を支援する型、(4)が最近増えてきた社会や地域課題の解決を目指す型だ。

「すでに、立地やサービスだけを売りとしたコワーキングスペースが閉店に追い込まれるケースも出てきています。そうした中で、従来のコワーキングスペースの発展型として、目的志向、テーマ性を持った方向が生まれてきています。ものづくりをテーマにした渋谷のco-labや、先にあげた分類では(4)に属するような社会起業、育児、NPOの活動を対象としたものなど。もちろん、特定のテーマを持たない所でも中心となる人物や利用者に魅力があるスペースには人が集まり続けています」(山下氏)。

分類(2)の企業出資では、昨年4月にオープンしたサイバーエージェント・ベンチャーズが手掛けるSTARTUP Base Campのように、安くスタートアップやクリエイターが入居して、お互いWINWINの関係を築き、企業側は継続的なパートナーシップを組んだり、生まれたビジネスアイデアを買収するなど、自社ビジネスに活かすケースがある。

現在、渋谷区に30カ所以上、全国で300近い数のコワーキングスペースが生まれ、日本もコワーキングスペースの発展期の最初のピークを迎えつつある。渋谷に集中する理由は、古くからビットバレーなどIT企業の集積地、ファッション、デザイン関連のクリエーターが集中している土壌があげられるだろう。とりわけものづくり関連は顕著で、co-lab、Fabcafe、CUBE、渋谷図工室(3月オープン)などが注目を集め、日本版MAKERS革命と言ってもよいような動きも生まれてきている。こうした流れから、インスタグラムのようなイノベーションも飛び出すのだろうか。「ビジネスイノベーションの側面を期待しすぎると、コワーキングの本質を見誤ります。人が集まって関係性を築くのが本来の魅力。この点に磨きをかけ、普段からビジネスチャンスに備える必要があります。最近では、ホテルとコワーキングスペースのパッケージが増え、有意義なビジネストリップを提供しています。地方都市で新しくスペースができることで、埋もれていたクリエイティブな人材が可視化されるということも」(山下氏)。

つまり、日本のコワーキングスペースは、見落としていた構築可能な「関係性」の発掘にこそその果たすべき役割がある、と見てよいだろう。

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